実は『殺し屋のマーケティング』で登場する主人公、桐生七海のモデルになった女子大生を知っている。
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記事:ライティング・ゼミ(チーム天狼院) みなくちれいこ
実は、『殺し屋のマーケティング』で登場する主人公、桐生七海のモデルになった女子大生を知っている。いや、知っているでは些か語弊があるかもしれない。お世話になっている、では少々緩い関係のようだし、友人とまで親しい間柄でもない。心の底から尊敬しているのであるが、少々憎んでもいる。なぜなら、私は彼女に人生を狂わされたのだから。
実際の彼女は、西城潤を訪ねた七海の様に行動力と思考力の両方が備わっており、容姿淡麗だ。しかも、英語だってペラペラだ。
しかし、その美しさには相川響紀のような派手さは皆無と言ってよい。普通に綺麗、という言葉が一番しっくりくるだろう。
コーヒーとたまごサンドだけの喫茶店に、たくさんのファンがいるのと似ている。知る人ぞ知る美人で、一度その魅力に気づいてしまうと、なかなか離れられない。
自分だけが知っている秘密基地のように、会いたくなり、大切にしたくなる。
でもその魅力は、外見だけではない。
「コードブレイカー」編集長、秋山明良が表現したように、「いわゆる世間一般の女子大生起業家とは一線を画して、浮ついたところが一つもなかった」のである。「慎重に言葉を選んでいる」ようにも見えるし、何かに怯えているようにも見える。
小説の中の七海よりも、実際はもっと気怠く、何か薄い膜を纏い、一筋縄ではいかない何かを感じさせる。何に対しても興味がなさそうに見える一方で、何もかもを卒なくこなす。写真のモデルだって全然見劣りしないし、教壇に立って先生のように講義を行ったって全然平気だ。「今までで一番いい」なんてことを、プロに言われたりする。
なぜ、こうした雰囲気を何食わぬ顔で操れるのか、その理由はまだ解明できていない。
しかし、世の男性は、大学生だけでなく教授という立場のおじさんまで、七海のことを愛してやまないのだ。
いつも愛す(愛でる)のは男性側だけで、彼女はその愛を返そうとは一切しない。
ただ爽やかに
「ありがとうございます」
と呟いて、心からの笑顔なのか作り笑顔なのか、曖昧なラインの薄ら笑みを浮かべて去っていく。決して男に媚びない。
世の男性がこういった女性を好むのは理解できる。
でも私が彼女に人生を狂わされた理由はそのような魅力ではない。
地味さ、だった。
彼女のインスタグラムに大勢で写っているような写真はなかったし、ツイッターもそんな頻繁に呟いておらず、あるとしても映画や本のことだけだった。
七海と出会った頃の私はまあ、地味だった。
なるべく家から出たくなかったし、友達とガールズトークをする時間があるのなら、図書館に行きたかった。友達のことが嫌いな訳ではなかったし、出掛けるのもそれなりに好きだった。でも、ハロウィンの日に猫ちゃんやゾンビになりきって渋谷を歩いたり、寒い冬にわざわざ制服を着てディズニーランドに行ったりする気には到底なれなかった。
でも、私がこんなに面白味のない性格だって知っている人はそう多くなかったと思う。
友達の誘いを断ればそれだけ「ノリが悪い」というレッテルを貼られ、少しずつ誘いの機会が減ることをなんとなくだが知っていた。そして断りを続けていくうちに「友達」というものが少なくなっていき、最終的には話しかけられることもなくなってしまう。
教室という狭い空間が家族以外で社会と繋がる唯一の場であった学生の私にとって、「友達」がいなくなるのは恐怖でしかなかった。
友達がいなければ、教室移動を一人でしなければならなくなり、お弁当をトイレで食べることになる。つまり「孤独」が襲ってくるのだ。
私はこの孤独を恐れるばかり、無理して「ノリの良い私」の仮面を被る選択をした。
仮面を被りはじめて随分経ち、仮面の剥がし方を忘れてしまった私は、もはや仮面を取ろうなんて思ってなかった。その仮面も自分の一部なんだ、と受け入れて、その仮面を愛そうとした。
でも七海は私の仮面にちょっとずつ罅を入れていき、最終的には粉々にしてしまった。
「七海っていつどこで何をしているかわからなくない?」
という会話を彼女がいるはずだった飲み会の場でしていると、
「今台湾にいるっぽいよ」
とインスタグラムの写真を見せてくる。
<先生と台湾でお茶会です>
なんてコメントと一緒に、小籠包の写真がインスタグラムに投稿されていたりする。
私は傷ついた。そして同時に羨ましくなった。
飲み会をドタキャンしてまで、先生とのお茶会に台湾まで行くか普通。
なんて思ったりもしたが、そんな誘いが私の元に来たこともないし、きっと私は「先約がこっちだし、先生に何を怒られるかわかんないし」みたいな適当な理由をつけて恐怖のあまり先生の誘いを断るだろう。
出会った当初はわからなかったもの、ちょっとずつ関わりを続けていくうちにわかったことがある。
七海には、軸があったのだ。何かを選ぶ時の選定基準があった。
そして、その芯をぶれさせない「強さ」も同時にあったのだと思う。
だから、好きなものが地味でも、友達との誘いを断るのも、七海にとって全然問題なかった。
好きなものに囲まれて生きる、自分に正直に生きる、誰にも理解されなくても自分が好きなのだからそれでいい、ということの素晴らしさを七海は重々承知だった。
そして結果として、万人に好かれていた。
ななみさん(実際はそう呼んでいる)に出会えたことは、本当に奇跡的なことだった。
私がななみさんから学んだことは、今まで述べた通りだが、その人の経験や価値観によって、七海の魅力は様々であると思う。
ぜひ、桐生七海という不思議な人物に出会ってほしい。
そして、桐生七海に抱いた感想を店頭で語り合えたら、どんなに素敵なことかと思う。
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