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メディアグランプリ

校章の入ったボタンよりも大切なもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:久保明日香(ライティング・ゼミ日曜コース)

 

 

「首元が寂しいか……あのネックレス、どこにあったかな」

 

私は明日、会社に着ていく服を選んでいた。

ネックレスを探してアクセサリーが入った引き出しを開ける。

目当てのネックレスは引き出しの奥の方にあった。その発見と同時に小さい白い箱を見つけた。

 

「何入れてたっけ……?」

 

そう思いながらその箱を開けると、高校の校章が入ったボタンが1つ、入っていた。

 

 

 

9年前、私は高校を卒業した。瞬く間に終わってしまった楽しい高校生活だった。

卒業式当日は友人と離れるのがさみしくて泣いている人、故郷を離れることを不安に思っている人、雰囲気に流されて泣いている人など様々だった。

 

しかし、私は泣いていなかった。

いたって冷静だった。

なぜならばその日にしか達成できないミッションを企てていたからである。

 

それは、校章の入ったボタンを手に入れることだった。

 

当時の私は“卒業式には第二ボタンをもらう”というドラマや漫画にありがちな状況に憧れていた。ただ残念なことに私には彼氏もいなかったし気になる相手もいなかった。そこそこ仲のいい男子に「ねぇ、ボタン頂戴」と言って、気があると勘違いされては困る。

 

しかし、その日にしか入手できない“限定品”であり、この高校に3年間通いましたよという証拠となるボタンがどうしてもほしかった。

 

廊下には卒業証書を持って記念写真を撮っているクラスメイトで溢れていた。私はボタンを求めてどうしようかとうろうろしていた所、仲がよかった友人の綾乃を発見した。

 

綾乃の横には1年生の時からずっと付き合っている彼氏、藤本もいた。

近づいて話をしてみると、大学が離れ離れになるので毎日会えないことを嘆いていた。卒業式の日でもいつも通りラブラブな2人だった。

 

「いいじゃん、連絡取り合えば。お互いの大学の学祭に行ったりできるし、それはそれで楽しいと思うけどな」

「連絡を取る取らないじゃないんだよ! 私は休み時間にちらっと見かけたり、廊下ですれ違ったり、そんな生活を3年も続けてきたの。急に遠くに行っちゃったようなさみしい感じに耐えられる自信ない……」

 

そう落ち込む綾乃に

「まぁまぁ、綾乃、俺らなら大丈夫。心配するなって」

と優しく声をかける藤本。

 

「あー、相変わらずラブラブで何より」

そうあきれてしまう私だったが、その時ふと彼の第二ボタンに目がいった。

 

……ボタンがない。

綾乃の手を見ると、第二ボタンを大事そうに握りしめていた。なんだかいいな、そう思ったのと同時に私はひらめいた。

 

「あのさ、藤本……ボタン、もらえたりする?」

そう言った瞬間に2人がきょとんとした顔でこちらを見た。

 

「もちろん、第二じゃないよ? 何番目でも……袖のボタンでもいい。あのね、私、校章が入ったボタンが欲しいの。この学校に通ってたっていう証拠が欲しいの。だから、綾乃が嫌じゃなければ……藤本のボタンが欲しい」

そう本心を述べた。

そういうことなら、と2人から了承をもらい、私は藤本の第四ボタンを手に入れた。

 

綾乃が廊下での写真撮影に呼ばれて行ってしまい、私は藤本と二人になった。

「俺の第四ボタン、大事にしてよ? しかしそんなにボタン欲しいなんてお前変わってるよな。何でボタンなの? ボタンよりもっと高校時代の想いが詰まった思い出、あるだろ?」

 

確かにその通りだった。

 

文化祭で作ったクラス全員お揃いのTシャツ、体育大会で使ったハチマキ、部活動で使ったランニングシューズ。そして卒業式前日にクラスメイトに書いてもらった色紙。私は知らないうちにボタンなんかよりずっと価値のあるものを手に入れていた。

 

 

そして今、私は当時とは違った価値のある思い出で溢れている。

 

4カ月、瞬く間に過ぎていったライティング・ゼミ。講義を受け続けてきたこの講座が終了した今、卒業式のあの日のような気持ちだ。

 

初めは参加人数の多さにドキドキした。それは友達ができるかなと期待するような入学式のようだった。講義を受ける度、知識が増え、書くことが楽しくなっていった。

毎週課題を提出するようになって“顔見知り”ならぬ“名前見知り”の受講生ができた。同じ講義を同じ時間に受け、頑張って毎週書き続けた同志。この人の様に書けるようになりたい、と思ったこともある。書き続けることができたのは沢山の受講生の記事に感化されたからかもしれない。

 

そのゼミが終わる今、受講したことが一目でわかる“物”は手元にはない。

 

でも私のパソコンの中にはちゃんと証拠がある。

 

自らが書いたWordファイル、受講生が書いた記事をダウンロードした形跡、ネットにアップされた受講生の2,000字の記事。それは紛れもなく4カ月受講し続けた証拠であり、頑張った大切な思い出である。

 

眠たい日もあった。しんどい日もあった。それでもまずは4カ月! そう思って書き続けてきた。今日だけは、達成感に浸りたい。

 

そして明日からは4カ月の思い出を胸に、以前よりは力がついたと信じて、新たなるスタートを切ろうと思う。

***

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2017-11-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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