コンクールで始めるピアノレッスン
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:守屋まゆみ (ライティング・ゼミ 平日コース)
「ママ、ぼく銀賞!」
張り出された名前の横に、「銀賞」の文字を見つけた次男が叫んだ。ホッとしたものの、私は結果全体を見て、釈然としなかった。
「え? 参加者全員予選通過? 通過率が高いと聞いていたけど、全員入賞なんて……。コンクールって勝敗が付くものではないの?」
今のピアノコンクールは、プロを目指さなくても参加出来るものもあると聞き、母親主導で参加を決めた。
低学年のうちに、努力の大切さを経験出来たらいいなあ、出来ればご褒美付きで。そんな動機で、予選が通りやすく、課題曲も次男が好きそうな曲か、など入念に確認して臨んだコンクール。
でも全員通過なんて、私と次男の努力は何だったのか……。ミスがあったお子さんも数人いたはずだけど……なんて黒い気持ちが頭をもたげてくる。
ともあれ、有名なホールで、しかもスタンウエイという素晴らしいピアノを弾けて、念願の予選突破を果たした。
そして初めての賞状をもらい、目の前の息子は喜んでいる。この事実だけで十分なはず、と自分の気持ちを納得させようと試みる。
期待の講評は、左手の音が大きすぎて、メロディーを潰すので、バランスに気を付けるように、と指摘された。
次男は左利きだった。
2回戦、地区本選の課題曲は、次男が大好きな「エンターテイナー」
アメリカ映画「スティング」でも有名な、メロディアスな曲の前半部分だ。審査員に指摘された事に気を付けながら練習、練習!
変化は本番1週間前に起きた。
次男が自分の音を何度も確かめ、弾きなおしていたら、2時間が経っていた。自分の音を自分で確認して、改善しようとした初めての日になった。
先生から普段の力が出せれば次回も通過できそう、と背中を押され、本番へ。出だしは好調、でも緊張で身体がガチガチ、そしてスピードも走り気味の演奏になった。それでも練習の成果で、ノーミスで抑揚のある演奏にはなった。
本人は演奏に満足して舞台から戻ると開口一番、「ぼく金賞とれるかな?」と言ったけれど、結果は銅賞だった。点数的に銀賞にあと一歩の所、でも再度入賞出来た! 初めての盾を頂き、また大喜びの次男。
ミスがあった、またはノーミスでも音楽に力が無かったと思われる数人は奨励賞で最後の地区大会、関東大会には進めなかった。今回も入選率が高かったが、金賞、銀賞はそれぞれ1人のみ、と審査が厳しくなった。
再度結果を見ると今回も目を疑う事があった。次男の次のお嬢さんが唯一の金賞だったからだ。
彼女は出番を待つ間、椅子を移動するたび、スカートの中が見えそうな程の胡坐をかいて、お母様にお行儀が悪い、とたしなめられていた。
本番なのにこんな御嬢さんもいるのだなあ、と思ったその彼女が唯一の金賞受賞者とは。天才肌っていうのだろうか。先ほどは娘のお行儀の悪さに怒っていたお母様も、金賞受賞に満面の笑み。色々な初体験で、やっとコンクールっぽくなって来たなあ、と身が引き締まった。
今回も、まだ左手が強いとの指摘があった。更に一人の審査員から、肩、肘、背中全て硬くなりすぎ、と簡潔に次男の問題の根本を指摘された。分かってはいたものの、弾けるようになる事優先で来てしまっていた。とうとうこの問題と向き合わなくては!
とは言っても、これが中々難しい。極度の緊張でもノーミス演奏できる位仕上がった型を、一度ゼロに戻してまた作り直すことなのだ。でもやるしかない。練習開始後しばらくは、ミスばかりだったが、次男はめげずに弾き続けた。メンタルも強くなってきた! 1か月後には肩も下がり、姿勢も整った。
最後の3回戦は地区大会、つまり関東大会だ。
会場ロビーは低学年の子供でごった返していて、人数の多さに圧倒された。予選は複数回実施され、それぞれ入賞した子供たちが、この地区大会で一堂に会す。
この日ばかりは舞台袖から次男を送り出す際、私も心拍が上昇しドキドキ。どうか、どうか、今までの半年近い努力の成果が出せますように、と祈る。
冒頭聴かせどころのメロディーは良い調子だったものの、その後また速くなり、メリハリの少ない、一本調子な曲になってしまった。金賞、銀賞を狙うには音楽性に難ありだろうなあ、と感じた演奏……。
関東大会は、表彰式があり、自分の名前が呼ばれたら壇上に上がる段取りだった。
結果はまたも銅賞。でも金賞は該当者無しで、受賞者は銀賞、銅賞のみだった。次男の名前が呼ばれ、壇上に登る。緊張気味な表情で賞状と盾を持って舞台に並ぶ姿を見られて肩の荷が降りた気がした。
でも本当は、ト音記号をかたどったトロフィーが貰える銀賞が良かった……。
口には出さないが、息子とお互い残念な気持ちを抱えてホールを出てみると、ロビーには涙を流しているお嬢さんたちが数人いた。うれし泣きかと思ったら、入賞を逃した悔し涙だった。何故ノーミスだったのに、入賞できなかったのかと必死に先生に聞いていて、先生はなだめ励ますのに大変そうだった。
彼女たちに共感してしまい、私も胸がチクッと痛んだ。と同時に一瞬でも残念に思った銅賞が、より輝いて見えたのも事実だった。
最後の最後で、コンクール主催者の意図が分かった気がした。
地区予選は殆ど通過させて、子供たちのやる気を鼓舞し、課題を講評として伝える。地区本選で人数を絞りつつ、かつ金、銀受賞者は1名ずつとし厳しさを出していく。最終の地区大会では、ノーミスでも入賞出来ないこともある。この悔しさをバネに練習に益々磨きがかかるのではないか。
次男も半年間のコンクールの流れに乗り、課題を克服でき、自信もついた。年に一度の発表会だけでは、ここまで上達しなかったと思う。やっとピアノを習っている、と胸を張って言えるようになった。
来年も、次のステップを目指して、コンクール参加を決めた。
「コンクール」という響きに畏れをなさず、舞台に上がり、走りきる事がなによりのレッスンになると分かったから。
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