メディアグランプリ

テスト前に徹夜で勉強したら世界の美しさを知った


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記事:増田明(ライディング・ゼミ平日コース)

 
 
あれは中学3年生の秋のこと。
そのとき私はとても焦っていた。時刻は草木も眠る丑三つ時。深夜2時をまわっていた。
翌日は2学期の期末試験だった。神奈川県の公立高校は、2学期の成績が入学合否判定の半分近くを占める。その大事な大事な2学期の成績は、明日の期末試験でほぼ決まる。
万全の準備で臨まなければならない。
 
しかし勉強の進捗は思わしくなかった。その原因は、昨日友人に借りた続き物のマンガ全10巻。それをついつい読んでしまったのだ。
 
まずい、非常にまずいな……
私の頭には、あるひねくれた考えが浮かんでいた。
 
もしやこれは友人の策略なのではないか。中学の成績は相対評価だ。そのため他人の成績が下がると自分の成績は上がる。ライバルである私の足を引っ張るために、あえてテスト前の時期を選んでマンガを貸したのではないか。
くそっ! まんまとヤツの策略にはまってしまったのかもしれない。
教科書のテスト範囲はあと15ページ。終わるまで一体何時間かかるだろう。このままでは夜が明けてしまう。
 
徐々に眠気が強くなってきた。このままでは眠ってしまう。そうだコーヒーを飲もう。
普段コーヒーを飲むことはめったになかったが、テスト勉強中に眠気対策としてたまに飲むことがあった。
椅子から立ち上がり大きく伸びをする。自室から出て居間に行き、インスタントコーヒーの粉をカップに入れる。ポットからお湯を注ぎ、スプーンでかき回す。
 
両親の部屋から寝息が聞こえてくる。
うらやましい。夜に布団でぐっすりと寝る。なんて幸せなことだろう。両親がうらやましい。普通に布団で寝ていられることがとてもうらやましい!
 
そんなことを思いながらコーヒーを片手に自室に戻る。顔をかるく叩いて気合をいれ、椅子に座る。コーヒーを飲みながら勉強を続ける。
 
何の音も聞こえない。とても深い夜の闇。このまま永遠に続いていくようだ。
当時一度も徹夜をしたことがなかった私は、寝ないと夜があけないような気がしていた。もちろん知識としては自分が寝なくても夜があけることは知っていた。しかし感覚的にはそうではなかった。一度太陽が沈み夜の闇が訪れると、それは永遠に続くように思われた。
いつまでもいつまでも続く、深い夜の闇。あらゆる活動が停止し、この世界で起きているのは自分だけ。そんな気がしていた。
 
コーヒーのカフェインが効いてきたのか、徐々に眠気が覚めてきた。よし、調子がでてきたぞ。気合をもう一度入れ直しひたすら教科書を読む。手を動かし問題をといていく。夜が深まれば深まるほど、私の集中も深まっていった。
 
それから何時間経っただろう。ふと気が付くと周囲の空気が一変していた。カーテンの隙間から薄明りが差し込んできていた。
私は窓の外を見た。空が明るくなってきている。何かに突き動かされるように椅子から立ち上がり、窓を開けベランダに飛び出した。
 
今まで見たことのない、美しい光景が広がっていた。
山と空の境目に白い光の線ができていて、空に覆いかぶさっている夜の闇を徐々に押し上げていた。光と闇の、明と暗の力比べ。先ほどまで永遠に続くかと思われた夜の闇が、徐々に後退していく。まるで世界が一気にひっくり返っていくような光景。
 
生まれて初めて見る、夜明けだった。
 
反対側の空を見ると、まだ夜の闇がどっしりと空を覆っている。
少しずつ白い光の線が空に広がっていく。その光景を見ていると、自分が宇宙に浮かぶ星の上にいるということが、改めて実感できた。
 
まるで「夜明け」という自然の超大作映画を見せられているようだった。
 
なんて美しいんだろう。
 
自分が見ていないうちに、毎晩こんな超大作が上映されていたなんて。
そう思うと何だかとても不思議だった。今まで毎日もったいないことをしていたな。そんな気がした。
 
しばらく我を忘れその光景を眺めていた。白い光の領域がどんどん大きくなっていく。闇の領域はもうそれを押し返すことができない。
そしてついに、眩く輝く光の源、太陽が現れた。
遠い宇宙のかなたにあるとはとても思えない、手を伸ばせばすぐにふれることができそうなほど近くにあるように感じる。
そう思えるほど太陽はエネルギーに満ちあふれていた。
太陽の登場によって、光と闇の力比べは決着がつき、夜の闇はすっかり勝負をあきらめ退散していった。
「夜明け」という自然の超大作映画は終了し、静かな朝が訪れた。
 
私は超大作を見た余韻にひたりながら部屋に戻った。テスト範囲の学習はだいたい終わっていた。私はやりきった満足感を感じながら布団に入り、眠りに落ちた。
 
数時間後、目覚ましが鳴り響く。猛烈な眠気を感じながら布団から起上がる。朝食をとり学校へ出かけて行く。その日のテストの出来具合がどうだったかは、あまり覚えていない。
 
私はその春、無事に志望校に合格することができた。
 
あの日から今まで夜明けを見る機会は何度もあった。
大学時代なんて夜が明けてから寝るのが当たり前な時期もあった。
 
しかし、中学時代に初めて見たあの夜明けが、今でも最も美しい夜明けとして、私の心に深く残り続けている。
 
 
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2018-02-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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