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12万かけてわかった、私のおっぱいの扱いづらい個性


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:あさみ(ライティング・ゼミ書塾)
 
 

「ちょっとおっぱい見るから出して~」
この衝撃的な一言を言われたのは、妊娠8か月の検診の後だった。
 
「ちょっとおっぱい見る」ってどういう状況!?
戸惑っていると、助産師さんは私に続ける。
「おっぱいには個性があって、赤ちゃんにお乳をあげやすいおっぱいと、頑張らないといけないおっぱいがあるのよ。事前にわかっておけば準備ができるからね」
「大きさってことですか?」
「大きさはあまり関係ないの。大事なのは乳首」
 
おっぱいに個性が。
初めて知る事実だった。
大きい小さいの単純比較では語れない豊かな個性がおっぱいにはあるようだ。
わかったようなわからないような気持ちのまま、言われるままに前をはだける。
 
これが初めての“おっぱいを堂々と人前にさらす出来事”だったが、出産後これは当たり前の光景となる。
 
出産後、入院中の部屋で横になっていると助産師さんが入ってきてまた例の一言を私にかける。
「ちょっとおっぱい見るから出して~」
そして、私の乳首を親指と人差し指できゅーっとつまみ、
「うんうん、けっこう開通してきたね~。いいおっぱい出てきてる」
とニコニコ。カルテに何やら記入する。
“開通”が何かも、“いいおっぱい”が何かも当時の私にはよくわからない。
カルテにはまあるい円がふたつ。私のおっぱいの状況を左右細かく丁寧にメモしているようだ。すごい個人情報を提供している気分になる。
 
それは、めくるめくおっぱいの世界の幕開けだった。
こんなにおっぱいについて深く考えたのは初めてだった。
あまりにも当たり前にそこにあり、あまりにも知らなかったおっぱいの世界について、初めて知ったことを書き留めてみる。
全て素人の私の経験や助産師さんの話を記憶している情報なので、医学的に正しいかどうかはさておいて、おっぱいワールドにダイブしていただけたら幸いだ。
 
 
1. 乳首には個性がある
乳首のかたちは十人十色。うまく吸いやすい乳首と吸いづらい乳首があるようだ。
いい乳首とは、哺乳瓶と同じようなかたちの乳首らしい。
「あんなにピンととがった乳首ってあるの?」と思っていたが、なんと、乳首は進化する。赤ちゃんに吸われるうちに柔らかくなり、びよーんと伸びるようになるのだ。
いろんな助産師さんにおっぱいチェックをしてもらったが、「かわいらしい乳頭」「なだらかだね」「まだ固いね」などのコメントから察するに、どうやら私の乳首はちょっとやっかいな乳首らしかった。
柔らかくびよーんと伸びてくわえやすくするためにマッサージをする必要がある。
乳首が大きくて赤ちゃんが上手にくわえられない人は親子ともに練習が必要だし、乳首が平らでくわえづらい人は補助器具をつけて授乳をすることもある。
個性にあわせた授乳スタイルがあるのだ。
 
2. 母乳は数か所からぴゅーと出る
これは私の勝手なイメージだが、母乳は乳首の真ん中から1筋まっすぐに出るものだと思っていた。
実際には、母乳がでる乳腺は1本ではなく、数か所から四方八方にぴゅーと出る。最初は母乳が出る腺は少ないが、授乳をしているうちにどんどん乳が出る腺や量が増えていく。これを「開通」という。
私が助産師さんに言われた「けっこう開通してきたね~」というのは母乳が出る腺が増えてきたね、という意味だったのだ。
 
3.乳首は傷だらけになる
出産時の入院の準備物に「乳首を保護する塗り薬」というものがあった。
助産師さんに何か聞くと「乳首が傷だらけになるからあったら安心だよ」と怖いことを言われた。実際、私の乳首は傷だらけになり、この薬は手放せないものになった。
赤子が乳首に吸い付く力はものすごい。そして乳首も初めてのことでヨワヨワだし、赤ちゃんも私もお互い授乳初心者なので、心地よい体制もなかなか見つからず、乳首にはすぐ傷ができる。くわえられるたびに「くっ!」と小さい声が出るほど。毎度痛みをこらえて授乳をした。
授乳室に来ているほかのお母さんたちからも「くっ!」とか「つっ!」という声はよく聞こえた。初めて授乳する人はよく通る道らしい。
 
4. おっぱいは石のように固くなる
おっぱいは詰まることがある。世にも恐ろしい乳腺炎だ。母乳の脂肪が小さな固まりになったり、おっぱいが作られすぎてたまったりすると、細い乳腺の中で外にでられない母乳が炎症を起こし、しこりができ、石のように固くなる。
とにかく痛い。真っ赤にはれて痛くて痛くて仕方がない。熱も出る。医学的な原理は違うのかもしれないけれど、男性陣は尿管結石をイメージしてほしい。
どうやって治すかというと、寝っ転がって助産師さんに乳首をマッサージをしてもらい、詰まっている母乳を外に出し、もう一度乳腺を開通させるのだ。
私のおっぱいは詰まりやすかった。何度も詰まった。詰まるたびに母乳外来に駆け込み、おっぱいマッサージをしてもらう。
このマッサージがまた激痛で。乳首をほぐされながら涙をこらえて頑張った。詰まった小さなカスを無理やり外に出すのだから痛いのは当然だ。
キャベツで冷やすと痛みがやわらぐと聞き、冷蔵庫にはいつもキャベツを常備していた。乳房にキャベツを張り付ける姿を想像しても笑わないでほしい。こちらとしては必死なのだ。
正直、私は出産よりも、乳腺炎のほうが痛かった。
 
5. おっぱいは母親を狂わせる
赤子に乳をあげても痛い。でも乳をあげないとまた詰まる。どちらにしても痛い。
私はこのじゃじゃ馬のおっぱいに翻弄され、心が折れそうだった。
そしてさらに私を追い詰めたのはいわゆる「母乳神話」である。
おっぱいの痛みで検索魔になっていた私は、ネットでたくさんの「母乳で育てないとダメ!」「ミルクは敵!」という記事を読んだ。“愛情が”とか“栄養が”とかそんな話はおおむね気にしなかったが「ミルクで育てると肥満体質になる」という情報だけ、ぽっちゃり体質の私の心にグサっとささってしまった。それを否定する記事もあり科学的根拠は乏しいと思ったが、娘が私のようにぽっちゃりになるとかわいそう、その一心で、痛みをこらえ、1時間おきにでもおっぱいをあげていた。
そうすると、私の1日はおっぱいをやるだけで終わる。その他のことは一切できないのだ。痛みと闘い、マッサージに通い、寝不足で体力もなくなり、涙とともに気力も奪われていく。
私の顔はおかしかったのだと思う。見かねた友達に「肥満って、その後の食生活のほうが関係してくるんじゃないの? もっと複合的な原因があるでしょ。私ミルクで育ったけど別に肥満じゃないよ」と言われてようやくハッとした。
母乳にこだわりすぎないと決めたとき、私はようやくおっぱい意外に思考がめぐらせられるようになったのだ。
 
産前に「完全母乳でいきたいか、ミルクと混合育児をしたいか」という希望を聞かれたとき、「特にこだわりはありません~楽なほうで~」なんてのんきに答えていた私が、まさかこんなにおっぱいの沼にはまってしまうとは自分がいちばん驚いた。産後の精神状態は未知数なのである。
おっぱいのしこりは心のしこりとも言うらしい。ストレスをためないのが母のためにも子のためにもいちばん大事だと痛感した。
 
 
以上が私が産後に初めて出会ったおっぱいの世界。
赤子に乳をやること。
みんないとも簡単にやっているように見えていたが、おっぱいの数だけ個性があり、ドラマがある。
私のおっぱいは、個性が強く、飲みづらい形の上に詰まりやすいヤツだった。
薬を飲んだり漢方を試したりマッサージに通ったり。「母乳育児のいいところはお金がかからないところ」とも聞いていたが、結局私はおっぱいケアにトータル12万円もつかっていた。漢方もマッサージも保険が効かないので高額になりがちだ。
 
おっぱいの世界は、出産経験のある女性にしか開かれていない。
出産前はこんな世界があるとは知らなかったし、男性にはもっと未知の世界かもしれない。
簡単に乳がやれる人もいるし、個性によっては難易度が高い場合もある。その十人十色の世界を知ってほしい。
出産前の女性は、事前に知識があれば私のように翻弄されることはないかもしれない。
また、それぞれ個性に合わせた事情があるのだから、母乳育児がスムーズにできた諸先輩方には、「母乳がいちばん」「母乳で育てることは母の愛」なんて決めつけないでほしいなと思う。
そして男性の皆さんには、授乳って思った以上に大変だから「おっぱいをあげてるだけ」の奥さんに家事まで要求しないでほしいし、一生懸命乳をはだけて頑張る女性をエロい目でみないでほしいなあと思うわけだ。
 
あ、あと、授乳中のみなさん、乳をはだけることが当たり前になって、乳丸出しのまま宅急便の対応をしないように気を付けましょうね。これって“授乳婦あるある”ですよね?
 
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2017-11-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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