変り者の脱皮
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:笠本光恵(ライティング・ゼミ日曜コース)
私は自分に自信がない。と言っても、「私なんて……」と部屋で体育座りをしています、というわけではない。そうしたいのは山々だが、すでに世の中に関わってしまっているので、乗りかかった舟から降りるわけにもいかない。人間は一人では生きていけない。チャーリー浜さんのギャグ「きみたちがいて、僕がいる」のように、みんながいて、私自身も「みんな」の構成要素となって、世の中はできている。だが、みんなという集団の中でどうしてもなじめない、浮いてしまう存在がいる。それが私だ。
例えば同じ小説を読んだとする。「みんな」は悲劇的なラストで心が重くなった、という感想を持ち、私は爽快感を感じた、と評した。小説の感想なのだから間違っているわけではないし、人より劣っているというわけでもない。でもキラリと光る個性とも言えない。ただ私はちょっと変わっているのだ。変な人として生きていくのもまた一興だが、笑われたり恥ずかしい思いをすることも多く、できればそれは避けたいものだ。自分に自信がないというのはつまり、「みんな」から浮かないような無難な振る舞いができているかどうか、常に疑心暗鬼になっているという意味だ。
学生時代は、変り者で友達がいなくても構わなかった。ぼっち飯だって普通にできた。しかし就職してしまうと、周囲とうまくやっていくのも仕事のうちだ。仕事の内容にもよると思うが、私の業務は個性を発揮することよりも平均的であることが求められる。人間関係においても、浅く広く、嫌味にならない程度に愛想よくしなければと思っている。できているかどうかは疑問だが、ただ機械のように淡々と、感情を出さずに平日を「うまくやる」よう心がけてきた。
ところが、である。ライティング・ゼミを受講し、毎週二千字の文章を書いて提出することになった。自分の頭の中だけにあるものを言語化するのだ。最初は原稿用紙を前に、まじか、と思った。自分の考えを述べること、それは日常生活において徹底的に避けてきたことだ。また変なやつだと思われてしまう。でもやりたくて始めたことだ。あくまでも文章を書く訓練なのだし、内容は人を悪く言うのでなければいいだろう。面白くなければ読まれないだけの事だ、と自分をさらけ出す恐怖をなんとか乗り越えて、人様に文章を読んで頂くのである。
始めてみると、二千字は多いと思っていたのが、書けないということはないな、と思えるようになった。ネタがないと思っていたが、日常の中に転がっていることも発見した。自分の考えを述べても変な人扱いされず読んで頂けることもあるのだとわかった。口に出すのはまだ難しいが、書くことはむしろ楽しいかもしれないと思えるようになった。
自分の変化はそれだけではなかった。仕事でメールを書くことが多いのだが、メールを速く打てるようになった。業務の内容なのだから元々感情など入れていないが、以前はそれはそれは気を遣って書いていたのだ。誤字脱字はないだろうか、敬語は正しいだろうか、相手の都合をわきまえているだろうか、宛先は間違っていないだろうか、失礼な言葉を使っていないだろうか。気にしだしたらきりがない。「これとこれの内容に齟齬があるように見えますが、どちらを正と考えたらよろしいでしょうか、ご教示をお願い致します」なんて、自分でも意味がわからない言葉を並べていた。かなりの時間を要して無難な文章を書くことに心を砕いた。本当は一言、「あんた、これ間違ってるんちゃうん」と言いたいだけなのに。
ほんの数回、ライティング・ゼミの課題を提出しただけだが、業務メールの送信ボタンを押す勇気が持てるようになったのだ。今まで送るのを躊躇していたような文を、迅速に簡潔に、平易な言葉で聞きたいことをズバリとたずねられるようになった。送信した相手にも内容が伝わりやすくなったのか、その後の処理が速くたやすくなった気がする。もちろん「あんた間違ってるんちゃうん」なんて決して書いていないが、行間から読み取ってくれたように感じるのだ。
仕事のメールを送ることは、相手の仕事を増やしている気持ちになるし悪いことをしている気持ちにも正直なってしまう。だが、それは変り者である私の「気持ち」にすぎない。相手に必要なのは、一方的で過剰な気遣いよりも、情報や意見を正確に伝えることだ。
無難な文章ではなく、伝わる文章、読まれる文章を目指す。それは変り者である自分を隠すのではなく伝えること、理解されることにつながるかもしれない。
変り者から人気者への脱皮を目指して、今日も原稿用紙に向かおう。
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