fbpx
メディアグランプリ

天然の鯛が養殖よりも美味しいのは、天然だから


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

 
記事:下山員須子(ライティングゼミ平日コース)
 
数年前のある日、小学5年生の娘が、小学校から帰ってきて嬉しそうにこう聞いた。
 
「ママ。私は天然なんだって。天然って誉め言葉よね? だって、タイも、養殖よりも天然の方が美味しいもんね」
 
正解です。もちろん、養殖より天然の方が美味しいよ。
 
いや違う! 誉め言葉じゃないから! 天然は誉め言葉じゃない。ぼけっとしてるとか、そういう感じの意味だから、喜んじゃダメ! だと、娘に言ってしまった。
 
確かにうちの娘は、ぼーっとしてることが多く、話を聞いているようで聞いていない。そして聞いていたとしても、なんか違う意味に取っている。そして悪口を言われても、よくわかんないという顔で普通に笑って話をしている。「おはよう」と毎朝挨拶しても、無視してくる子にも毎朝「おはよう」と言う。そして笑っている。お友達が娘の事を「天然」と呼ぶのは、わからんこともない。
 
小学校2年生の時、下級生のお母さんが、家に娘の苦情を言いにやってきた。
そこのお子さんとはウマが合わなっかったようで、その子に意地悪をしたようだ。
我が子の肩を持つが、まだ明確に善悪の判断がつく年頃ではない。似たようなことはどの子もしている。
他の子が同じことをしても、うちにだけまた文句を言いに来た。
我が子の肩を持つが、相手の子はうちの子を悪者にすれば自分の母親が納得するのがわかってやっている様だった。
 
三度目には、嘘つき呼ばわりされて、さすがに私も反論し縁を切った。「ご迷惑をかけるから、うちの子とはもう付き合ってくれなくていいですよ。あなたはあなたの子を信じればいい。私は私の子を信じるから」と。
 
それから私の娘は、私のいいつけを信じて、守って、できるだけ悪口を外では言わないようになった。自分の行動で母親が責められるから。日が経つにつれて私にも言わなくなった。悪口を言う子は悪い子だから。悪口を言っている時の顔は不細工だからと、私が言ったから。嫌な言葉は、笑って流すようになった。私は、強い子に育ってきているのだと思った。
 
中学に入ってしばらくすると、娘はマスクで顔を隠し、リストカットを始めた。夏でも長袖の制服を着て、黙々と学校に通った。そして、自分の気持ちを友達にも親にも言う術を知らず、内にため込み、引きこもりだした。
 
私は扉を無理やりこじ開けて、娘を抱きしめて反省した。
娘が「死にたい」と言ったから、私は「ママも一緒に死ぬ」と言った。「あなたがいないと、ママには生きる意味がないから」と。
娘は死なず、ひきこもりもせず、また学校に通い始めた。
 
それから、少しずつ話をしてくれるようになった。私もそれまでは忙しさからあまり娘の話を聞いてやらなかったが、聞くように心掛けた。
 
「言わなくても伝わる」わけがない。言わなければ何も伝わらない。親子だろうが、夫婦だろうが、友達だろうが。至極当たり前のことに今更ながら気づいた。
うすうす気づきながらも、私は娘が言ってくるのを待ってしまっていたのだ。待つだけではダメだったのに。強い子に育っていると思おうとして、娘のことを見ようとしなかったのだ。見続けなくてはいけなかったのに。
 
小学校の頃、一部の友達にいじめられていたこと。でも、クラスは違うが一人仲の良い子がいてくれたから頑張れたこと。毎朝挨拶しても無視されたけど、最後は向こうが諦めたのか、卒業間際には「おはよう」と返してきたこと。
中学では、不登校の子にメールを送って、学校においでと誘ってみたこと。嫌なことをする友達に、「やめてほしい」と言ったこと。友達とけんかしたこと。でも仲たがいしてしまったこと。
娘は、自分なりに頑張った武勇伝を聞かせてくれた。
まだまだ私にすべてを言ってくれるわけではないが、私の聞く姿勢があること、見守っていることをわかってくれているので、私たち親子は、きっと大丈夫。
 
養殖の魚は、管理された環境で、苦労もなく餌を手に入れる。快適な環境の中、作り手の予想通りに成長する。
天然の魚は、過酷な環境で自力で餌を摂る。サイズもマチマチで、規格に合いにくい。傷だらけのものもある。
 
でも、だからこそ美味しいのだよ。強い波で身も引き締まる。体が小さくても、波に流されながらも、自分で餌を捕ることを覚えたんだから。
 
本当はもっと早くにママが守ってあげなくてはならなかったのに、ひとりで頑張ったあなたは、偉いんだよ。だから、あなたは天然でいいんだよ。
きつい波に流されながら、大海原でこれからも迷いながら悩みながら泳いで行けるんだよ。
そして、今日も、白い半袖の制服を着て、友達と大声で笑い、泣いて、試験嫌だよと叫びながら教室で騒いでいいんだよ。大学どこ受けようかと、未来に迷っていいんだよ。毎日が楽しいのは、言いたいことを言えるのは、これから先のことを悩めるのは、すべて今までのあなたの努力の結果なんだから。 
 
「天然」は誉め言葉なんだよ。
 
***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜選べる特別講座2講座(90分×2コマ)《11/5まで早期特典有り!》

天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】
天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。



2017-11-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事