東京と私の、絶妙な関係
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記事:テラダサオリ(ライティング・ゼミ日曜コース)
先日、久しぶりに地元の美容院へと足を運んだ。
昔から変わらずそこにあるお店もあれば、新しくできたお店もちらほらあって、以前、私が住んでいた頃とはずいぶん様変わりしているようだった。結局、たまたま国道沿いの看板を見て気になっていた、新規のお店へ行ってみることにした。
そこで、偶然、担当についてくれた美容師さんが、小・中学校の同級生だったのである。彼女とはかれこれ10数年ぶりの再会。
「みんな地元から出ていっちゃうだけど、なんだかんだ私は地元が好きでさあ」
美容師として、生まれ育ったふるさとで働く彼女は、何気ない会話の中で、さらっとそんなことを言っていた。
「東京に住む私は、東京に染まってしまっているのかなあ。ふるさとを忘れてしまったんだろうか……」
なんとなく、そんなモヤモヤした気持ちを抱え、その日は、育児を理由に伸びきっていた髪に、申しわけ程度に根本のカラーリングを施してもらい、その美容院を後にしたのだった。
高校時代まで千葉の片田舎で過ごした私。当時は、大都会東京に無条件に憧れを抱いていた。近いようで遠い存在の東京。
その後は関西の大学へと進学したため、就職をして社会人になり、東京へ移り住むこととなった。
初めての、東京でのひとり暮らし。
正確には、東京の大学へ通う3つ違いの弟とふたり暮らしだった。
田舎者の私にとって初めての上京は、例にもれず、何もかもが衝撃の連続だった。
東京駅で、新宿駅で、行き交う人の波に圧倒されたし(今でも、上手く人を避けきることができないときがある)、コンビニは駐車場がないのが当たり前(コンビニとは広大な駐車場があるものだと思っていた)で、すし詰め状態の満員電車はいつまで経っても慣れる気配はないし、メトロの路線だって一向に覚えることができないでいる。
一方で、その気になれば、会社帰りにだって名だたるアーティストのコンサートを観に行くことができるし、ミニシアターなんかも充実している。ヒトもモノも情報も溢れ、本物の文化に触れることのできる東京は、渦を巻くように、面白いヒト・モノ・コトが集まってくる。
やがてそれが、東京にいることが、私の日常になっていった。
社会人駆け出しの頃の日々の暮らしはというと、気楽な学生時代を過ごしたそれとは違って、とにかく無我夢中だった。学生だった弟よりも、朝は早く家を出て、夜は遅く帰宅する生活だったため、家ではほとんど顔を合わせることはなかった。
仕事では、同期が営業成績でどんどん表彰されていくなか、思うように結果が出せない。自分だけが取り残されたようで、自分に適性がないのかと思い悩んだこともあった。プライベートでも、それまで長く交際していた彼との関係が、ここへ来てうまくいかなくなっていたりもした。
建物は見上げきれないほど高いし、おかげで東京の空は狭い。電飾だって、きらきらしているはずのクリスマスのイルミネーションだって、なんだか目がチカチカする。とにかく日々晒される情報量の多さ、忙しなさ、消費することにいささか疲れてしまっていた。田舎育ちの私には肌に合わないと、嫌気がさして、心のシャッターをおろしてしまったのだ。
気づけば、いつしか、私は、東京という街自体が嫌になっていた。
今振り返れば、東京が嫌いだったというよりも、きっと、そのとき、その場所にいた自分自身が嫌いだったのかもしれない。
自信が持てず、周りのせいに、環境のせいにしている、甘ったれた自分が嫌いだった。
それでも、ここでしか得られないものを求めて、自分の夢の実現のため、お金を稼いで自活していくため、この東京という場所を選んだのは、誰でもない自分自身。
そんな風に、誰しもが、この街に根を張って、大なり小なりもがきながら踏ん張って生きている。
今は覚悟を決め、縁もゆかりもない土地で、妊娠・出産・子育てを経験している真っ最中なのだが、東京という街も、そしてふるさとも、どちらも自分にとってなくてはならない大切な街である。
ひとたび、テレビでふるさとの映像が流れると、嬉しくなって、思わず母にメールをする。時にはそうやって、ふるさとを思い出しながら、付かず離れず、絶妙な距離感を保って、今日も私はこの土地に立っている。
そして、いつの日か、言葉を使って、ふるさとを紹介するような仕事をすることも、私の夢のひとつでもある。
この狭くて広い東京という街には、地方出身者がいれば、もちろん生まれも育ちも東京の人もいて、10人に聞けば10通りの“東京”があるのだろう。
あなたにとっての東京は、どんな街ですか?
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