8時ちょうどのあずさに
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記事:あっこ(ライティング・ゼミ日曜コース)
ちょっとした誤解をしてしまうことは、思うより多い。
私は「8時ちょうどのあずさ2号で」という歌を、ずっと「8時ちょうどのあずさに乗って」だと思っていた。
8時ちょうどのあずさに乗って私はあなたから旅立ちます、いいじゃないかと。
大人になって、8時ちょうど発のあずさ2号はあるのか? というテレビをみて初めて気づいた。どちらでも良い事だけれども、20年くらい間違えていた事が可笑しかった。
私と母は、いつも「とても仲良くていいわね」といわれるような親子だった。
母は、私をとても大切にしてくれて、私の希望を叶えようとしてくれていた。
中学生あたりになると、それが少々行き過ぎている様に思えた。
母は、とても出来る母である。
仕事もバリバリしていて、かなりステータスの高い役職についていた。
母は、どうみても美人で頭が良くて、お料理も上手で、字がきれいで、優しいという様な人だった。
こういう、完璧に近い人間がずっと近くにいるという状況がどういうものか、おわかりだろうか。それは、本当に大変だった。
母は、かといって、ヒステリックなことはいっさい無い人なので、私に対してヒステリックに何かを期待するような事をしたことは無かったが、それでも、そういう人間が近くに居て、他人から「お母さんすごいわね」といわれ続けていれば、子供にとって余りあるプレッシャーになっていた。
私は、母と比べて美人じゃ無くて頭もそこまでは良くなく、字が汚いという子供だと自覚していたので、この先どうしようという不安な気持ちが小学校低学年の頃からずっと心にあった。それでも、なんとか、やりくりして、結局まあまあ良い大学に入って、ステータスの高い就職をした。しんどかった。
ホッとしたのもつかの間である。
母は、仕事をバリバリ現役で続けながら私を育て上げて、その子供も立派になったのだから、さらにプレッシャーは続く。
仕事を真面目にやらないと何より母からがっかりされるということもあったし、更にいうと、そういう頑張ってきた人間に育てられたので、普通にそのような価値観を持った人間になっていた。
真面目に頑張って仕事をして成果を上げたかった。
当然だが、社会人になれば全て自分の責任であるので、私なりに色々と努力して考えてやってきた。
若さで頑張っているだけで褒められた20代。
頑張りすぎて周りと衝突して反省して、大きく成長した30代。
あるとき、誰にでもあると思うが、母に対して「ああ、この人も完璧では無いところのある一人の人間なんだな」と気づいた。
両親が反対すると思われる相手と恋に落ちて結婚しようと思った。
反対の理由は、彼が悪い人だからでは無く、ステータスの低い職業だったから。
あなたのことが心配なんだと説得された。
その時に、私が幸せかどうかよりも、人から子育てが成功したと思ってもらえるような結婚をしてほしいと思っているんだなと思った。
私のためで無く自分のために言っているんだなと。
極めて普通の人間だ。
その時の気持ちは、攻めるような気持ちでは無く、単純にそうなんだなと分かったということだった。私も大人になったんだと思った。
でも、だからこそ、私は親のためで無く自分のために自分の人生を決めようと決心した。親のために結婚を諦めたら、将来親を恨むことになり、かえって良くないと思った。
結論を言うと、その後、4年くらいの間に他の理由もあって結婚せずに別れることになった。
それから3年たって、42歳になった時、いわゆる婚活を始めた。
色々な話を聞いて、自分が一番簡単で良い効能がありそうなことに笑顔を忘れないようにするというものがあった。
常に機嫌が悪いということはなかったにしても、意識して笑顔でいるということをすると、いろんな良いことがある。
婚活で初めて会う相手にとっても、笑顔が素敵な方が嬉しいと思うだろうし、そういう人の方が一緒に居たいのが普通だろう。
私は普段の生活からこの「笑顔作戦」を取り入れた。婚活の成果はないにしても、自分自身が普段の生活を軽やかに過ごせるようになった。
それから、きれいになろう! というようなお話を聞いたときも、精神的なことではなくて、健康や美しさという点から笑顔の話を聞いた。顔の筋肉は普段意識しないとほとんど使われておらず、年とともにどんどん衰えていくそうだ。なので、顔の筋肉を鍛えることできれいなフェイスラインを保てるし、ほんのり笑顔で居た方がきれいだよと。とにかく口角をあげましょう、体操をしましょうと。それで顔の筋肉を鍛える体操をして口角を上げるようにしていた。
ほんの数日前に、私の職場に用事があって母が来ることがあった。
そうして、職場の人にいわれたのが「お母さんってすごくニコニコしてて、かわいい」ということだった。
そうそう、母は仕事をバリバリやって家事もバリバリやっているけれども、本当にいらついた感じになっているのを見たことが無いという怪物の様な人なのだ。すこしイライラしている様なときもあるが、他の人に比べるとかわいらしいものだろうと思う。
今日、目が覚めてまだ起きずに布団の中で思った。
よく考えてみたら、母はいつも口角を上げて笑顔だった。いつもいつも。
気分の問題だけでなく、気分が良くないとしても、いつも笑顔で本当に口角が上がった状態がキープされていた。
なんということだ!
私が、この1年たくさんの時間と時にはお金を使って、婚活に挑み、そこで得たこれからも実践していきたい「笑顔作戦」を母は私が生まれてから今日に至るまで、毎日毎日私に見せていたんだ。どうして気づかなかったのだろうか。
母も本当に私を心配してくれていただろうし、自分も本当に努力して頑張ってきた結果として色々な物を手に入れたんだと思う。
彼女はいつも口角を上げて笑顔をたたえていたのだ。
「8時ちょうどのあずさに乗って」の時のように
今日、私は、40年以上気づかずに居た事に気付いた。今回は、どちらでも良い事では無く、本当に素敵で大切な事に気付いた。
私の笑顔作戦のお手本は母だった!
今日はとても良い日になりそうだ。
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