メディアグランプリ

デジタルでつくる楽しい記憶


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記事:猪瀬祥希(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
0と1。
コンピューターの中身は、膨大な量の0と1の組み合わせでできている。
 
もちろんコンピューターとひと口に言っても、その用途は様々だ。仕事で使うパソコンもあれば、日常でよく使うスマホやタブレットもある。特殊な計算を大量かつ高速に処理するスーパーコンピューターもあるし、ゲーム機だってある。
 
どんな用途であれ、コンピューターはソフトウェアを必要とすることに変わりはない。ソフトウェアがなければ、コンピューターは動作することができない。単体では、何の役にも立たないのだ。例えば、ゲーム機でゲームを遊ぶためにはゲームソフトが必要だ。ゲームソフトが存在しなければ、ただの箱にすぎない。
どれくらい役に立たないかと言えば、ガソリンが入っていない自動車と同じくらい役に立たないのである。
 
コンピューターを動かすために、ソフトウェアはなくてはならない存在であることは間違いない。しかし、どんなソフトウェアでもいいわけではない。
例えば、人命や金銭に関する製品に使われる種類のソフトウェアには、バグと呼ばれる不具合が混入することは許されない。もし不具合が発生したとき、計り知れない影響を社会に与える可能性があるからだ。そのため、あらゆる操作方法などを想定し、入念に試験を実施して高い品質基準を満たす必要があるのだ。
 
一方、私が30年以上作り続けているゲームソフトは、そこまでの厳格さは求められない。もちろん致命的な問題は徹底的に取り除かれるが、ある程度のバグは許容されている。例えば、ちょっとしたバグは「裏ワザ」として、商品の魅力になることすらあるのだ。
「裏ワザ」のある医療機器やギャンブル機は社会問題になるが、ゲームソフトならむしろ遊ぶ人に喜んでもらえるのである。
ゲームソフトは、人を楽しませるためのソフトウェアなのだ。
 
「僕、小学生のときにあのゲームを遊んでいました! とっても面白かったです!」
長年ゲームを作ってきたおかげで、初対面の相手にこんな嬉しい言葉を言われる機会が増えてきた。
あらゆるソフトウェアの中でも、人の記憶に残るソフトウェアというのは、ゲームソフトくらいではないだろうか。
特に昔のゲーム機は、映像と音声をはじめとして、あらゆる面において品質は現在よりもずっと低いものだった。
最新の技術を駆使した映像は、思わず目を奪われることもある。しかし、そこに作り手の想いがなければ、単なるキレイな映像で終わってしまい、すぐに記憶から消えてしまう。これは、ゲームに限らず、映画や写真でも同じかもしれない。
 
さらに、ゲームソフトには明確な答えがない。例えば、医療機器用のソフトウェアであれば、「正しい動作」について細かく明確に定義される。内容は、目的によって変わる。例えば、がん細胞を攻撃して消滅させることかもしれないし、レントゲン写真から病気や異常を見つけることかもしれない。いずれにしろ、定義された正解動作と異なる動作はすべて異常動作とみなされる。つまり、正常か異常か、というデジタルの世界。それが、医療機器などの業界で求められるソフトウェアだ。
一方、ゲームソフトには正解は存在しない。もし正解があるとすれば、遊んだ人が面白いと感じるかどうか、だろう。実に曖昧で、アナログな世界だ。
 
ゲームソフトは、作り手の想いがこめられたソフトウェアでもある。
だから、デジタルな世界を扱っているにもかかわらず、人の感情を動かすことができる。
このことは、作り手である私にとって醍醐味であり、最高の喜びでもある。
世の中には、人を楽しませる仕事も手段もたくさんある。
しかし、0と1で人の笑顔を作り出すのは、ゲームソフトくらいではないだろうか。
 
この先、人工知能の普及が予想されている。すでに、人間では気付かないような分析をしたり、作曲や絵画までこなす応用例が実現している。
しかし、人を楽しませるような何かを生み出せるようになるには、もう少し時間が必要だろう。もし生み出せたとしても、そこに想いがこめられていなければ、人の記憶に残ることはないかもしれない。
そういった意味でも、人を楽しませるビジネスは、これから先も無くなることはないだろう。
 
私自身は、このままゲームを作り続けるかもしれないし、別のものを作るかもしれない。そもそも、いつまで生きるかもわからない。
いずれにしろ生きている限り作りたいのは、人の「楽しい記憶」だ。
 
その想いを胸に、今日もソフトウェア開発は続く。
今から30年後も「あれ、面白かったです!」と言われることを夢見て。

 
 
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2018-02-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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