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メディアグランプリ

子供の顔に書いてあるもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:水月むつみ(ライティングゼミ・日曜コース)
 
 

試験の合格発表を見る時の人の顔。

 

世界は、一体どれくらいの数の、そういう時の人の顔を、これまでに見てきたんだろう?

 

嬉しさでほころぶ顔。

悲しみにくれる顔。

これまでの努力の日々を思い出す顔。

 

私は、試験が得意だ。

学校の成績は良かったし、大学受験もそれなりのところにパスし、

英語などの資格試験の点数も、良いほうだった。

そのおかげで、私は今、英語学校で英語を教えている。

 

でも、試験ができることと、試験が好きなことは、全く違う。

私は、試験は得意でも、試験が好きではないのである。

 

だから、英語の資格試験に悪戦苦闘している人の気持ちは、痛いほどよく分かる。

 

「こんな試験、何の意味があるの?」

「試験の点数が良かったからって、何なの?」という気持ち。

 

世の中には、試験を受けることが趣味のような人がいるらしいのだけれど、

そういう人の気持ちは、全く理解できない。

 

試験を受けたがる人が、この世の中にいるなんて、狂気の沙汰としか思えない。

 

試験が得意ではある私は、「試験で良い点数が取れない」ということには共感できないけれど、

「こんな試験受けたくないよ〜」という人の気持ちは、分かりすぎるほど分かるのである。

 

私が教えている英語学校にも、そういう人はたくさんやってくる。

 

いろんなことをやり尽くして、それでも、「全然できるようになりません」という人たちが、英語学校を訪ねて来る人の中には、数多くいる。

 

いわば、最後の砦。

 

そこに来る女子中学生や女子高生、女子大生などの女の子は、大体、自分なりに、ものすごく頑張って、勉強している。

それなのに、英語ができるようにならない。

 

この間まで教えていた高校生の女の子も、そういう子の中の一人だった。

 

彼女は、大学付属の高校に通っているのだけれど、TOEICの点数が足りなくて、そのままだと、クラスの中で、一人だけ、みんなと同じ大学に進学できないという状況だった。

 

その状況が、18歳の女の子にとって、一体、どれだけの重さでのしかかっているか?

 

彼女は、このまま、みんなと一緒の大学に行けなかったら、「人生終わり」くらいの崖っぷちの思いを抱いていたはずだ。

 

そんな崖っぷちの状況で、彼女は一生懸命、勉強はしているのだけれど、全然、身にならない。

 

そういう女子学生は多い。

 

「勉強しなければ」という思いだけが、宇宙並みに膨れ上がって、とりあえず、目の前のいろんなことを次から次へとやっている。

 

そういう子たちに共通している思いは、恐怖感のようなもの。

「勉強をしなければ、きっと大変なことになる」という焦燥感。

 

何かに追い立てられるようにして、必死に自転車を漕いでいる時みたいな、深刻な表情をしている。

 

だから、レッスン中も、答えを間違えたり、私に何かを指摘される度に、どんどん声が小さくなって、どんどん焦りが増幅していく。

 

私は、そういう時には、その子の背景に見えてくるものを想像する。

 

どうして、彼女は、今、こんなに苦しい思いをして、勉強しなければならない状況になっているんだろう?

一体、何が、彼女をこんなに深刻な顔にさせているんだろう?

 

そうすると、彼女の背景にあるものが想像の中で見えてくる。

 

彼女の周りの人たち。家族の人たち。

 

そういう人たちが、きっと、彼女に「今、勉強しないと、大変なことになるよ」という恐怖感を植え付けているのだろうなと思う。

 

私も、周りの人たちから、そういう思想をずっと植え付けられてきたから、そういう子の気持ちは、痛いほどよく分かる。

 

でも、そういう恐怖感を植え付けても、それは、彼女の幸せには全くつながらない。

むしろ、「勉強しなければ」という焦りで、勉強に身が入らないという悪影響を及ぼしている。

 

そういう時には、私は、まず、その子の恐怖感、焦り、不安感を静めることを第一に考える。

 

ある時、彼女が、スタッフさんとの面談後、真っ赤な目をして泣いていた。

 

「もう一体、どうすればいいのか分からない」というような表情で、目から大粒の涙をこぼしていた。

 

それは、きっと、彼女の中から出てきた、悲鳴のようなものだったのだろうなと、今となっては思う。

 

試験まで、あと2週間もないという状況で、彼女の心は、その試験の重圧に耐えられなくなっていたに違いない。

 

彼女の一生懸命さを凝縮したような涙を見て、うるっと私もきてしまったけれど、それを必死にこらえ、励ましの言葉をかけ続ける。

 

「これだけ勉強しているんだから、できるようにはなっているんだよ」

「でもね、結果が出るまでには、時間がかかるから」

「もうね、やるしかないの」

 

そういう言葉をかけ続けながら、彼女が泣きつつ「やりたい」と言うプリントをコピーして渡す。

 

そうしていると、彼女は、流れ落ちる涙を必死に指で拭いながら、消え入るような声で、つぶやいた。

 

「先生、優しいね」

 

そうして、彼女は帰って行ったのだけれど、その次のレッスンで、私はびっくり仰天することになる。

 

彼女が、まるで別人のように、やる気に満ち溢れていたからだ。

 

彼女の心を押しつぶしていた恐怖感が、薄れたのだろうと思った。

彼女はどんどん力をつけていった。

 

そして、やってきた試験の前日。

 

彼女の帰り際に、私は声をかける。

 

「がんばってね」

 

帰り際にバイバイする時の彼女の顔を見て、その時点で、もう、私には、彼女がきっと合格点を取れるだろうことが分かっていた。

 

私は思った。

 

「きっと大丈夫」

 

その時の彼女の顔が、それまでの顔とは全然違ったからだ。

 

これまでの試験前日の「絶対受からない〜」とこぼしていた時の彼女の顔とは、まるで別人だった。

 

「私、やるよ」という顔。

 

試験の結果は、予想どおり、それまでTOEIC500点前後を推移していたのに、TOEIC600点を突破していた。

 

子供の顔には、いろんなことが書いてある。

そこに書いてあるメッセージ。

それを読み取るのが、私の仕事だ。

 
 
***

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2017-11-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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