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メディアグランプリ

「うつ」だった私 劇的に人生を変えたある習慣


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:濱田詢子(ライティング・ゼミ 日曜コース)

 
 
21歳の誕生日を迎えた週末、当時つきあい始めた職場の先輩から、「今度の日曜日、海を見に行かないか?」と誘われた。彼の住んでいる町は海のすぐ近くにあった。
車窓の景色は踊るように初夏の風になびいていく。大きな下りのカーブを曲がると、海が見えてきた。どこまでも続く波が夕陽の中できらきらとまばゆく輝いていた。
私はお客様からのクレームを扱う部署で働いていた。上司からの期待に応えて仕事の要領もつかみ、同僚もよい人たちで働き甲斐もあった。毎日が新鮮で楽しく、このまま順風満帆にゆくかに思えた。
ところが、翌月着任した係長は、私が書いた報告書を見て、おもむろに私を呼び出すと正確に記載された箇所をことごとく誤記だと主張して、他の社員の前でなじった。私が毎日報告するお客様からのクレームの件数を彼が減らして報告していたのに気づいて、その場でもの申したのが気に入らなかったのかもしれない。素早く証拠の書類も処分されていた。誰も何もいわない。彼は毎月件数を半分減らして報告した。2年後も係長からしつこくなじられる毎日は続いていた。社内アナウンスをするたび、係長に「お前は何を言っているかさっぱりわからんな!」と嘲笑を浴びた。
それまでは、尊敬していた前の上司たちに「完璧だったね」とほめられたり、新しい仕事をどんどん覚えていくのが楽しかった。
しかしこの頃いつも気分がふさいで、一人になると突然泣いたり、自分にひどく腹を立てるようになった。お金に苦労していた家族にはなにも話せず、別の部署だった彼とも疎遠になった。何度も理由を聞かれたが、言葉にできず答えられなかった。頑張ろう、元気になろうとすればするほど、自分が無力でおかしい人間に思えて仕方がなかったのだ。
気づくと同僚も一人また一人と辞めていった。新人が入って来ると係長が彼らに優先的に仕事を与え、研修に行かせた。落ち込んだが、私には仕事が必要だった。
20年以上も前のこと、当時は「うつ」という言葉を知らなかった。
残業帰りに書店に寄り、「気分が良くなる方法」「あなたを変える習慣」などの本を読んだ。新聞を開いても、そのような記事が目にとびこんでくる。
呼吸法、音楽、森林浴、リラクゼーションの方法など、書かれていたことをいろいろ試してみたが、自分にはあまり効果がないように思われた。
こんな日々を繰り返していちゃ、だめだ。
何かを変えなくちゃ、だめだ。
そんなある日、看護師になっていた学生時代の親友から電話があった。
「先生に一度会ってみる?」彼女は地元でよく知られた精神科医院に就職していた。当時まだ心療内科はなかった。二週間ほど考え、予約を決めた。初めて職場に嘘の理由を言って休み、診察を受けた。雨が強く降っていて、玄関までの石畳も長く感じられた。
院長は、60歳をいくつか越えていたろう。ベテランのその医師は、少し口ごもりながら、私にゆっくり話しかけた。
「診た結果、あなたは異常なところはないです。といいますか、このようになるのは、実はとても真面目な人だからです」
そしてこう言った。「あなたは自分の思うことなら何でもできます。きっと他の人よりもうまくできるでしょう。心配は要りません。次はね、来られなくていいですよ」これらの言葉をゆっくり、とつとつと私に話した。それはこの医師にとって自然なスピードであり、口調らしかった。その声と話し方に、彼の誠実さがにじみ出ている気がした。その意外な言葉を聞いたとき初めて心の奥でなにか重荷に感じていたものがすこし軽くなった。親友に感謝した。彼女はうなずいて、「よかったね」と言ってくれた。
それから、私はそれまでやったことのない1つのことを試すことに決めた。折にふれて練習することにした。
それは、「気持ちのチャンネルを切り替える」ということだった。
ラジオやテレビのチャンネルを変えると、周波数やチャンネルが合うところに放送が入ってくる。それまでの自分は、観たくない同じ放送をスクリーンの前でじっと観ていたのだ。気分を変えることは苦手だったが、嫌なことを言われても、心の中でチャンネルをカチャと変えて、寝る前には考えないようにした。今度は良くしようと切り替えて、嫌な気分をいつまでも引きずらない。やがて係長のことも気にならなくなった。3年後にチャンスが訪れ、あこがれていたさまざまな国の人たちと異文化の間で働く仕事を始めた時、この習慣が私を後押ししてくれた。心の中で切り替えて、自由になる。まさに劇的に私の人生を変えてくれた「カチャ」だ。
 
 
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2018-02-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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