本を捨てることと、恋すること。本好きが、段ボール4箱の本を捨てたワケ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:青木文子(ライティング・ゼミ平日コース)
年末も押し迫った12月。
リビングから玄関につながる廊下にならぶ、巨大な段ボール4箱。
段ボールといっても、いわゆるミカン箱や2Lのペットボトルが6本入っているような段ボールではない。はら、あるじゃないですか、引っ越し用の段ボール。ぞうとかパンダのマークがついている引っ越し用の段ボール。その一抱えもある大きさの段ボールが並んでいる廊下。玄関脇のトイレに行くのも段ボールをすり抜けながらでないとたどり着けない。
引っ越し?いや、引っ越しではなかった。
去年の12月に、本を捨てた。
「本を捨てる」
今もこの文字を見るだけで動揺する。振り返ると、胸がチリリと痛む。その段ボールの中には私が愛してやまない蔵書がぎっちりと詰まっていた。
玄関のドアベルを鳴らした宅急便のお兄さん。その手を煩わせながら、その巨大な段ボール4箱分の蔵書は連れられていった。
言い訳をすれば、ただ捨てたのではなく、本を寄付した。寄附と言っても、そのまま本を寄付するのでなく、古本屋にその本を買い取ってもらってその売り上げを寄附するという形。結局、どんな形にせよ、私の手元から段ボール4箱分の蔵書は去った事実には変わりない。
「本を捨てるなんて!」
そう思っていた。
高校時代の社会科の恩師がいた。定年を待たずに退職して郷土史家の道を選んだ恩師。本があまりにも好きで6畳間に本を積み過ぎて床が抜けたと聴いた。
その恩師がこう言っていた。
「本は読むものではないです」
「本は買うものです」
「なぜなら、その本の背表紙を眺めていることに意味があるのです。あなたが手にとる瞬間をその背表紙は待っているのです」
高校は進学校だった。同級生の本好き、積ん読好き達にとって、その恩師の言葉は天空から聞こえてくる祝福のセリフに聞こえた。未だに高校時代の同級生はこの恩師の言葉を口にする。ご多分にもれず、私も本好き、積ん読好き。あの本、この本。知らぬ間に本はどんどん増えていく。
その本好きが何で本を捨てたのか?
廊下に段ボールが並んだのは、実は、ある人とこんなやりとりがあったからだ。
「青木さんって本好きですよね」
はいはい、大好きですよ。結構な本を所蔵していますよ。
「ビジネス書とかも結構お持ちなんじゃないですか」
名著のたぐいは網羅していますね~。あ、良かったらお貸ししましょうか?
「じゃあ、U理論とか読まれました?」
読みました、読みました。あの結構分厚い本ですよね。
「あのU理論の中から何かひとつでも実践しました?」
……。
グッと詰まった私にさらに言葉がかけられた。
「使わない知識って全部ゴミ、かもしれませんよ」
あたまを殴られたような気がした。
それは図星だったから。胸が痛かった。
心のどこかではもう気がついていた。知識を得ることが気持ちよかったこと。そこだけにとどまれば傷つかずに済むこと。
「書を捨てよ、町にでよう」と言ったのは寺山修司だ。寺山修司は本当に本を捨てたんだろうか? それともただのたとえだろうか?
本を読むことは恋に似ている。
遠くから眺めて、恋心をつのらせてその世界の淡いピンク色の中に漂っていれば傷つかずに済む。あなたも覚えがないだろうか? 告白しようかどうしようか迷って逡巡して悩んでいるうちに外が白々と明けていた日のこと。行動をおこさないでいればその世界は守られる。
恋を恋のままに終わらせずに、その物語がはじまるには、相手に告白しなくてはいけない。恋が、誰かとつながりたいという切望であるように、本は他者とつながるための扉である。
その扉を開けるには行動を起こさなければならない。知識を得るだけ、自分で気持ちよくなるだけではなく、本という扉をあけてその向こうの世界を観たいと思った。
なぜ本を捨てたのか?
「捨てるまでしなくても良かったんじゃないの?」
たしかにそうかもしれない。ショックのあまりのヤケの行動だったかもしれない。でも、身体のどこかでわかっていたのだ。この本を手元に置いたままでは殻の中からでられないだろうということを。その扉の先に行けないということを。
今回、天狼院書店のライティングゼミを始めた。書店のライティングゼミとして「本を捨てる」をいうテーマはいかがなものだろうと思いながら、今この原稿を書いている。
私がライティングゼミに入ろう! と思ったのは、直観があったからだ。誰にも頼まれていないのに、毎週2000字の記事を書くなんて、以前の私ならきっとやろうとしなかった。
でも直観がある。文章を書くことこそ、本の扉の向こうにでる鍵だろうという直観。
本を捨てるためには本を買う必要がある。恋を告白するにはまず恋に落ちる必要がある。本が好きだからこそ、その本の扉の向こうに行きたい。だから今日も本を読む。だから今日も文章を書く。その積み重ねこそが、きっと本の扉をは開いてくれるはずだから。
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