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星の音を聞いてみたら


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記事:菊地優美(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
「モンゴルに行くと、星の音が聞こえます」
旅行会社の一文を読んで、ピンときた。
 
星の音か、いったいどんな音なんだろう。聞いてみたいな。
 
そう思ったらすぐだった。
私はこの夏の「自分探しの旅」の目的地をモンゴルに決めたのだった。
 
社会人一年目、滑り込んで就職したはいいけれど、なんだかしっくりこなかった。
自分と一緒に学んでいた同級生たちは、JICAで海外支援やら、外資系金融企業やら、地元で地域活性化やら、それぞれやりたいことで活き活きと働いていた。
私といえば、特にやりたい仕事というわけでもなく、でも就職しないわけにはいかず、無理やりこじつけた理由で特に思い入れもない会社に滑り込んで社会人になっただけだった。
 
自分には何もない、と心がざわざわしていた。
何かを見つけないといけないような気持ちで毎日を過ごしていた。
周りの同級生たちのように、やりがいや生きがいを持ちたかった。
しかし、目の前の仕事になれるので精いっぱいの毎日では、そんなところまで手が回らなかった。
 
そんな3か月余りをすごし、社会人になって初めての連休を貰えることになった。
5日間だけの連休だったが、私には十分な連休に思えた。
近場、海外、5日間で行けること。
この条件を基にネットで検索をしてみたところ、とある個人ブログで上記の言葉を見かけたのだった。
 
さっそく、ゲルに泊まれるモンゴルおひとり様ツアーに申し込んだ。
申込をしたのがツアー開催の1週間前だったので、少々高くついたが致し方ない。
 
星の音を聞けば、私の人生が変わるかもしれない。
そう思うと、少々の出費も賄える気がした。
 
そのブログによると、モンゴルの草原は本当に何もない為、完全な静寂に包まれるという。
その静寂の中でだけ、星のシャラシャラという音を聞くことが出来るという。
なんてロマンチックなんだろう!
確かに日本では、完全な静寂というのはなかなか味わえない。
どんな田舎に行ってもテレビはあるし、人もいる。
私の実家も相当な田舎だけど、いつもどこからか高速道路のワンワンいう音が聞こえてきたし。
 
そんなわけで私は「完全な静寂が作り出す星の音」を目的に、モンゴルに旅立ったのだった。
 
首都ウランバートルから車で3時間。
寡黙な運転手と大学生だという通訳の女の子と共に、だだっぴろい草原を目指して走りぬけた。
日本では見かけなくなったトヨタの年代物で、舗装されていない道を走り続ける。
 
私の到着した時刻は18時過ぎだったが、20時を過ぎてもまだ明るかった。
私が星の音を聞いてみたくて草原に来たのだ、夜はまだかと尋ねると、彼らは12時くらいにしか星は見えないと思うといった。
どうやら緯度の関係らしい。
 
ゲルにつき、持ち主のご家族からウォッカとラム肉のごちそうで歓迎を受けていると、あっという間に12時を回った。
 
いい気持になって、ゲルのベッドにもぐりこんだとき、突如思い出した。
そうだ、私は星の音が聞きたかったんだ。
 
みんな寝静まっていた。
見渡す限り、草原と岩しかなかった。
風もなく、本当に全くの静寂だった。
この静寂なら聞こえるんじゃないだろうか。星の音が……
 
静まり返った中で耳を澄ます。
キーンという音が耳の中でなる。
いわゆる耳鳴りだ。
もっと耳を凝らす。神経を研ぎ澄ます。
けれどどんなに耳を凝らしても、やっぱりキーンという、自分の耳鳴りしかしなかった。
 
えええ? 星の音って、もしかしてこれのこと?
がっかりした。
自分の耳鳴りしか聞こえないなんて。
聞いたことのないものを聞きたくて「自分探しの旅」に出てみたものの、結局聞こえたのは自分の内側の音だけだった。
 
でもこのがっかり感が、今思えば自分の人生を勇気づけてくれたのだと思う。
 
星の音が結局耳鳴りだったように、自分探しも結局は自分の内側で答えを探すしかないんだと、モンゴルまで行ってようやく私は気が付けたのだった。
 
自分に何もない気がして、なんとかしなくちゃと焦ったけれど、結局は目の前にあることをひたむきにやるしかないのだな。
耳鳴りしか聞こえない、だだっぴろい草原の中でそう思い至った。
 
帰国まで、馬に乗って登山したり、吊り橋を渡ったり、生ホーミーを聞いたり、カシミア工場でぼったくられそうになったりと、その4日間もたくさんの経験が出来た。
けれど10年近くたった今でも思い出すのは、あの耳鳴りだ。
 
終電近くまで残業した夜、やけくそになってたくさん飲んで帰る夜、彼氏と別れた夜。
 
自分が嫌になりそうになる帰り道に、ふと夜空を見上げると、あの時の耳鳴りを思い出す。そうすると、とりあえず、目の前のことをただひたむきに行おう、と奮い立つことができる。
大丈夫、星の音のように、私が思い焦がれているものは自分の中にあるのだから、と思えるのだ。
 
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2017-11-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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