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ハゲサラブレッド伝説


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:鵜殿有正(ライティング・ゼミ日曜コース)

 

 

子供の頃、父方の実家に行くと、よく祖父が遊んでくれた。

祖父はハゲていた。

居間には曾祖父と曾祖母の白黒写真が飾ってあったのだが、曾祖父もハゲていた。

 

母方の実家に行くと、私が物心つく前に亡くなってしまった祖父の遺影に手を合わせるのが決まりだった。

遺影の中の祖父もハゲていた。

こちらの家には小さな洋間があって、曾祖父の写真はそこに飾られていたのだが、やはりハゲていた。

 

私は父が29の時に生まれた子供だったが、記憶にある父はハゲてしかいなかった。

 

私は中学生の頃には、はっきりと自覚せざるを得なかった。

そう、私はハゲのサラブレッド、純血のハゲであると。

 

思春期の男子にはそれは不治の病の宣告をされた如き重荷であった。

私は15歳になろうか否かという歳で、決断を迫らえていた。

厳密に言うと誰も決断を迫ったりはしていなかったが、とにかく大人になったらハゲるのだという運命にどのように対峙するべきか、己の姿勢を定めなければこの苦しみから逃れることはできないと考えていた。

 

運命を受け入れるのか、立ち向かうのか。

 

父方の祖父は運命に立ち向かった人だった。

彼が亡くなった時に残された祖母や叔父、従姉妹の証言によれば、祖父は亡くなるまで日々の頭皮マッサージを欠かさず、育毛に効く(らしい)トニックやシャンプーの使用に励んでいたという。

そう言われて記憶を探ってみると、確かに曾祖父の写真が見事につるつるだったのに対して、祖父はスダレハゲで済んでいた。

 

かくして、私は決断のための貴重な判断材料を得た。

人は努力によってつるっぱげになる運命をスダレハゲに変えることができるのだ。

自分はそのための努力をいとわず完遂しうるだろうか。

 

 

……無理だ。

あまりにも努力に対する見返りが乏しすぎる。

 

私は運命に立ち向かうのではなく受け入れる事を決めた。

とはいえその時点で具体的な計画を定めるにはあまりにものを知らなかったので、その後数年間をかけて少しずつシミュレーションを重ねていくことにした。

 

まずもって、カツラはだめだ。

人は隠し事をするとそれが弱みになる。

秘密が露見することを恐れながら生きることは、運命を受け入れることとは大いに異なる。

 

同様の理由から、ハゲを隠すための髪型も好ましくない。

横とか後ろとかから薄くなった天辺に持ってくるのは不自然極まりないし、その不自然さは隠したいはずのハゲをむしろ目立たせずにはいられないだろう。

 

順々に考えていくなら答えは一つしかない。

坊主だ。

髪が薄いのか短いのか判然としないくらいに短く刈り込んでしまえば、「ああ、坊主頭の人だな」で通るだろう。

 

しかし坊主には弱点がある。

顔の周りがあまりに貧相になる。

髪型でおしゃれができないのならば、それ相応のオプションが必要だろう。

 

ヒゲだ。

幸いにもヒゲは濃い。

ワイルドな感じに仕上がるのではないか。

 

更にメガネを掛けるのはどうだろう。

今のところ視力は両目ともに1.5であるが、幸いにも夜更かしして本や漫画、PCゲームに興じるしか趣味がない身の上、早晩メガネのお世話になるのは間違いない。

 

 

こうして、私の運命を受け入れる計画は高校生の時にはあらかた完成した。

 

月日が流れて大人になった私は、人並みに色々な経験をしながら年を取っていった。

幾つかの仕事を渡り歩いたが、どの仕事も学生時代にやりたいと思ったこともないものだったし、社会人になってからできた友人たちも学生の頃の友人とだいぶ雰囲気が違っていた。

総じて人生は思い通りのことよりも思いもよらぬことの方がはるかに多かった。

 

しかし、そんな中で唯一計画通りに進んでいることがあった。

そう、ハゲである。

 

ハゲは計画通りに進行し、私はその進行度合いに応じて計画通りに坊主頭になり、計画通りにヒゲを生やした。

ただ視力のみは長年の酷使にも関わらず一向に衰えなかったのが計算違いだったが、これについては伊達メガネによってリカバリーすることとした。

 

予定通り就職できず、予定通り結婚できず、予定通り英語を話せるようにもならず、予定通り社会人大学院に通えなかった私は、予定通りヒゲメガネ坊主となった。

 

運命というのはきっとこういうものなのだろう。

サラブレッドがレースに勝っても負けてもサラブレッドであるように、ハゲは人生がどう転んでもハゲなのだ。

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2017-11-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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