もう一つの人生を間近でみるということは
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:菊地優美(ライティング・ゼミ日曜コース)
「あなたたちは1つの運を2人で分け合うか、全く別の人生を歩むか、どっちかしかないのよ」
と、占い師は言った。
姉と二人で横浜中華街に行った時のことだ。姉といっても、私たちに年齢の差はない。
生年月日も顔も全くいっしょ。私たちはいわゆる、一卵性双生児なのだ。
これまでの人生でよく、
「双子ってどんな感じなの?」
と聞かれてきた。
そのたびに返答に困った。
だから
「同級生が家にいるって感じかなー」とか「友達が家にいるみたいかな」と答えていた。
実際はそんな簡単に表現できる気持ちでもなかったので、適当に答えていただけだった。
そもそも、私は小さいころ、私と姉が別の人間であると認識していなかった。自分がもう一人いる、くらいの感覚であったように思う。
私と姉はおもちゃも洋服も、なんでも一緒にしていた。だから家には同じものが常に二つずつあった。
それがどうやらおかしいらしい、と気が付いたのは小学校中学年の頃だった。
ある日いきなり、女子のボスみたいな子に
「おんなじ恰好して、おんなじものを持ち歩いているなんて、おっかしいの~」
とからかわれたのだ。
そうか、おんなじにしてるって変なんだ。
おんなじが当たり前だったから、そんなこと、考えたこともなかった。
おんなじっておかしくって恥ずかしいんだ、と初めて知った。
その時から、私は姉と別々の人間なんだと意識して暮らし始めたように思う。
姉も同じからかわれ方をしたようで、私たちはお互いを意識しながらも別々の趣味趣向を持ち始めていくようになった。
そして、お互いを別の人間だと認識し始めた私たちに、厄介な問題が起き始めた。
同じ遺伝子を持った人間が、自分とは常に別の選択をしていく。
すると、なぜか自分が選んだものより、そちらのほうが魅力的に見えてしまうのである。
例えば部活動。私は登山部、姉は吹奏楽部を選んだ。
登山部ももちろん楽しかったが、姉が楽しそうにフルートを吹いているのを見ると、なぜかそちらの方が楽しそうに見えた。
洋服もそうだった。私が選んで購入したものより、姉が選んできているものの方がずっとセンスよくかわいく見える。
高校の学部も理系と文系で別れたけれど、姉の勉強していることの方が、私が学んでいることよりずっとおもしろそうだった。
すべて自分が納得して選んだはずなのに、なぜか姉が選んだものの方がよく見える。
「隣の芝は青く見える」ということわざがあるが、まさにそれだった。
そんなわけで、この横浜の占い師に
「1つの運を2人で分け合うか、全く別の人生を歩むか、どっちかしかない」
と言われたときに、わたしの心はえぐられたのだった。
隣の芝が青く見えないようにするために、1つのものを分け合うか、全く相手を見ないで生きていくか。なるほど、これなら選ばなかった選択肢を間近でみることで後悔することもない。
私は、私は……
「ふーん、そうなんですか。じゃ、私たちは2つの運を1つにして、人の2倍の運を使って生きていきます。そんで、人の2倍色んな事選んで生きていきますね」
姉は占い師にさらりとこう切り返したのだった。
なるほど、そんな選択肢があったなんて。
思わず姉の顔を覗き込んだ。そこには相変わらず私と同じ顔が付いていた。
2人の運を合わせれば、確かに2倍だ。そして選択肢も2倍に広がる。
私には、運勢のことなんてさっぱりわからないけど、1つを分け合うっていう表現より、2つの運を合わせて生きていくっていう選択肢のほうがずっと素敵に思えた。私には思いつかない発想だった。
姉はいつでもそうだった。私にはない柔軟な発想で物事をとらえることができるのだ。
同じ顔をして、同じ遺伝子を持っているのに。
「やっぱり、さっちゃんはすごいね」
帰り道、姉にこう話しかけると、意外な答えが返ってきた。
「いやでも、わたし、いつもまあちゃんが選んだことのほうがうらやましかったりするから。でもそんなときは、自分が選んだかもしれない人生を覗けてるって思うようにしてるんだ。だってそのほうが、人生の幅が広がる気がして楽しいじゃない」
思えば、こんなに近くで自分に起きたかもしれない人生をのぞけるチャンスもそうないのだ。姉も私も別の人間だけど、やっぱり似ている。だからこそ、面白い。
この占い師の一件から、「双子ってどんなかんじなの?」と聞かれた際は、こう答えるようにしている。
「自分のもう一つの人生を間近で見れているような感じで、なかなか楽しいよ」と。
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