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メディアグランプリ

嫁だけが働く世界から脱出


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:Minami(ライティングゼミ平日コース)

「ふざけんなっ、二人とも働け」

結婚から半年、私は泣き叫んでいた。

 

結婚式のとき、夫は無職だった。正確には結婚を機に一旗揚げようと夫が取引会社から誘いを受け転職したものの、わずか3ヵ月で辞めた。夫が会社を辞めたことがわかった私の両親は、「稼がせるために嫁に出すわけじゃない」と猛反対した。若さゆえか愛か、私は嫁に行った。姑と夫、そして私の暮らしが始まった。

 

家と車のローンがあり、生活費もある。姑の遺族年金だけでは暮らしていけない。

「お金を稼がなきゃ」と私は焦り派遣会社に登録に行き、嫁いで4日目から働き始めた。夫はすぐに就職先が決まると思っていたが、決まらなかった。私はまた焦り「お金が足りない、土日も働かなきゃ」と仕事を増やした。姑は家事をいっさい引き受けてくれ、私ははたらくお嫁様になった。

 

心の中で「今だけ」とつぶやきながら日々を過ごした。朝、ベッドで寝ている夫を横目に私は身支度を整える。夫は昼頃起きて、ご飯を食べて履歴書を書き、面接に行く生活になった。不合格が続き、イライラしはじめる夫を励ますことも私の役割になった。新しい環境、新しい仕事、夫の就職活動と体験したことのないことが続き、私は疲れていった。

 

きっかけは姑の美容院だった。夫が面接を受けた会社から合否の電話がかかってくるかもしれないという日と姑の美容院の予約と重なった。「明日は美容院だから」と当たり前のように言う姑と夫が言い争いになった。

 

親子喧嘩だが、夫も姑も馬鹿に見えた。

気づけば「ふざけんなっ、二人とも働け」と怒鳴っていた。

 

私は嫁だ。家庭を守るために働くことは嫌じゃなかったし、むしろ守りたかった。環境が明らかに変わり半年経っているのに暮らしぶりを変えない夫と姑の二人に腹を立てていた。私はこの世界から抜け出したい、本気でそう思った。

 

翌日、夫は夜間の荷物詰めのアルバイトを見つけ働き始め、

姑は駅前の立食い蕎麦屋の面接に行ったが、不合格だった。

 

私は土日の仕事を辞め、久しぶりに親友に会った。

彼女は「疲れてるね、だいじょうぶ?」と私を見るなりそう言った。

 

「結婚式に行けなかったらこれ」とご祝儀をくれた。「もらえないよ」と言いながらも、内心は「お金だ、助かる」と喜ぶ自分が情けない。2歳の子供がいた彼女は「働きたいなぁ、自分の人生だもんね。この子が小学生になったら働きたいなぁ」と言っていた。

 

駅からの帰り道、空を見上げると満月だった。

きれいなまんまるのお月さまだった。涙がツーと頬をつたった。

 

「自分の人生だもんね、自分の居場所を見つけよう」と、お月さまに誓った。

 

派遣会社からのお便りに「マナー講師養成講座」のチラシが入っているのを見つけた。

詳しい仕事はよくわからなかったが、月に2~3日登壇すれば1ヶ月分ぐらいの収入になるという。今の私にはお金が必要だ。年齢を重ねても続けられるこの仕事に飛びついた。

 

派遣先の課長に、これまでの事情とこれからの希望を素直に話し、休む許可をもらい、

独身時代の貯金を切り崩し、5日間で128,000円の講座料を払った。

 

自分の居場所を見つけるための準備は整った。

 

講座の参加者は30名位いた。派遣会社の登録講師になれば、仕事がもらえるという理由から、プロ講師の人も多数混ざっていた。厳しい世界のようだが、こちらも、虎の子の128,000円をムダにはできない。研修アシスタントの権利がもらえる最終日のプレゼンテーションに向かい、持っている力のすべてを出し尽くした。

 

「結果は夜8時までに自宅に電話をします」と言われたが、夜の10時を過ぎても電話はかかってこなかった。翌日、担当者に電話をしたら「難しいですね」と言われ、静かに受話器を置いた。惨敗だった。

 

惨敗戦から1ヶ月後、求人雑誌で正社員の講師募集の小さな記事があった。電話をかけると「明日、20分間のインストラクションをしてください」と言われた。ラストチャンスだ。徹夜で資料を作り面接に臨んだ。

 

結果はまたも不採用だった。

夫の就職は決まっていない。姑は相変わらず月に1度美容院に行っている。

私は「講師の仕事は無理だったんだ、やっぱり土日も働かなきゃ」と現実に引き戻され、すっかり弱気になった。

 

悶々としながら派遣の3ヶ月更新を終えた頃、社員で応募した会社から「派遣で秘書のお仕事がありますがどうですか?」と電話をもらった。講師部の他に派遣部もあり、秘書経験があった私に声をかけてくれた。

 

3ヵ月の派遣更新をしてしまったあとだ。

「この会社に入れば、いつかは講師の道に近づけるよ、断ったらもう二度とそのチャンスはこないよ、派遣先に更新を断っちゃえばいいじゃない」と私の中の悪魔が囁いた。迷って悩んだ挙句「3ヶ月間は更新したので4月からでしたら伺えます」と答えた。

 

しかし4月、私は念願の教育部署に講師見習いとして入社した。

責任者が「未経験でも私を育てる」と引き取ってくれたのだ。責任者に決め手を尋ねると「更新したので伺えない」と約束を守る姿勢と言われた。この会社に入って1か月後、夫の就職先も決まった。

 

自分の居場所が見つかった。

21年経った今、講師の仕事は、お金以上のプライスレスな経験をさせてくれる。うちの契約講師の平均年齢は48.2歳。定年なんてないから、まだまだみんな働ける。子供がいても、介護があっても、夫がリストラにあっても、細く長くでも、自分らしく輝き、働ける場所がある。

 

仲間とともに一生涯、働き続けられる居場所を見つけた。

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2017-11-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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