大学センター試験「地理B」で、ムーミンを出題した教授は世間知らずなのか?《プロフェショナル・ゼミ》
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記事:関谷智紀(プロフェッショナル・ゼミ)
ちょっと前になりますが、大学入試センター試験の「地理B」で、ムーミンが出題に登場したことが話題になったことがありました。
ある意味、大学センター試験という日本の若者の将来を大きく左右しかねないテストでムーミンが登場したことに試験翌日から話題が沸騰。ツイッターなどでは「なんでセンター試験でムーミン出てくるんだよ。もうアニメやってねーよ!」といった恨み節から「ムーミン出てきて驚いたけど、なんかほっこりした」といった意見など様々な反応を受験生たちが書き込んでいたようです。
新聞報道などによるとこの話題はまだくすぶっており、2月2日には、国会での質問にもこの件が登場したそう。
「教科書にムーミンが載っていないのに、大学センター試験で出題していいのか」という野党議員の質問に対して、政府側が「大学センター試験にて引用される資料は、それ自体は教科書に掲載されていなければダメというものではない」といった趣旨での回答がなされるなど、試験から数週間経ったいまでも、まだまだ話題になっています。
もう十数年以上も前になりますが、僕も受験生で社会科は「地理」を選択していまして、
「日本史」や「世界史」は年号や人の名前が覚えられず、まったく苦手だったので「地理」を選ばざるを得ないダメ受験生でしたが、当時はそれなりに頑張って勉強した科目だったので、興味しんしん。
この報道を知って私は思わず新聞を開き、どんな問題だったか探してしまいました。
ところが、「地理B」なんて選択する受験生が少ないマイナー科目なんですよね。
ウチで取っている新聞にはなんと、その「ムーミン問題」が一部省略と書かれ割愛されておりまして、あわててコンビニにその問題が掲載されている別の新聞を買いに走るというおまけ付きでありましたが、なんとか入手。さび付いた頭をフル回転させてうんうんうなりながら解いてみました。
やってみると……
お、これは。すっげー、面白い。
絶対私、受験生だったら会場でニヤリとしちゃう問題だわ。
と思いました。
フィンランド、スウェーデン、ノルウェーの3カ国について、鉱工業のデータや貿易のデータなどからそのデータに当てはまる国を選択肢から選ぶという「地理」では良くあるタイプの問題です。
そのなかで、スウェーデンを舞台にした「ニルスのふしぎな旅」というアニメが例示され、一方でフィンランドを舞台とした(とされる)アニメ「ムーミン」とノルウェーを舞台としたアニメ「小さなバイキングビッケ」の画像を見ながら、フィンランドとノルウェーの言語はそれぞれどっち? と選ばせる設問があるんですけれども、「あー、受験生の時は一生懸命こんなこと考えてたなー」って思い出していました。
「地理」を勉強していると、北欧のポイントとして挙げられるのが、北欧ではフィンランドだけが何故か言語体系が違うと言うことと、ノルウエーの海は北アメリカから暖流が流れ込んでいるので、冬になっても海が凍らないためバイキングに代表されるような海運が発達した、というポイントです。
そのあたりを知っていると、それぞれのアニメを見ていなくても消去法で正解にたどり着けるので、「教授、なかなか考えましたね」と思わずつぶやいてしまいそうな問題だと感じました。
まあ、設問がセンター試験として適当だったかどうかは、専門家の方がブログ等で色々書かれているのでそちらを参照して頂くとして、「地理」を選択して勉強頑張った受験生にとっては面白い問題だったんじゃないかな、と思います。
僕が「地理」を勉強していて一番楽しかったのは、今の時代に過ごす世界中の人たちの暮らしぶりが、データなどからなんとなく想像できることでした。
例えば、アメリカの五大湖周辺は近くに鉄鉱石に鉱山があってそれを湖上のルートで船で運ぶことができるから、自動車産業が発展した、なんて話があれば、想像するんです。
「お、ホットドッグ大好きなアメリカ人のオッサンが、ヘルメットかぶって鉄鉱石を船に積み込んでる。で、それが船からトラックに降ろされてオーバーオールを着た黒人さんが溶鉱炉へ鉄鉱石をドバー。できた鉄は自動車工場で、また別の工員さんが『オー、イエー』とか言いながら組み立ててる」
とか、
ノルウエーではフィヨルドと呼ばれる水深の深い入り江がたくさんあって、今はそこでサーモンの養殖が盛ん。
と書かれていれば、
「ちょっと鼻を赤くしたフィッシャーマンが、フィヨルドの上に作られた生け簀からサーモンを網ですくって取り出すと、ビチビチビチってサーモンが網のなかで飛び跳ねてるの。で、カメラに向けて『どうだ、デカいサーモンだろ』って親指を立てている」
といった感じで映像が頭に浮かんでくるんですね。
で、その人たちは仕事が終わると家路につきます。
そのお家には、奥さんと子どもたちが待っていて
「パパ、今日はこんなことがあったよ」なんて話しながら夕食を取ったりするシーンを勝手に想像したりして。
こんなことを考えているウチに、世界中を旅行しているような気分になれるんですね。
だから、テレビで世界の情報を教えてくれる番組も大好きでした。
僕が子どもだった頃は、レポーターが世界中を飛び回って、現地の人たちの生活ぶりを紹介したり、その国だけで使われている道具を見せて「これは何に使うんでしょうか?」とクイズにしたりする番組がいっぱいあって、毎回楽しみにしてかじりつくように見ていたものです。
今だと、「イッテQ」辺りの番組ですかね。
それらの番組から伝わってくる各国の人たちの笑顔を見て「地球って広いんだなぁ。世界中には、いろんな考え方で生活している人たちがいっぱいいるんだなぁ」って感じていて、受験生だった僕は早く世界に飛び出してみたい、いろんな国の人と会ってみたい、と思うようになりました。
「地理」って、そんな感じで、世界の人たちの営みを自分の目線で「どうして人はそんなことをするんだろう」って考えることのできる科目だと思うんですよね。教科書に載っている内容をただ暗記する科目ではなくって、テレビのニュースを見たり、新聞を読んだり、映画を見ることだって実は「地理」の勉強になるんです。
そう気付いた頃から「地理」がますます好きになりました。
教科書に載っているいろんな内容も、テレビでの映像とか映画のシーンと絡ませて頭のなかで繋がってきます。
すると、世界のいろんな人が頑張って仕事しているシーンが巡り巡って、僕ら日本人の生活にも影響しているんだなぁ、って想像できるようになってきて、それからは、もう「地理」に夢中になってしまいました。
「地理」の教科書や資料集のなかには、地球上の人間の営みがいっぱい詰まっているんです。
実際、大人になって、仕事とかで海外に出かける時があります。
仕事で海外に行く時はタイトなスケジュールにならざるを得なくて、一緒にいった同僚は「なんで、こんな所まで来てホテルとオフィスの往復なんだよ! 観光くらいさせろよー」とくだ巻いてますが、私の場合「地理」を勉強したおかげか、そんな状況でも「あー、この街は川にできた宿場町が発祥だから、川沿いのほうが古い建物があって街並みがオシャレなんだなぁ」とか「あー、この国の人たちはこんな感じで働いてるんだー」とか想像して楽しんでいるので、余計なストレスが少ないという効用(?)もあります。
このあいだ、ウチに遊びに来ていた甥っ子とそれこそ「イッテQ」見ていて、昔学んだ知識をポツポツ披露したら「おじちゃん、スゲー詳しい!」と喜んでくれて、今はネットでいろんな国のことを調べ始めている様子です。
冒頭の問題を作成した教授も、そんな風に「地理って、教科書だけじゃなくって生活のいろんなシーンから世界の今の姿を自分で考えて、感じ取ってほしい」という考えを持っている方なんじゃないかな。
あの問題文は、そんな風なメッセージ性を行間に乗せよう、と工夫されたのかなとも感じています。
映画からでも、アニメからでも、自分次第でいろんなヒントをもらえる。
「地理」って、とても生活に身近な学問なんです。
まあ、いろんな意見はありますが、僕はあの問題文を作った教授は世間知らずでもなんでもなくて、「大学に入っても楽しい『地理』を学び続けてほしい」という思いで、一生懸命頭をひねって作られたんじゃないかな、と勝手に想像しています。
問題に登場した「ニルス」「ムーミン」「小さなバイキングビッケ」はどれも名作なんで、今度甥っ子と一緒にDVD借りて、一緒に見ようかな。
あ、でも、ムーミンの舞台はフィンランドじゃなくて「ムーミン谷」ですよ(笑)。
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