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その攻略本ならジョン・レノンもきっと買う


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:遠山 涼(ライティング・ゼミ 書塾)
 
「お前の家、テレビゲーム1つも無いって本当?」
5歳の僕は、その言葉に恐怖した。
僕の家にはテレビゲームが無かった。テレビゲームがある方が特別だと思っていた。
それがどうやら、みんな持っているらしい。
幼稚園の送迎バスの中で、僕だけが知らないテレビゲームの話について、友だち達が楽しそうに騒いでいた。僕は知っているフリをしながらそれをただ聞いていた。
 
世界にテレビゲームが思っていたよりもたくさん、普通に存在していることを知った僕の中で、その欲望が一気に膨れ上がった。
「お父さん! お母さん! ゲーム買って!」
だめ。
「ミキオくんもリョウスケくんも持ってるんだもん!」
他所は他所。家は家。
「リョウスケくんの家に生まれればよかった」
飛んできた親のビンタを食らい、幼い僕は自らが置かれている環境に絶望した。
 
幼稚園の近くに住んでいるリョウスケくんのお誕生日会に呼ばれて、そこで僕は生まれて初めてテレビゲームをやらせてもらった。
その時、僕は雷に打たれた。
正確にはコントローラーを握った時点で、もう手はビリビリ震えていた。
遊ばせてもらったのはスーパーファミコンの「ドンキーコング」だった。ゴリラのようなキャラクターを操り、敵をよけたり踏んづけたりしながら、バナナを集め、ゴールを目指すゲーム。
画面の中にはもう一つの世界が広がっていた。
僕の操るドンキーコングが、うっそうと茂るジャングルの中を軽快なミュージックとともに進んでいく。
何度も敵にぶつかったり、落とし穴に落ちたり、僕の操作はお世辞にもうまいとは言えなかった。
そんな僕を見かねて、リョウスケくんがアドバイスをくれた。
「そこはもっと早くジャンプしないとダメだよ。1面が一番簡単なのに、全然先に進まないじゃん!」
最初のステージのことを「1面」と呼ぶリョウスケくんが、とてつもなくかっこよく見えた。
 
教育上の方針か、もしくは経済的な理由で、僕はいっこうにゲームを買い与えてもらえなかった。
しかし、おそらく同じ理由で、本はよく買ってもらっていた。
 
両親に連れられて本屋さんに行くと、僕はなんでも好きな本を1冊買ってもらえた。
僕が選ぶのはだいたい絵本か子ども向けの図鑑で、金額的にも安くついた。
しかしある日、僕は本屋さんで出会ってしまった。
それは「攻略本」と呼ばれるものだった。
 
家に帰ってからお風呂とご飯以外はずっと、買ってもらった攻略本を夢中になって読んだ。
友だちの家にあった「ドンキーコング」の攻略本。
もちろん僕はそのゲーム自体を持ってもいないし、実際に遊んだのもリョウスケくんの家で数回やらせてもらっただけだった。
しかし1面のスタート地点からゴールまで、その途中に置いてあるアイテムの位置や隠しステージへの入り口まで、その攻略本には詳細に書かれていた。
 
僕の頭の中にどんどん染み込み、吸い込まれていった。
夜眠る時、布団と暗やみの中で目に見えないコントローラーを握る。
そこにないのに確かにある画面を見つめて、僕は空想のドンキーコングで遊んだりもした。
その攻略本さえあれば、僕はテレビゲームを楽しめるのだった。
 
そうやって攻略本が、僕の想像力を知らず知らずのうちに鍛えてくれた。
やがてテレビゲームそのものを手に入れる日が訪れ、中学に上がるころにわが家へインターネットが導入されて以来、わざわざ紙の攻略本を買って読むことは、自然と無くなっていった。
しかし、ふと思うことがある。
実際にコントローラーを握ってテレビゲームで遊ぶことよりも、攻略本を読みながら空想の中でテレビゲームを遊ぶことの方が、ひょっとして楽しかった……なんてことはないだろうか?
そんなはずはないと思う。
でもどういう訳か、そんな可能性を否定できないよう気もしている。
 
平成30年。
大人になった僕は、分からないことがあればすぐにスマホで調べる。分からないことだけでなく、分かっているはずのことや、分からなくても大して困らないことまでいちいち調べてしまうほど、スマホで調べる行為は生活の中に溶け込んでいる。
 
細かい経緯は忘れたが、ある時スマホで何かを調べていたはずみで、ジョン・レノンの少年時代のエピソードを読んだ。
ある日ジョン少年は、ラジオから流れてきたエルヴィス・プレスリーの「ハートブレイク・ホテル」をたまたま聞き、全身を雷に打たれた。ビリビリとしびれる感覚を引きずったまま、翌日、急いでそのレコードを買いに走った。
後に世界中を興奮と感動の渦に巻き込む、彼の音楽人生をスタートさせたといっても過言ではない出来事だ。
きっとジョン少年は、買ってきたばかりのレコードを部屋の一番いい位置に飾り、それを眺めながらラジオの電源を入れて、いつか再び「ハートブレイク・ホテル」が流れるのを待っただろう。その間、ジョン少年は頭の中で、その興奮を、その感動を、何度も何度も繰り返し、激しく鳴り響かせていたに違いない。
ジョン少年の家には、レコードを再生するプレーヤーが無かった。
しかし、そんなことは関係なかったのだろう。ジョン少年のその気持ちが、僕には何となく分かるのだ。
 
 
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2018-01-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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