メディアグランプリ

なくしたもの、うけとったもの


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記事:Mei(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
いつでも会えると思っていた。また、今度があると思っていた。だけど、それは2度と
こなかった。
ある日、よく知っている人から電話がかかってきた。
「はい、もしもし……」
電話をかけてきた相手は、私が初めて聞く女性の声だった。その電話は、大好きな師匠の訃報の知らせだった。私は、その日、大切な人を亡くしてしまった。大好きだった師匠。今の職に就いたとき、初めて会った。とても厳しい人だった。言いたいことは、ストレートにいって、本当に正しいと思ったことは貫き通した。見た目の出来ばかり気にする私を、瞬時に見抜き、本当に大切にすべきこと、見つめるべきことに向き合わせてくれた。師匠を目の前にすると、何もかも見透かされているようで、うそをつけなかった。ごまかしがきかなかった。師匠に出会って、仕事の難しさを知り、師匠に出会って、仕事の喜びを知った。
 私は、師匠に出会って、受け取ったものがたくさんあった。目の前の人を大切にするということ。たった1人を絶対に見捨てないということ。人として、大切にすること。何を中心にものごとを考えていくか。数え切れないほど多くのものを受け取った。だから、師匠には、伝えたいことが山ほどあった。
 でも、「ありがとう」を伝えらないまま、師匠はいなくなった。いつでも会える。そう思っていた。電話をしたら電話に出てくれるし、メールをしたらメールを返してくれる。いつでも会えるから、いつでも言えると思っていた。そう思っていたのに、思いを伝えらないまま、会えなくなった。
 大切な人が目の前からいなくなったら、どうやって気持ちを整理したらいいのだろう。
答えを出せないまま、日々を過ごした。「あの時、電話をしていたら……」過去には戻れないと分かっているけれど、「もし……」を繰り返し、悲しみが何度も襲ってきた。それほど大好きなら、どうして一言でも伝えなかったのか。チャンスはいっぱいあった。何度も一緒に食事に行ったのに、何度会っても、一番大切なことを伝えないまま、会えなくなってしまった。
 葬儀が終わってしばらくたったある日、一冊の本が届いた。それは、師匠が残した本だった。師匠の生きざまが、ぎっしり詰まっていた。読み進めると、師匠との思い出があふれてきて、なかなかページをめくることができなかった。それでも、何日もかけて少しずつページを開いていった。すると、初めて知ることがたくさんあった。師匠の若いときのこと、仕事への考え、家族について。なぜもっと話さなかったのだろう。聞きたいことはたくさんあった。聞いてほしいこともあった。今、師匠に、すごく会いたい。だけど、私の大好きだった師匠は、世界中どこを探してももういない。
 悲しみは、まだ癒えることはない。時がたっても悲しみはなくならい。だけれど、私の元に届いた1冊の本。この本が私と師匠をつないでくれている気がする。師匠が最後に残したこの本を読むとき、師匠が近くにいる気がしてくる。本を開くたび、師匠のことを思い出す。まるでタイムカプセルのように瞬時に、あの時に戻れる気がする。師匠との日々を思う時、師匠のことに意識を向けているとき、時空を越えて、会える気がするのだ。とても不思議な感覚なのだけれど、本を開くたびに、温かい気持ちなる。
 師匠に会えないということは悲しくてたまらないけれど、受け取ったたくさんのものを忘れずに生きていきたい。私が忘れない限り、師匠との思い出は色あせないのだ。
今、目の前にいる人が生きているということ。それは、奇跡だ。もし大切な人が生きている、その人に会うことが出来るのなら、本当に幸せなことだ。今伝えられる思いを、今目の前の人に伝えてほしい。次の瞬間、私もあなたもどうなるか分からないからだ。だけど、もし、大切な人がこの世界からいなくなってしまったとしても、覚えていてほしいことがある。あなたが生きて、覚えている限り、その人は、決して消えることがないということだ。大切な人のことを思う時、受け継ぎたいという思いがある限り、大切な人の魂はきっと消えることなく広がって、確かに受け継がれていく。一緒に過ごした時は決して消えないように、覚えている人がいる限り、なくなることはないのだ。だからこそ、大切な人のことを思い出して、受け取ったもの、受け継ぐものを見つめてほしいと思う。人が死ぬということは、心にぽっかりと大きな穴があく、とてもつらい出来事だけれど、なくしたものばかりではないのだ。師匠が最後に残してくれたもの。私はしっかり受け取って、次の世代に渡していく。

 
 
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2018-01-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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