演劇と出会ってしまったら
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記事:深澤智世(ライティング・ゼミ平日コース)
「演劇部!? えー大人しいのに意外!」
この言葉を私は、一体何回言われただろう。
私は人前で発表することが極端に苦手で、すぐに真っ赤になってしまう。人と話すのにも緊張してしまって、常に挙動不審。
そんな私が何故か演劇部に入った。
理由は単純で、先輩がかっこよかったのと、ちょうど演劇部の主人公たちが繰り広げる少女漫画にはまっていたからだ。
演劇というものを全く知らなかった私は「なんとかなるだろ~」という軽い気持ちで入部を決めた。
中学から続けて高校2年の今に至るけど、未だに「意外だ」「どうしてー?」と何度も聞かれる。
入った理由は単純だったので説明出来たけれど、「どうしてここまで続けているの?」と言われると答えに困っていた。
演劇部はスパルタ教育でだったし、私もよく愚痴をこぼしていたから、その質問が来るのは至極真っ当だ。
辞められないから? いやでも、もう高校に入れば帰宅部にだってなれるのだ。部活は義務じゃない。
どうして、ここまできてしまったのだろう……?
その答えを自分で見つけたのは、もうあと数ヶ月で引退しなくてはいけない時期だった。
演劇との出会いを思い出す。
生まれて初めてみた演劇は演劇集団キャラメルボックスの「バイ・バイ・ブラックバード」というものだった。
ああそうか演劇って別にロミジュリとかそういうのやるわけじゃないんだよな。
なんだか、演劇ってシェイクスピアみたいなのしか知らなかったから、新鮮に思ったことを覚えている。
ふっと音響が大きくなる。舞台上に人が出てきた。
「こんにちは。お越しくださり誠にありがとうございます。これからしつこくてちょっと長い宣伝と、当たり前注意事項が~」
超明るいおじさんが出てきた。私とおじさんとの距離は50メートルも離れている。でもしっかり聞こえてきて、びっくりした。
しかも面白い。ふふっ。おもわず笑ってしまった。
いろんなことを話した後に「もう、まもなく開演致します!」そう言って舞台から消えた。
照明が落ちる。ふっと光が差し込んだ。
女の子がいた。彼女は記憶を失っていた。11年間分も。
記憶を失った彼女が、少しずつ自分の記憶を紐解くとともに様々な真実が明らかになっていった。
そんなお話だった。
最後に全てが明らかになった時の鳥肌と涙が止まらなかった。
今でもそのシーンは色濃く私の記憶の中にある。
あっという間の2時間だった。
目の前の舞台では個性豊かな登場人物たちが真剣に生きている。
たったの2時間で完全に魅了されてしまった。
それからというもの、1人でせっせと足を運び続けた。
キャラメルボックスは少なくとも毎年4つは公演を打っていたので、見たいと思ったら少なくとも数ヶ月以内には公演があるので、それを楽しみに待っているワクワクがいつも味わえた。
キャラメルボックスのことをちゃんと意識し始めたのは、高校1年生の時の「憧れの人」というテーマの作文だった。私は、キャラメルボックスの加藤昌史さんについて書くことにした。
何を隠そう、彼があの劇の前に出てきた超明るいおじさんだ。
もう当時では彼のことをたくさん知っていて、前説をするだけでなく制作面で指揮をしたり、公園で使用する楽曲を全て決めていたり色んなことをしていた。
私は、役者としては全然活躍ができず、加藤さんを見て「何も、役者をするだけが演劇じゃない。裏方だって公演には大切な存在だし、そうやっていろんな方向から演劇に関われるのだ」と当たり前のことに気づかされた。
その時に資料として改めてキャラメルボックスのことをたくさん調べた。
そんな時、キャラメルボックスの劇団紹介ページの一文にハッとした。
「”人が人を想う気持ち”をテーマに、”誰が観ても分かる””誰が観ても楽しめる”エンターテインメント作品を創り続けています」
もうこの言葉以上にキャラメルにぴったりな言葉はないと思った。
人が人を想う気持ち。まさにそうなのだ。大切に思う、それゆえの行動は登場人物によって様々だが、その暖かい気持ちが根底に流れている。
そんな暖かい気持ちを生の温度で感じられる。演劇だからこそ、こんなに伝わるのだと思う。
目の前で、人が本気で感じていることがわかるのだ。
だから、いつも見終わった時には心がぽかぽかするのだ。
誰が観ても楽しめるのもきっとそうだと思う。
それは劇場に来ている人を見ればわかる。私みたいな学生もいればさらに若い小学生みたいな子もいるし、おばあちゃんと呼べる世代もいる。老若男女、様々な人が同じ舞台を観て空間を共有している。
そんなことが出来るのはキャラメルボックスの強みだ。
本当に素敵な劇団なのだ。
私はそんなことも「憧れの人」を発表する時に言った。
そうしたら、いつも演劇部に対する愚痴をこぼしている友人に言われた。
「ちゃんと演劇のこと好きなんじゃん」
言われた当時はそうかな? と深く考えていなかった。
でも、今まさに来月の学園祭が高校最後の公演になる、そんな時にふとその言葉を思い出した。
今になって気づいた。ああ、私は本当に演劇が好きだったのだと。
毎日の練習は辛かったけど、青春と呼べる時間を捧げて来たけど、それでもいいって思えていることに気づく。
きっと、私はキャラメルボックスの公演を観た時点でもうこうなることは決まっていたのだ。
多分、何回やり直しても同じ道を辿ってしまうのだろう。
観た時のあの暖かさを私も誰かに伝えられたら、もう、そう思ってしまったのだ。
最後の公演は今まで以上に頑張ろうと思った。誰かにこの気持ちが伝えられますように。
もうすぐ幕が上がる。
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