メディアグランプリ

ワークとライフは釣り合わなくていい


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:一宮ルミ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
「僕がどれだけ我慢してるのか、わかってないよ」
ある日の晩、夫に言われた。
 
気がつけば、ここしばらく仕事に振り回されていた。
もともと器用な人間ではない。
いくつものことを同時にこなすことができない。
やってもやっても終わらない仕事。けれどデッドラインはそこまできていた。焦りと不安がつきまとっていた。
 
「今日は早く帰れるの?」
朝食の時に、夫に尋ねられた。
「行ってみないとわかんないよ」
素っ気なく答える。
「そう。帰れそうだったら連絡してよ」
 
そして夕方。
「今日は、帰れそう?」
夫からLINEのメッセージがきた。
はっきり言って返信する暇ももったいない。
毎日、計画的に仕事をこなして、自分が決めた時間に帰りたいと思っている。けれど、突然降って湧く仕事や初めてする仕事は、時間の読みが甘くなって、思うように進まなかった。残して帰る勇気もない。
「無理かも。今日も子供のお迎え頼めるかな?」
なんとか返信する。
「了解」
家のことは夫に任せ、残業することにした。
 
そんな生活が当たり前になっていた。
 
その日は、厄日だった。
自分の仕事の不手際を指摘されて、落ち込んでいた。上手くいくはずだった仕事の計画が、入り口でつまずいた。他にも心配事があって、何一つ、思い通りにならない日だった。
暗い気持ちを引きずって、家に帰った。
 
帰って早々、夫にグズグズと愚痴を吐いた。
明るい気分には到底なりたくなかった。
しばらく黙って聞きながら適度に相槌を打っていた夫が、急に怒り出した。
私も夫に対して私も怒りが込み上げてきた。こんなに辛いのにどうして優しくしてくれないのだろう。なんて冷たい人!
「なんでもっと労ってくれないのよ!」
 
「あんただって、僕がどれだけ我慢してるのか、わかってないよ」
「僕がどれだけ都合を合わしてあげてるか、わかってない」
「今日だって、僕は自分のやりたいことができないまま一日が終わるんだよ。愚痴っても機嫌が直らないんだったら、愚痴に付き合った時間を返して欲しいよ」
 
そう言われて初めて、気づいた。どれだけ私が働くために、時間と手間を費やしてくれているのか、我慢しているのか。
夫は自分の仕事を早々に切り上げて帰って、子供を塾に送って行き、家事をし、趣味のスポーツジム通いもゲームも我慢して、帰りを待っていてくれていた。
突然の「今日も帰れない」の連絡に、黙って「わかった」とだけ答え黙って対応してくれていた。
それが当たり前だと思ってしまっていた。
 
10年ほど前には、私がその立場だった。
夫は、連日深夜まで働いて、土日もなく仕事に呼び出され、ほとんど家にいなかった。
その時私は、毎日なんとか早く帰って、家事をし、子供をみていた。
夫の予定が立たないし、子供にも手がかかっていたので、やりたいことを見つけることすらできない生活に、とても苛立っていた。
だから、今の夫の気持ちをわかるはずなのに。
 
でも私にも言い分がある。
まだできない仕事もなんとかできるようになりたい。
自分が納得できる結果を出したい。働いて誰かの役に立っているという実感を持ちたい。それを糧に私たちは生活できているのだから。
そのために、家族に負担をかけてしまったとしても、仕事に邁進する時期があってもいいのではないか。
同時にいくつものことができない私は、どちらかに傾いてしまうのは仕方ないということも分かって欲しい。
 
世の中では「ワークライフバランス」が大事だと言われている。
もちろん、心や体を壊すような仕事のやり方は考え直さないといけないかもしれない。
でもワークとライフの割合は、いつも天秤にかけたように釣り合ってばかりはいないと思う。
遊具のシーソーのように、仕事に傾いたり、家庭に傾いたりしてもいいのではないだろうか。
時には、「ワーク」に思い切り傾いて、新しい仕事にやりがいと面白さを見いだせるまで追求するとか、もっと勉強してスキルアップを図ってもいいのではないか。そしてまた「ライフ」に傾いて、休みを取って思い切り家族と過ごしたり、家事をこなしたりすればいいのではないか。
 
夫の言葉で自分が「ワーク」に傾いていることに気がついた。
私は、そろそろ「ライフ」の方へ戻らないといけないのかもしれない。
 
私たち夫婦が家事と仕事を両立させていくのは、二人で「ワーク」のシーソー、「ライフ」のシーソーをやっているようなものだ。相手が上がれば、自分は下がる。自分が上がれば、相手は下がる。
どちらかだけが我慢をすることがないようじっくり話し合って、上がり下がりを決めていくしかない。
 
「じゃあ、私、どうしたらいいの?」
夫に聞いてみた。
「来週の飲み会があるから、その日だけは早く帰って、子供を塾に連れていって」
「分かった。じゃあその日はどうにか頑張って時間までに帰る」
そう約束して、ケンカではなく「話し合い」は終了。
 
まだしばらくは「ワーク」に傾き続けるかもしれないが、気持ちが少し「ライフ」に戻ったような気がする。
 
***

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2017-11-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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