テスラに乗ってみた、意外な事が頭を過った《プロフェッショナル・ゼミ》
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記事:山田THX将治(プロフェッショナル・ゼミ)
話題の超高級NEV(New Energy Vehicle;電気自動車)“テスラ”に乗ってみた。
あくまで試乗したまでだ。買える訳が無い。何しろ定価が1,500万円を超えるからだ。諸経費を入れた‘乗り出し’は多分、2,000万円前後となるだろう。その超高級車は、イーロン・マスクCEOが率いる、例の会社の車だ。
マニュアル・ミッションのガソリン車が好きで、普段からハイオク・ガソリンをばら撒く様に運転来たので、‘何を血迷っているんだ?’とツッコミが入りそうだが、価格が8桁円に達する車は流石に魅力が有り、一度は体験してみたかったのだ。
それに今年に入って、イーロン・マスクCEOが受け取り可能なこの10年間のインセンティヴが、何と“約6兆円”と聞き驚いたことも、試乗に出向いた理由の一つだ。だって、6兆円って、国家予算並みの金額ですよ。いくらお金持ちが多いアメリカでも、稀有な話の筈ですよ。その会社が造っている車って、興味を持つ方が普通でしょう。
テスラの試乗は、ネットで予約すれば、思いの外簡単だった。
普段から車を移動手段の中心にしている私だが、その日は電車で行こうかと考えた。何故なら、普段の‘足’として使っている国産大衆車で乗り付けたのでは、それこそ‘足元’を見られる恐れが有ったからだ。
ところが、予約が取れた日は土曜日で、私の土曜日は‘天狼院雑誌編集部’出席の為、必ず天狼院で過ごすことになっている。PCその他を持っていかねばならない為、荷物が多く電車で行くのは億劫になるのだ。
そこで、少し離れた駐車場に‘足’を泊め、徒歩で向かうことにした。
服装は、買わない(買えない)と見透かされるのが嫌なので、スーツで向かおうかとも考えたが、土曜だったので逆に浮いてしまう恐れを感じ止めることにした。そこで、一張羅のお気に入りジャケットで出掛けた。
‘足元’には気を付けて、しかもいかにも車好きの運転好きに見える様、取って置きの“ドライビングシューズ”を履いてみた。
試乗したのは最上級モデルの“Model X”という車種だった。一目見て‘これはデカい!’と驚いてしまった。しかも、車体重量が重かった。どうら、電気で車を動かす為には、巨大な蓄電池(バッテリー)が必要となり、そこでどうしても重量がかさんでしまうそうだ。
これでは車の少ない地方なら兎も角、東京では駐車場に困り気軽に乗れないなと直感した。この車体を受け入れてくれる駐車場は、街場では滅多に無いだろう。コインパーキングにはまず入るまい。例え入ったとしても、入出庫には苦労しそうだった。その上、3トンに迫ろうかという車重では、東京に多い機械式駐車場には重量オーバーで、間違いなく断られるだろう。ただ、地方だと、今度は充電する設備が都会ほど無いと思われる為、この“テスラ”は日本には向かないのではとも思った。
しかも、事前の説明によると、フル充電にはかなりの時間が掛かるらしい。しかも、しばらく乗らないと自然放電により走行距離が短くなるそうだ。そうなると、“テスラ”の電気代は、ガソリン車の燃料代よりも高く付く可能性が有るのだ。
エコロジーの観点からは、必要なのかもしれないが、コスト面からはお勧めできない。
しかし、これは仕方が無い。何故なら、ガソリン代よりも電気代が高い、日本の事を考えて開発されてはいないのだから。でも、右ハンドル仕様が有るのだから、もう少し日本の事を考えてもらいたかった。
そんな疑念の中で、試乗車に乗り込んでみた。メルセデスベンツに勝るとも劣らない、豪華な内装だった。シートも大き目の米国仕様で、乗り心地は良かった。スイッチを‘ON’にしたものの、全くの無音だった。内燃機エンジンが無いのだから当然だ。この静けさが、“テスラ”の高級感を一層高めている様だった。
運転席と助手席の間、俗に言う“センタータワー”(よく、カーナビが備わっているところ)に、巨大なタッチパネルが備わっていた。丁度、‘iPad’位の大きさだ。そのタッチパネルで、車の全ての設定が可能だった。ナビゲーションや室内温度、オーディオといった設定が、事細かにタッチパネルに組み込まれていた。
これは、来るべき将来“自動運転”が可能になった時に、大活躍するモバイルだろう。
無音のまま、アクセルを踏み込んでみた。これまでに体験したことが無い、急激な加速感が有った。これまでに、勿論試乗でだが、フェラーリやポルシェに乗ったことは有る。普段から、国産だがスポーツカーにも乗っているので、少々の出足では驚かない筈だったが。
やはり、これからの車は、電気で、モーターで動かすことになるかもしれないと感じた。それ程までに、動力性能に差があった。
ただ、若干の違和感があった。
アクセルを戻すと、ガソリン車での“エンジンブレーキ”以上の減速感が生じるのだ。少し大げさにいうと、急ブレーキを踏んだみたいだった。これはモーターの特性らしい。しかしそうなると、自動運転時代になったら急ブレーキの連発になるのではと思ってしまった。
エンジン車に比べて、格段に静かなのでかなりの速度を出しても、実感が湧かないというか、スピードにリアル感が無かった。やはり、エンジン音は車好きにとって大切なのだと再認識した。
そして、あまりに多くの事が自動制御になっている為、運転している実感が無かった。まさに“自動車”なのだ。自ら‘動かす’車の意味では無く、自ら‘動く’車という意味でだ。こんな、シャレみたいな感想が出ていたことが、本音だった。
そんな訳で、話題の電気自動車“テスラ”の試乗は、期待通りとは思えなかった。理由を考えてみた。
やはり、自ら動くのではなく、他者(車)から動かされるということは、ここ心地良い事では無かったのかも知れない。自分の意思が反映されているにもかかわらずだ。
これは多分、先端技術を駆使してエポックメーキングな製品を生み出そうとする、米国ベンチャーの心意気なのかもしれない。‘走るiPhone’等と言われたくて、造り上げた製品なのだろう。
電気自動車なのだから、‘自動運転’を開発するのには、早道なのだろう。運転の全てを、電気的に制御するからだ。
電気自動車は今は未だ、‘過渡期’の製品なのかもしれないとも感じた次第だ。
遠からぬ将来、ガソリン車大好きな私でも、電気自動車の御世話になる可能性は、決して否定できないとも思えてきたのも事実だ。
試乗の帰り道、天狼院に向かいながらこの‘シックリこなさ加減’は何なのだろうと考えた。
天狼院によく通っている私は、三浦店主から常々「衰退産業+イースト菌=新業態」「天狼院は書店界のシルクドソレイユ」と聞かされている。天狼院が提唱する“READING LIFE”を、人一倍体験している。
もしかしたら“テスラ”に、大好きな自動車の新機軸を期待していたのかも知れない。確かに、電気モーターのみで車を走られるのは新機軸ではある。しかし、自分で操縦する喜び、自分の足では出すことが出来ない速度での移動、そして時には危険と隣り合わせの緊張感といった、車を運転する痛快感が無かったのも事実だ。
今のままの“テスラ”では、“READING LIFE”を伴わない天狼院と同じだ。単に読者会を開催しているだけの、仲良しが集まる書店と同じだ。
天狼院を知っている車好きの私に、今の“テスラ”では満足出来なくても仕方が無いのかも知れない。
もう一つ、イーロン・マスク氏と、天狼院の三浦店主のキャラクターの違いが、大きく影響しているのかも知れない。
巨額の報酬を得ているマスク氏と、薄給で連日長時間“READING LIFE”を提供し続ける三浦店主。
たまたま請われて自動車という製品で自社を巨大事業にせんとするマスク氏と、“本”という自らが信じ切っていて、そして何より誰以上に“本”が大好きな三浦店主。
予約した“テスラ”がなかなか納品されず文句を言って来た顧客(それも有名な大金持ち)に対し、「待てないのなら買わなくていい」と言い放つマスク氏と、別々の三人から同じ要望が有れば、必ず遂行することをルール付けする三浦店主。
世間的に見て、その事業の大きさから、イーロン・マスク氏と三浦店主を比較するものは居まい。もし居たら、笑いものになるだけだ。しかし、一人の人間として、この二人を比較した時、自分の好きな物に対する“熱い想い”のボリュームは、完全に三浦店主に軍配を上げざるを得ないだろう。
‘好きな者が造ったのではない空虚さ’
これが、何より車の運転が好きな私が感じた“テスラ”に対する素直な感想だ。
この車を運転して、運転が好きになるとは思えなかった。
本・文章に対する情熱から、我々に本の先に在る‘ライティング’という楽しみを教えてくれた、天狼院並びに三浦店主とは大違いなのだ。
そういえば、イーロン・マスク氏には、‘かつら疑惑’が有るらしい。確かに、若い頃から比べると、額が後退してい“た”ことは否めない。立場上、外見に気を遣っていると言えるし、往生際が悪いとも言える。
三浦店主はときに、「ハゲていてよかった」等と強気な事を言う。外見を見事に、ブランディングに使ったからだ。
この辺りも、会社経営に対する両者の違いが見えてくる。
私は、好きな本の先にある世界を実践する、‘身の丈’に合った楽しみを提供してくれる事業所・事業主に出会えて幸運だ。
そう思った時に、東京天狼院に到着した。
店内に座りスマフォでFacebookを開いてみた。そこには三浦店主の新しい書き込みが上がっていた。
「俺の髪型は坊主じゃない。短めのソフトモヒカンだ」とあった。
なんだよ!三浦さんも往生際が悪いのかよ。
でも、自然と笑顔になった。
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