1点差からの快進撃
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記事:Mei(ライティング・ゼミ日曜コース)
「あと1点!」
燃えるような熱い日だった。にぎやかな蝉の声。たくさんの歓声が遠くに聞こえていた。私が、何度も思い描いていた夢は、あともう少しで、手の届くところにあった。
「これで、県大会に出場できる」
そう思った瞬間、ボールがすっと私の横をすり抜けて、バウンドした。相手に1点取られてしまった。
「まだ大丈夫。まだまだ、勝ってる」
そう自分に言い聞かせる。
「あと1点。あと1点さえ取れれば……」
あと1点。その1点がなかなか取れず、いつの間にか同点に追いつかれた。苦しみながらも試合を続けた。だが、みるみるうちに相手の勢いにのまれていった。結果は、逆転負けだった。信じられなかった。あと1点。手が届くと思った瞬間、その夢は自分の手をすり抜けて消えてなくなった。
高校時代の私は、寝ても覚めても部活に明け暮れていた。朝も昼も夜もテニスのことを考え続け、県大会に出場することだけを夢見て、すべてを懸けてきた。
その大切な試合で、あと1点取れば県大会というところまできて、負けてしまった。
1点。たった1点が取れなかった。試合が終わって、力尽きて家に帰った。その後のことはあまり覚えていない。
翌日の新聞には、県大会出場選手として、試合で戦った相手ペアの名前が載っていた。
「本当は、私たちがここに名前が載るはずだった」
悔しい思いが消えなかった。気持ちを切り替えようとしたが、うまくいかなかった。モヤモヤした気持ちが残ったまま、月日は過ぎていった。その後にも、試合はあったのだが、思うような成績は残せず引退の日を迎えた。こうして、県大会出場という目標を達成することができずに私のテニス部時代は幕を閉じた。
試合に負けたあの日。1点に泣いた試合。本当に、あとちょっとだった。そのあとちょっとが足りなかった。そのことをずっと引きずっていた。
でも今思うと、あれは、あとちょっとでも何でもなくて、ただ、自分の実力が足りなかったのである。圧倒的な実力があれば勝てた試合だ。精神的なところで、技術的なところで、すべてを含めて私の実力が不足していた。
あの試合を忘れたことはない。だけど1点に泣いたあの試合のおかげで気づけたことがある。
それは、最後にどうなるかで、決まるということである。途中にどんなに負けそうなことが続いても、勝ちそうでも関係ない。最後に勝つ。これが勝負。まるでオセロゲームみたいだ。オセロゲームは、途中でどんなに優勢であっても最後に、1個でも多く石を取った方が勝者である。たった一つの石が、すべての流れを変えて、気持ちがいいほど逆転することがある。
ただし、ここで言っている最後とは、本当に最後の最後のことだ。試合が終わっても、生活は続く。たとえその試合に負けたとしても、そこから続いていく生活を、豊かにしていくことができたのなら、勝負は続いている。
私が試合に負けたあの日。たくさんの涙を流した。
だけど、試合に負けたあの試合も、希望の大学に落ちたあの試験も、失恋したあの夜も越えて今、私はここにいる。
「応援してくれている人がいる」
「まだまだやりたいことがある」
試合に負けた日、励ましてくれる仲間がいた。泣いていた時、黙ってそばにいてくれた人がいた。うまくいかなくても、私のことを信じて待ってくれた人がいた。いつしか、このままでは終われないという思いが、こみ上げてきた。そうして、一つひとつのことを乗り越えることができたのだ。
もちろん、思い描いたことが、全てそのとおりになったわけではない。順番は違ったし、時間もかかって、寄り道もたくさんした。だけど、振り返ってみれば、結構楽しい時を過ごしてきたように思う。順調にいっていたら、きっと出会えなかったであろう仲間に出会えて、やりたいことをたくさんした。失ったものは、たくさんあるけれど、その途中で得たもの、見えた世界は、数えきれないほどたくさんある。
本音を言えば、これからもつらい思いはしたくない。できることなら、物事がうまくいってほしいと思う。でも、もし、うまくいかないことがあったとしても、「きっと、大丈夫」今はそう思える。
あの時の弱かった自分、うまくいかなかった出来事が、私の背中を押してくれているような気がする。うまくいかなかったことは、そのままにしていたら、ただの悲しい出来事だ。
だけど、それをバネにして一つひとつ乗り越えていけば、宝箱にしまっておきたくなるような、大切なものになる。途中で、どんなに負けていても、試合を放棄しないで、オセロゲームのように、パタパタとひっくり返していける瞬間までやり続ければいい。
そう。最後に笑えればいいのだ。途中でどれだけ転んでも、負けても、うまくいかなくても。最後に自分が満足いくと思えたのなら、それでいい。すべてのことは必要だったんだと笑える日がくる。きっとくる。
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