プロフェッショナル・ゼミ

検索魔だった私が「なんで調べておかなかったんだろう」と後悔した、産後の苦しみベスト3《プロフェショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:あさみ(プロフェッショナル・ゼミ)

私が初めて妊婦になったとき、最も頻繁にしていたこと。
それは「検索」。

自分の中に命が入っているなんて初めてで、分からなかったり怖かったり心配だったりすることばかり。調べても調べても5分おきには新たな疑問が浮かぶような毎日だった。
「妊婦 食べ物」「妊娠中 仕事」「つわり 唾が苦い」「20週 成長」「胎動 いつから」「陣痛 スイカ」など、思いつく限りのキーワードで検索した。

そんな”妊婦博士”になった私が、まったく調べていなかったこと。
それは「産後の自分がどうなっちゃうのか」ということ。

産後。
皆さんは、どんなイメージをお持ちだろうか。
私のイメージは「産後=寝られない」この一択だった。
大変とは聞くけれど、その大変さの多くは24時間赤子対応で寝られないことだろうと思っていた。「妊婦のうちに寝ときな~」なんてよく声をかけられたものだ。

産後は睡眠不足さえ乗り越えれば大丈夫だと思っていたのだ。
これまでも仕事で寝られないことはあったし、仕事と違って朝や昼にちょこっと寝ることもできるし、幸い家事は家族に任せられそうだし、乗り切る方法はいくらでもある気がしていた。
赤ちゃんのお世話もよく分からないけれど、それは入院中に覚えられるだろうし。

だから、産後のことは「赤ちゃんの部屋」「出産準備品」などの環境・グッズ以外はまるで調べていなかった。

が! が!! が!!!

産後は妊婦のとき以上に苦しかった!
そして、その苦しみの原因は、寝られないことだけじゃない!
さっぱりわからないのだ!
初めて出会う赤ちゃんのことでもなく、育児グッズのことでもなく、30年間付き合ってきた自分自身のことが!
自分の体も心も、何がなんやら理解不能になってしまったのだ!

出産を乗り切ることに必死で、
産後、完全にノーマークだった。

せっかくなので、数ある産後の苦しみの中から、私が知らなくて驚いたことベスト3を書いておこうと思う。
タイトルは、「そんなところが痛むなんて! ベスト3」としよう。

1.股の痛み~陣痛は恐れなくてもいい。本当に恐れるべきは、裂けた股の痛みだ!

出産にまつわる最もつらい痛みは「陣痛」だろうと疑いもしなかった。陣痛にまつわる話は、妊娠していなくてもよく耳にする。鼻からスイカを出す痛みだとか、男性が経験すると死ぬほどの痛みとか。私も出産前は陣痛が怖かった。

でも、あえて言いたい。
陣痛は恐れなくてもいい。

意外と、すぐ、忘れる。

確かに痛い。めちゃくちゃ痛かったと思う。
だけど、陣痛のときなんて、アドレナリン出まくりでハイパー興奮している状態だから、泣いたり叫んだり殴ったりしたような気もするけれど、なんだかよく思い出せないのだ。
この痛みは必ず終わる! これに耐えれば赤子と会える! そう思えば乗り切れる痛みだった。だから安心してほしい。

安心してほしくないのは、産んだ後。

アソコが。股が。痛いのだ。
私は2時間のスピード出産だった。股が、赤ちゃんが出てくるスピードに追い付けず、裂けそうになってしまったらしい。先生が切開をして赤ちゃんを取り出してくれた。会陰切開というやつだ。私の傷は大きかったようだ。 出産時間よりも傷を縫っている時間の方が長く感じたくらいだった。

この傷が痛い。
直後は麻酔も効いていたし、出産の興奮が残っていてそうでもなかったけれど、数時間後の深夜、股の痛みに耐えきれず、歯を食いしばって泣いた。30分我慢したけれど、泣きながらナースコール。
助産師さんが車いすを準備してくれたけれど、痛すぎて、座れない。股に何かが触れると激痛が走る。部屋からたった15歩の診察室まで、手を引いてもらいソロリソロリと15分かけて歩く。
診察台に座るのがまた地獄。「せーの!」と声をかけられても痛くて座れない。10回目くらいの「せーの!」で息を止め「ふんぬうううううう!」とこらえてようやく座れた。

「痛み止めを出すけれど、効き目がゆるやかな飲み薬と、即効性のある座薬、どっちにする?」と先生に聞かれ、1秒で「座薬を!」と即答した。

この座薬にはこの後も2度ほどお世話になり(その都度助産師さんに入れてもらうのだが恥ずかしいよりも痛いほうが勝っている)、飲み薬も併用して万全の対策を施してもらう。
少しはマシになるが、その程度。

入院中の5日間はもちろん、退院してからも2週間くらいはソロソロ歩き。ドーナツクッションがないと座ることもできなかった。先輩からもらっていたかわいいクッションではフォローが甘く、8,000円もする医療用のドーナツクッションを急きょネットで購入したほどだ。

「良いお産はゆっくり進む」と聞いたことがある。陣痛に耐える時間は短い方がいいに決まっていると思ていたけれど、あまりに急な出産には体もついていかずダメージも大きいのかもしれない。

「長い陣痛」は必要以上に恐れなくてもいい。
それは、きっと、産後の体のためにも必要な時間。

そして、念のためドーナツクッションの準備はしておくといいと思う。購入まではしなくとも、楽天の「買い物かご」に入れておき、有事の際には1クリックで買えるようにしておくことを強くお勧めしたい!
産後最も役立ったアイテムは、出産準備品一覧には書かれていない、このドーナツクッションだ。

2.乳の痛み~おっぱいの真価は「大きさ」ではなく「乳首」で問う

おっぱいが出るとか、出ないとか、そういうのはあるんだろうなと思っていた。
私は「完全母乳」にこだわりはなかったから、出なければ出ないでミルクを使えばいいと気楽に考えていた。ミルクなら私以外でも乳がやれるから、その間に休めるぜうししししなんて、お気楽なモンだ。

まさか、「出るけど飲めない」なんてことがあるなんて。

産前の検診時に、助産師さんに「おっぱい見せて」と言われ、驚きながらも乳を晒したことがあった。
私の胸を見て助産師さんは「うーん、すごく大変なおっぱいじゃないけど、ちょっと難しいかもね、とくに右側」と言った。
大変なおっぱいって何だろう。
「産後のためにもおっぱいマッサージをしておいてね」とやり方を教わったけれど、私は面倒くさがりだ。どんなに簡単なことも習慣化しない。マッサージもほぼしなかった。自分の乳首を引っ張ったり伸ばしたりするのに抵抗があったのもある。

そのせいなのか、おっぱいは出るけれど、赤ちゃんがうまく飲めないというトラップに引っかかってしまった。

私のなだらかで固い乳首は吸いづらいらしい。
柔らかくてびろーんと伸びる尖った乳首こそ、ゴクゴクおっぱいが飲める理想の乳首。マッサージをしてそれに近づけなければいけない。

乳をやるという意味においては、おっぱいの大きさは関係ない。重要なのは乳首の形と柔らかさなのである。

大きい小さい以外の観点で初めて自分の胸をまじまじと見た。
こんなに自分の乳首がじゃじゃ馬だとは! 
乳首の形なんて人と比べたこともないけれど、どうやら全員違うらしい。
赤ちゃんとの相性も全員違う。私の赤ちゃんは早産だったため小さく吸う力も弱く、私の吸いづらい乳首との相性は最悪だった。

おっぱいを飲むには「練習」が必要ということも初めて知った。
赤子はみんな本能でおっぱいを吸えるものだと思っていたから。

夜中に1時間以上かけて、助産師さんにつきっきりで教えてもらっても私の赤ちゃんがおっぱいを飲めるようになったのは産まれて4日後だった。
授乳姿勢にもいくつか種類があり、練習して相性のいいポーズを探す。わたしは「フットボール抱き」という赤子の頭を小脇から抱えるスタイルがしっくりいった。少し滑稽なポーズだけれど「フットボール抱きとかw何それww」なんて言っている場合じゃない。

失敗を繰り返して乳首は傷だらけ。咥えられるたびにヒリヒリ痛む。それが3時間おき。
それに加え、作られすぎた母乳が乳房に貯まり石のように固くなる。これもとにかく痛かった。解消するには激痛に耐えながら助産師さんにマッサージをしてもらい、詰まった母乳を外に出すしかなかった。

男性の皆さん、奥さんが授乳しかしていないのに家事が1つもできないのはおかしいと思っていたとしたらそれは大間違い。授乳は、そんなに楽なものじゃないのだよ。授乳は体育会系だよ。

3.心の痛み~あのプロ集団がいなければわたしは産後うつになっていた

股の痛み、乳の痛みと並んできつかったのが、心の痛みだ。

産後うつという言葉は知っていた。だけど自分には関係ないと思っていた。そういうのは、一人で抱え込みすぎてしまう人がなるんでしょ? 私は怠け者の自覚があったので、母と夫の産後のサポート体制も整えていた。相談できる先輩もいた。孤独にはならないから大丈夫。

実際私は孤独ではなかった。幸せなことに手厚いサポートを受けられたと思う。娘も、想像していた赤ちゃんよりずっとお利こうだった。

だけど、助けてもらえばもらうだけ、毎日授乳とオムツ交換しかしていないのに、その授乳さえもうまくできなくて、母としてもダメだし、人間としてもダメなんじゃないかと、常に自分を責めていた。
予想していたよりも体がつらく、本当に何にもできなくなった。自分だけがダメ人間になったように感じたのだ。産後から助けもなく頑張っている人もいる。こんなに恵まれているのに。何にもできない私なんて死ねばいいのに。

そんな私を救ってくれたのは、助産師さん達だった。

「助産師」という仕事を「産婆さん」ってことでしょ? くらいのライトな認識しかしていなかった。医療の発達したこの時代に、お医者さんがいるのに「産婆さん」なんて必要なのかな? と。

もう全力で土下座して謝りたい。
助産師さん達がいなかったら、私は今日まで元気で笑っていない。それは断言できる。私にとっては神様だ。

助産師さんは、出産のサポートだけではなく、産後にもいつも寄り添ってくれた。彼女たちが本領を発揮するのはむしろ産後なのかもしれない。

退院するとき「困ったことがあったらいつでも電話してね」と言ってくれた。
その電話番号は病院の代表電話と違って24時間つながるようになっている。もちろんそれは出産に対応するためなのだけれど、いつでも電話をすれば助産師さんと話せると思えることは、それ自体が心の支えになった。

本当に電話をする人ってどれくらいいるのだろう。社交辞令かもしれないと思ったけれど、私は言われるがまま、つらくてどうしようもないとき、涙を流しながら電話をした。
「ミルクあげればいいじゃん~」なんて気楽に構えていた私が「おっぱいがあげられなくて、どうしていいかわからない」と切羽詰まって電話をしたのだ。

それをきっかけに母乳外来に通うようになり、毎週助産師さんにはおっぱいの状態を見てもらい、話を聞いてもらう日々が続いた。

「産後は100日病というのよ」
病気じゃないのに電話をしちゃいけない、病気じゃないんだからもっと頑張らなきゃいけない、そう思い続けていた私を救ったのは助産師さんのその言葉。
ボロボロの私を「それが普通なのよ。甘えていいのよ」と許してくれたのは、助産師さん達だった。

どこで産むかを決めるときも、もちろん検索をしまくった。
総合病院、個人病院、助産院。たくさん選択肢があるなかで、初産だから安全に総合病院と選んだけれど、私は運よく「助産師さんの充実している産科」に行きつくことができた。これに助けられた。
設備や無痛分娩の有無、産後の食事などに目が行きがちだけれど、どんな助産師さんがいるのか、というのも大切なポイントの1つだと、産後になって超今更気づかされたのだ。

以上が、私が初めて知った産後の痛みベスト3。

そんな産後を乗り越えて、身をもって実感したこと。
それは、出産は十人十色だということ。

私の母が「産後は寝られなくてつらかった」と言っていたからそれしか知らなかったけれど、先輩に聞いてみても、ネットで検索してみても、出産の苦しみは本当に人それぞれだ。

私の書いた3つの痛みは、どれも出産を経験した先輩たちには「あるある」と共感してもらえたけれど、それぞれ程度は違う。股は確かに痛かったけれど1週間くらいで治ったよ、とか、乳首問題はクリアしたけれど軍隊みたいな病院の授乳スケジュールがキツかった、とか。
私が経験していない痛みもきっとたくさんあるだろう。家族のサポート体制整える方が苦労したとか、出血が多くて緊急で輸血までして貧血で立ち上がれなかったとか、帝王切開の傷が痛くて歩けなかったとか。
いちばんつらいと思っていることも違う。環境も状況も違う。

すべてのケースを知って対策を練っておくことは出来ないけれど、「産後は体も心も大きく変化するんだな」「自分では予想できないことが起こるんだな」「産んでからが本当の始まりなんだな」と知っておけば、心構えもできただろう。
私は本当に丸腰で産後に挑んでしまって、戸惑い、苦労した。

出産までを無事に乗り切ることに必死だった検索魔の私に言いたい。
産後の世界にも、もう少し目を向けたほうがいいよ、と。
出産してからの変化の方が、大きいよ、と。

ノーマークだった産後。いろいろ痛い産後。人それぞれの産後。
最初の数か月は、毎日泣いて、毎日くじけていたけれど
先輩たちの体験談に励まされ、乗り越えることができた。

そして産後の痛みを乗り越えた先にあったもの。
それは、想像していたよりも、楽しかった!

昨日と今日では、もう違う。「赤子」から「子ども」に日々変わっていく娘と共に過ごす毎日は、一瞬も目がはなせない。
そう、この楽しさも、産後に初めて知ったこと。
楽しいと思えるまでの時間の長さも、楽しさを感じる瞬間も、十人十色だろう。
きっと、その痛みの先には、喜びや楽しさがある。
股と胸の痛みと闘い睡眠不足に苦しんでいたときは、楽しいことなんて、想像もできなかったのだから。

産後というのは
不思議で奥深くて、痛くて、楽しくて、
まったく知らない未知の世界だった。

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