真剣勝負の夜
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:あらかわひとみ(ライティングゼミ平日コース)
「私の伝えたいことは3つあります」
3分間のプレゼンは、この言葉で始まった。
3分間の中にどんな想いを込めるのか、スライドの前で、少しは緊張している私がいた。
でも、目の前の人の顔が見えていた。呼吸も落ち着いていた。
「よし、大丈夫!」
プレゼンは、初めてではなかった。だが、今回は今までとは違う私がいた。
原稿は持っていなかった。マイクだけを握っていた。自信があった。
なぜなら、何度も何度も練習をしてきたという自負があったからだ。
プレゼンは初めてじゃない。でも、今までは練習なんてやらなかった。
人前で話をすることには、自信がある。その場をアドリブでこなすことにも、自信があった。だから、いつも練習もリハーサルもやったことがない。
原稿を作っていても、事前にチェックをもらっていても、話し出すと全く別の言葉が口から出る。自分の言葉に酔いながら、自分の話したいことを伝えていた。いや、伝えている気になっていたというのが正しい。自分が気に入った「言葉」を並べていた。四字熟語を得意げに盛り込んでみたこともあった。
ずいぶんと自信過剰な人間だったと、今はそう思う。
だが、今回は違った。
今回のプレゼンは、通い始めた講座の最終課題だった。
今回の講師からは、こんなメッセージが届いていた。
「人生は毎日がオーディション! 一回限りの真剣勝負です」
確かにその通りだと、今回は不思議と素直にそう感じることができた。
自分の好きなことを仕事にしたいと思って通い始めた講座だからなのか、今までの課題で、自分の歴史を振り返ったからなのか、明日死んでも後悔しないことを考えろと言われたからなのか……
はっきりとした理由はわからないけれど、今ならできるような気がしたのは事実だった。
最終発表の日まで、与えられた時間は5日間
パワーポイントでのスライド作りも、初めての経験だった。
講師の事前チェックをもらうためには、すぐに取り掛かる必要があった。
とにかく時間との闘い、かつ、自分の想いをはっきりさせることとの勝負だ。
当日のスライドの内容のアドバイスは、3つあった。
目次を作る、文字を詰め込まない、ビジュアルを工夫する
書き込みたい癖がある私には、ハードルが高いアドバイスだった。
書かないと伝わらない、言葉を重ねないと伝わらない、ずっとそう思っていた。写真やイラストよりも文字で伝えたい、自分目線でしか考えることができていなかった。
伝える相手の目線になって考えること、今までそのことを忘れていたことに気づいたのだ。
与えられた時間の配分を考えるためのスライドの枚数のアドバイスにそって、3分間の構成を考えてみた。1枚のスライドで語る時間は、1分~1分30秒、3分間だと3枚から6枚になる。話の構成もそれに合わせて考えることができる。
今回は3つの構成を考えた。
- 投げかけ、伝えたいメッセージへの導入、つかみ
- 具体論、実績、経験
- 結論とオチ
私が伝えたかったのは、自分の講座のこと。
だから、タイトルには、強く興味を引かれる言葉を持ってくることにした。そして、私がそのコンテンツに入ったきっかけ、実際に得たもの、最後の結論は、講座紹介をすることにした。
構成が決まった!
さぁ、キーワードを出す作業だ。
つかみは、何にする?
興味を持ってくれること、それは共感を呼べる体験だろうと考えた。
講座の参加者の顔を思い浮かべてみる。
年齢は……若くはないな。
男女比は……女性が多い。
どんな家庭状況だろう?
どんなことに悩んでいて、この講座にきているのだろう?
よし、決めた!
きっかけは息子の結婚、その背景は夫婦喧嘩、夫婦の仲の悪さ、その時の私の感情を話す。
そして、そこから講師になるためにとった行動、行動して得たこと。
まとめは、体験と講座の紹介。
スライドは、なるべくキーワードだけにした。
文字を大きくした。
話す内容は、説明をはぶいた。私の感情ではなく、事実を組み込む内容にした。
体験は、他の人にも役立つことを選んだ。
よし、ここまで完成!
この時点で残された時間は1日半、昼間は仕事がある。練習できるのは夜しかない。
私がタイマーを片手に練習を始めたのは、講座前日の夜10時。
家の中で会場をイメージする。
目の前に座っている受講生の顔をイメージする。
原稿に目を落とすことはしないと決めていた。
どこで抑揚をつけるのか。
一番共感を呼べる言葉はどれか。
一番伝えたいことはまとまっているのか。
体験の伝え方はスムーズにできているのか。
何度も、何度も、繰り返してみる。
スライドに合わせて時間をはかってみる。
最初の練習、タイマーのカウントは5分!
2分削る?
いやー、無理だ!
じゃぁ、どうする?
あきらめるのか?
ギブアップするのか?
そんなわけにはいかない!
だって、こう言われたじゃないか。
「人生は毎日がオーディション! 一回限りの真剣勝負です」
そうだ、人生は毎日がオーディション!
受ける前にあきらめてどうする。
また何度も何度も繰り返す。
気が付くと、新聞配達のバイクの音が聞こえる時間になっていた。
この時、ようやくタイマーのカウントは、3分02秒!
練習なんてやらなかった私が、本気の真剣勝負に臨んだ結果、当日のプレゼンでのフィードバックは、予想以上に嬉しい感想をもらうことができた。
「想い」は人を動かす力を生みだす。
「行動」は他者の想いを動かす力を生みだす。
チョー気持ちいい!
プレゼンの3分間を終えて、何処かで聞いたようなセリフでガッツポーズをしたと同時に、眠いの一言もつぶやいた私だった。
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