川代さんって25歳やったんや
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:海野真琴(ライティング・ゼミ平日コース)
まじか。同い年やん。
しかも、バツイチらしい。
今はプロの作家になりたいそうな。
毎回楽しみにしている、天狼院メディアグランプリ。
しばらく前だが、18th Season 第3戦の結果を見たとき、川代さんが1、2位を独占していた。
ライティングゼミを受けている人なら皆知っている、天狼院スタッフの川代紗生さん。下の名前は何と読むのだろう、と思っていたが、「さき」らしい。可愛い名前だ。
モノクロのカッコいいポートレートから、まさか同い年だとは思わなかった。
受講生の課題を添削してくれ、だいたいは辛口コメントと「またの投稿をお待ちしております!」という決まり文句を残し、去っていく川代さん。彼女の画面の向こう側で、一体何人が苦い思いをしたのだろうか。
そんな川代さんは、悩んでいた。
1位の記事は、正しい人生を追い求めていたはずなのに現実は全然違うというギャップに悩み、結局正しい人生なんてない、どんな人生でもいいんだ。という話。
あぁ、たしかに。こういうこと考えるフェーズって、来るよね。
川代さんは25歳で来たらしいけど、私は19歳だった。
高校3年生の夏、私は恋をしていた。
おもしろそうな大学を見つけてしまった。その街も、魅力的だった。
私には少し厳しかったけれど、塾の赤本専用棚としばらくにらめっこし、分厚い赤本をドキドキしながら手に取った。
意を決して告白、つまり京大に入れてください! とお願いに行ったものの、手応えは悪かった。
忘れもしない3月10日、案の定、私は京大にフラれた。
大学から「来ないで下さい」と突きつけられる現実。
私は子どもの少ない地域に住んでいたので、小中では1番をとり、高校でも最終的には上位に食い込んでいた。勉強して、結果を出し、評価される。そのルーティーンに慣れていた。
加えて私は向学心にあふれていた。好きな生物学をもっと学びたいし、古典や英語、世界史、倫理といった文系科目も勉強したかった。大学に行くと「一般教養」でそれらを学べるらしいと聞いて、夢を膨らませていた。しかも京大。変人奇人が集まっているらしい。すごく、おもしろそう。
そんな京大から「来ないで下さい」メッセージを突きつけられた私は、もぬけの殻になったように、ぼーっとして毎日を過ごした。季節は少しずつ暖かくなっていくのに、私の心は凍りついたまま、触ったら割れるガラスのようになってしまった。実家の南向きの日当たりのいい部屋で、小さく丸まって、思考停止していた。
フラれる、というのを
「あなたは私と一緒にいるのに値する人間ではありません」
と言われることだと、当時の私は理解していた。
京大にフラれるのは、あなたは京大で学ぶ価値がないですよという宣告。
川代さんの言葉を借りれば、当時の私にとって「正しい生き方」が京大に入ることで、それができていない自分がものすごくダメな人間に思えた。
次の夏が来ても、私は鬱々としていた。
見かねて母が
「高野山でも行ってきたら」
と声をかけてくれた。
なぜ高野山なのかはわからないが、とりあえず最寄り駅から電車一本で行ける。
行ったことはなかったし、勉強にはほとほと嫌気が差していたので、気分転換にと電車に乗った。
着いてみると、そこは不思議な空間だった。
木が生きている、と思った。
金剛峯寺がある一帯は、山の中腹を切り拓いて作られている。
山に生える大きな木が、風に揺られてサワサワ、ザワザワと、かすかに何か喋っている。一本一本、違う動きをする。
真夏だったが、少しひんやりとした。
まだパワースポットブームが来ていない頃だったので、ほとんど人がいなかった。
若い尼僧さんが開く「メディテーションルーム」があり、メディテーションが何かは知らなかったが、母に勧められていってみた。
まず、ビックリした。頭を丸めた女性を間近で見たことはなかったのだ。
でも尼僧さんは明るい笑顔で、少しずつ私が今考えていることを引き出してくれ、真言宗の教えを教えてくれた。
「大師さん(空海)は、自己肯定、ということをおっしゃってるんです。人は理想と現実のギャップに苦しむけれども、まず現実を見なさいよ、と。今のままの自分、あるがままの自分を受け入れなさいと」
自己肯定。
京大落ちた自分でもいいのか。
他人に言ってもらうと、妙に説得力がある。
別に、今のままの私でいいらしい。
数日、数週間、数ヶ月かけて私は「自己肯定」の意味をゆっくり噛み砕いた。
時間が経つにつれて、心のしんどさはなくなっていった。
同じことを、川代さんはお母様が教えてくれたらしい。
すごいお母様。
19歳にしろ、25歳にしろ、いろいろ悩んで泥臭く生きている。
ところが天狼院メディアグランプリを見渡すと、バリバリの現役サラリーマン、子育て奮闘中のお母さん、親の介護をしている人、休職中の人、闘病中の人、職業も年代も、ありとあらゆる人生の先輩がいる。
それぞれ、様々な体験をして、頑張ったり、楽しんだり、怒ったり、感動したり、泣いたりしている。皆さん、いろいろなことを考えている。
多分彼らにとっては、19や25の悩みはちっぽけなものだろう。
そして掲載されている文章を見ている限り、彼らはポジティブだ。
いろんな生き方があっていい。
高野山で教えてもらった大事なことを、また教えてもらっている気がする。天狼院に。
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