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メディアグランプリ

古本には気を付けて


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:志希歩(ライティング・ゼミ 通信専用コース)
 
 
本のページの間に突如出現した三角形の紙。
何かが挟まっている、と思ったが、そうではなかった。
 
 
古本屋で買った本を読んでいた。
読み始める前に最後のページに鉛筆で書き込みがしてあるのを見つけた。
日付と書店名が書いてあった。
半年ほど前の日付で、地元の大型書店の店名が記されていた。
この日にこの店でこの本を買ったという覚書きだろう。
偏見かもしれないが、こういう書き込みをするのは、ちょっと年配の男性のイメージだ。筆跡も男性っぽかった。
そこで、この本の前の持ち主は、私の中で勝手にオジサン、ということになった。
 
それは10年ほど前に発行された文庫本で、それほどメジャーな作家でもなく、特に話題になった本でもなかった。
あの広い売り場の中からこの本を選ぶということは、オジサンはこの作家のファンなのかな。わざわざ探さないとこの本は見つからないだろうし。
そうやって買った本をたった半年で古本屋に売ってしまったのか。
ああ、きっとオジサンは読書家で、読んだ本が溜まらないようにどんどん処分してしまうんだろう。でもそれならこんな覚書をいちいち書かなくてもいいような気もする。
それにこの本、オジサンが読むイメージじゃないけど。
 
たまたま見つけた書き込みに意識を半分持って行かれながら本を読み進めた。
半分ほど読んだあたりで見つけた三角形の紙。
 
 
それはなんと、ページの残骸だった。
1ページの上部5分の1ほどを残してきれいに破れてなくなっており、残った部分がぴらぴらと三角形の旗のようになっているのだった。
 
 
「は!? なにこれ」
怒りが湧いた。
ちょっとオジサン、こんな状態の本、よく古本屋に持ち込んだね。
素知らぬふりをして持ち込んで、あわよくば買い取ってもらえると思ったの?
 
古本屋も古本屋だ。
自宅の一部を店舗にしている個人経営の小さなお店だが、そんなことは関係ない。
買い取るとき、店頭に出す前、ちゃんと検品しないの?
 
勝手に2方向に怒りを向けながら、次に悲しくなった。
本のページを破るなんてことがどうしてできるんだろう。
本好きのオジサンのはずなのに。
 
せっかく楽しくここまで読んできたのに台無しだ。
ページがなければ、ここから読み進めることができない。
それにこれでは、読んだ本をいつもそうしているように、中古書店に買い取ってもらうことも誰かに譲ることもできない。
もうこれはゴミでしかなく、私の手でゴミとして処分するしかないではないか。
新聞や雑誌ならまだしも、文庫本をゴミとして捨てるのは抵抗がある。
 
 
 
一瞬のうちにこれだけのことがいっぺんに頭をよぎった。
いろんな感情が渦巻いたまま、本を閉じようとして思い直す。
これ、大して支障ないかも。
 
その本は、ある街に越してきた青年が主人公。なつかしい雰囲気の街で出会う人々との温かい交流とおいしそうな料理が描かれている、のんびりほのぼのした小説だ。
 
1ページなくても話には支障がなさそうだ。
三角形の旗が出現したのは、主人公と彼が知り合った小学生の男の子との会話の場面。
もやもやしながらその旗をめくって読み進めると、果たして話の展開には全く影響がなかった。
これがミステリ小説だったりしたら致命的だろうけど。
 
 
怒りや悲しみはうやむやになって、そのまま読み終わった。
そして最終ページでまたあの書き込みに出くわし、思いを巡らす。
オジサンのこの本は、どうしてこんな状態になってしまったんだろう。
 
この破れ方は、うっかりやってしまった、という感じではない。
例えば、子どもが悪戯をしてビリッとやってしまったとか、オジサンが鞄の中でグチャッとしてしまったとかなら、破れた部分がシワシワになったり、他のページも傷んだりしそうだ。そういう場合ならきっとセロハンテープなどで修復するだろうし、そもそもページのほとんどがなくなるほどのダメージはないはずだ。
ページを破る、という確固たる意志を持って勢いよく破らないとこんなに見事に切り取られない。
本のページを破る意志を持つって一体どんなシチュエーションなのだ?
破り取られた部分はどうなってしまったんだろう。
 
 
ある時、オジサンがこの本しか持っていない状況だったとしよう。
トイレで紙がなかったとしたら、到底これだけでは足りない。
急にメモが必要になったとしても、メモとして使えるところはもっとあるはずだ。カバーの裏とか。
この本のこの部分がオジサンの心の琴線に触れたのなら、破り取らずにページの端を少し折って大切に持っておいてほしい。
他には他には……。
破れたページは謎のままだ。
 
 
この本はもちろん売ることも譲ることも捨てることもできずに私の本棚に並んでいる。
ほのぼのとした温かい本だった、という漠然とした印象とともにオジサンと謎の破れたページが頭に残っている。
 
 
私も本に何か書き込みをしてみようかな。
それが誰かの手に渡ったとき、別のストーリーが広がれば面白い。
オジサンもどこかでほくそ笑んでいるかもしれない。
だけどページを破るのはやりすぎですよ、オジサン。
 
 
***

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2017-12-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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