メディアグランプリ

読み人は胡蝶の夢をみる


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記事:しんごうゆいか(チーム天狼院)
 
 
ある1冊の本を読了した後、まず、頭に浮かんできた言葉は、“胡蝶の夢“だった。
胡蝶の夢とは、現実と夢の世界との区別がつかないことをたとえた言葉である。
生々しい夢を見たとき、突拍子もない出来事に遭遇したとき、面白い映画を観たときなどに、これは夢か現かわからなくなったり、あるいはその世界に浸りすぎて本当に自分がその世界の住人のように感じてしまったことはないだろうか。
 
私は小さいころ、本を読むと、それこそ“胡蝶の夢”のように、その世界と現実をごっちゃにしてしまうタイプであった。同じような経験をしてきた人もいるかもしれない。例えば、J.k.ローリング著『ハリー・ポッター』シリーズを読めば、私はあの仲良し三人組のメンバーの一人であったし、重松清著『口ぶえ番長』を読めば、私は主人公の女の子の相棒だった。そして、読了してしばらくは、口癖や仕草が変わってしまうこともしばしばあった。その頃の私にとって、本を読むことは、冒険することと同義であった。文字を通じて、知らない世界を冒険し、その冒険が現実の自分に影響することも楽しくて、私は大好きだった。
しかし、成長するにつれて、あの頃と全く同じ感性と素直さで楽しむことはできなくなった。
変わらず、本を読むことは好きだったが、変わらない熱量で読めているかと言われると、そうではなかった。どこか冷静に、第三者として、あるいは他人事として、一線を引いて読むようになっていた。もちろん、これが悪いことだとは思っていない。あの頃とはまた違った
視点で楽しめるようになったこともある。
 
しかし、だからこそ、驚いている。読み進めていくうちに、自分の中で、本の世界と現実がごっちゃになっていくあの感覚が、懐かしく響いたことに。
 
いつもなら、一つの物語として割り切って読むのだが、その本は物語の中に私をぐんぐん引き込んだ。一線なんて、引かせてくれなかった。ほとんど全員の登場人物に感情移入してしまうほどに、その世界に入ってしまった。そこでの私は、時に女子大生であり、名も無き男であり、殺し屋であり、キャスターであり、医者であり……。気づくと私は、その世界の住人になっていた。
ああ、この感じ。現実の自分が本の世界に浸っていたのか、それとも本の世界の住人である自分が現実なのか。境界線が曖昧な、この感じ。まさに、“胡蝶の夢”。
子供の頃の私であったなら、きっと主人公の女子大生のように「殺しの会社を作る!」と密かに息巻いていただろう。
 
一体何が、これほどまでに読者をその世界に引き込むのか。私が思うに、恐らく、嫌でも伝わってくる圧倒的熱量のせいではないだろうか。作者のこれまでの経験や地道な努力、得た知識、苦境の中で掴んだもの、懸けた想い。きっとこれらに含まれた熱のせいだ。その熱は、読んでいるときには気づかない。読了後、冷静になってやっと、至る所にそれが仕掛けられていたことに気がつく。しかし、気づいたときには、もう、手遅れだ。仕掛けられた熱は、読者をじわじわと、だが確実に夢中にさせ、その人の中の“何か”を刺激してしまう。人は誰かの本気に直に触れる時、少なからず影響を受けてしまうものなのだろう。この本は、その熱量が大きいぶん、特に、影響力があるのだと思う。
 
本の感想は人それぞれだと思うが、私はその物語の中に、作者の信念や想い、苦労を見た。これは私の持論だが、本にはその作者の人と為り、想いや考えといった全てが映し出されるものだと思っている。その作品に懸けるものが強ければ強いだけ、それは顕著に表れる。
 
ああ、きっとこの作品を作り上げた人は、今までの経験から得た全て、そして、これからの未来も含めて、これに懸けたのかもしれない。
 
そう思った。そう思わせるものが、確かに、この作品には詰まっている。
その本が店頭に並んだのを見たとき、私には、その平積みされた赤い本が燃えているように見えた。
 
 
私は、書店でアルバイトをする、ごく平凡な女子大生だ。そんな私でも感じた熱を、ぜひ多くの人にも感じてほしい。この作品は、内輪で留めておくには、あまりにもったいない。
読めばきっと、何かに本気になりたいと、そんな想いが湧いてくるはずだ。
 
本の世界に引き込まれ、隠された熱にあてられ、胡蝶の夢をみた、私のように。
 
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2017-11-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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