キミニトドケ
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記事:Mei(ライティング・ゼミ日曜コース)
「ねぇ。公園に行こうよぉ」
お正月休みでゆっくり過ごせると思っていたら、2人の子どもたちが遊びに誘ってきた。
「せっかくだから、まだ寝ていたいな」
何よりまだ、朝だった。朝から公園なんて。もうちょっと眠りたい。せめて昼からでもいいじゃないか。それでも何度も枕元で、しかも大声で呼びかけてくるので、しぶしぶ出かけることにした。
子どもたちに手をひかれて、公園に着いた。手足の先から凍るような寒い日だった。まだ誰もいなくて、猫が一匹。朝日を浴びていた。公園にはこれまで何度も行ったことがあるが、朝行ったのは、この日が初めてだった。何気なく下を見ると、あっと驚くほどとてもきれいな地面だった。砂場やそのまわりが丁寧に箒で掃かれていたのだ。そう言えば、来るときに掃除を終えた方とすれ違った。多分、その方がこの場所をきれいにしてくれたのだろう。
地面をよく見てみると、何度も何度も箒で丁寧に掃かれた跡があった。跡というよりも線と言った方が合っているかもしれない。幾重にも重なる線。まるでテレビや雑誌に出てくるような日本庭園のように、見事なまでの美しさだった。私が、箒の跡に見とれていると、3歳の甥は、「わぁ! あしあとがつく」と満面の笑みを浮かべて地面に足跡をつけていった。そして、あちこちに手や足で型をつけて砂場をぐちゃぐちゃにしていった。そこに5歳の姪も加わって、2人で一緒に走り回った。またたく間に、その整頓された場はなくなってしまった。芸術のような美しい地面は一瞬で姿を消したのだ。でも、仕方がない。公園とはそういう場である。たくさんの人が行き来して、動き回る。だから、砂場や地面は足跡で埋め尽くされる。公園の地面はいつもでこぼこだ。ゴミだって落ちていることもある。それが普通の公園の姿だ。多くの人は公園を見ても「あぁ、この公園は地面がちょっと乱れているな」なんて思わないだろう。
でも、掃除をしたばかりの、朝の公園はとても心地よかった。心の奥からすぅっと洗われるような感じがした。まるで洗い立てのシャツを着るときのような爽やかな気持ちになれた。掃除をした方の、真心というか、心づかいが伝わってきた。
公園は主に子どもたちが使う場所である。相手は子どもである。どうせ汚れる場所だから。もしかしたら、手を抜こうと思えばいくらでも抜けるのかもしれない。掃除さえしていれば。ゴミさえ落ちていなければ……。特に気になる汚れもなければ、誰からも文句を言われることはないのかもしれない。だが、この公園を掃除した人は違った。心を込めて仕事をする、物事に向き合う気持ちが伝わってきた。公園中に広がっているまっすぐな線を目にして「きれいなものを見ていると心が落ち着く」そんなことを思い出せた。
この公園の地面を見たことで、メッセージボトルのことを思い出した。メッセージボトルは、瓶の中にメッセージを入れて海に流すというものである。映画にもなったことがある。実際に海で瓶を拾った人がいてフェイスブックなどでも話題になったりしている。100年の時を経て、届いた例もあるようだ。
瓶を海に流すので、必ずしも誰かが拾ってくれるわけではない。途中で海の底に沈んで届かないこともある。受け取ってもらえないこともある。だけど、ボトルを海に流した人がいる限り、それはどこかに流れ着いて、誰かに届くことだってある。何よりその瓶に込められた思いは、消えることはないのだ。思いもかけないところで必要な誰かに届くこともあるのかもしれない。瓶の中に、思いを込めて海に流すという行為が、メッセージを書いた人自身の心を満たすこともあるのかもしれない。運よく誰かに拾われることだけが全てでないが、誰かと誰かをつないだり、幸せな気持ちにしたりすることもある。今自分が取り組んでいることが、必ずしも相手に伝わるわけではないが、込められた思いは、誰かに思いもかけない形で届くことがある。
私は、この日の公園の地面、掃除をした人の掃除の仕方を見て、「ここに来る人が気持ちよく過ごしてほしい」というメッセージを受け取れた気がした。
あの時、「あしあとがつく」と喜んで駆け回っていた子どもたち。ぐちゃぐちゃの砂場だったらあの笑顔や遊びは生まれなかったのかもしれない。心地よさは感じなかったのかもしれない。もちろん、どんなに心を込めてしたとしても、誰も見ていないことはある。何度やっても気づかれないことだってあるかもしれない。事実、私はもう何年もこの近くに住んでいるのだが公園のこの気持ちよさはこの時まで知らなかった。でも、たった1人の思いが、たった1人の行動が、どこかで誰かに届くことがある。
朝の公園。何て気持ちがいいんだろう。まぶしい光の中、笑顔で走り回る子どもたちを見ながら、そんなことを思った。
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