メディアグランプリ

日本人全体に問いかけられた疑問に、どう答えたらいい?


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:山田あゆみ(ライティング・ゼミ 特講)
*登場人物の名前は仮名です。

 
 
「どうして、答えがあるのにはぐらかすの。友達同士なら言って欲しい。言わないとわからない」
 
アメリアは、身振り手振りを交えながら興奮気味に言った。
 
「それが日本の文化なの?」
 
彼女は、一年間だけ交換留学で私の大学に来ていた留学生だった。
 
帰国前に一緒に学食で定食を食べることにした。
最後まで研究熱心なアメリアは、春休みだというのに毎日研究室に通い、とても忙しそうにしていた。
 
学校が休みに入っていることもあって、学食に人はまばらだった。
春の暖かい日差しを浴びながら、私たちは、いつもと変わらず他愛もない話をした。
 
ふと、気になって聞いてみた。
 
「日本に来て、一番予想外だったことというか、面白いと思ったことって何?」
 
アメリアは、日本での生活は楽しいものだったよ、と微笑んだ。
出会った人はみんな優しくて、親切で、思い出深いことばかり。
それから、でもと付け加えたのだ。
 
日本人は、はっきり物を言わない。
それだけが最後まで理解出来なかった。
初めは、お互いに緊張感があるから、遠慮してはっきり物を言わないのかもしれないと思っていたけど、いつまで経ってもそうだった。
 
例えば、今日何かごはんを食べに行こうかという話になって、どこに食べにいく? と聞いたら、どこでもいいという人が多い。
それで、じゃああそこのレストランにする? と聞くと、うーんそれもいいね、という。
でも、何となく満足そうに見えない。それで、やっぱりこっちの食堂にする? と聞いたら、そうだね、それがいいかもね、と答える。明らかにその食堂が最初から良かったように感じる。
そしたら、その前の会話は必要ないでしょ?
何で最初から言ってくれないんだろう。
 
アメリアは、じっと私の目を見て言った。
 
最初から、ここがいいって言えばいいのに、何でなの?
きっとそんな文化なんだと思うけど、これに適応するのは、私には無理だったよ。
他の文化の違いは、聞いたり見たりしたらわかるものばかりでしょ。
言葉が違うのは当たり前。
箸を使うのは、使い方を覚えればいいだけ。
生魚は、好き嫌いの問題だし、日本食だってみんな食べられるわけじゃないけど、そんなものを食べる文化だということで受容出来る。
でも、このコミュニケーションの方法だけは、身に付けようがないと思った。
だって、そうだよと言いながら内心そう思っていないんだよ。
一年もいれば、日本の文化に適応できると思っていたけど、この複雑なコミュニケーション方法は、予想外で、いつまで経っても馴染めなかった。
何となく、顔色を窺わなくちゃいけないことは、わかったけど、でもこの方法、誰にとっても得にならなくない?
 
アメリアの話を聞いて、確かに日本人にはそんなコミュニケーションの特徴があるような気がしてきた。
自分自身も含めてそんなコミュニケーションの取り方をしていることが多いかもしれない、と思った。
 
「たぶん、きっと和を重んじる文化だからだよ。自己主張をし過ぎるのは、良くないという文化だから、強く意見を言えないんだよね」
 
そう答えた、私に、アメリアは、納得いかなそうな顔をした。
 
「大変だね、日本人って」
 
その顔を見ながら、思った。
でも、本当に和を重んじる文化であるというそれだけが、この行動の理由なのだろうか。
以前、読んだ本にこんなことが書かれていた。
 
「日本人は、失敗を避ける文化だから、起業家精神が培われにくい」
 
もしかしたら、失敗をしないように気を配る文化だからというのも、意見を主張しない理由としてあるかもしれない。
 
例えばもし、こっちのレストランにしよう、と提案してそのレストランの食事がおいしくなかったら、それは失敗になる。
その失敗は、提案した人の責任になる。
それが嫌なんじゃないか。
それよりも、みんなで決めた選択だから、食事がまずくても仕方ないよね、と失敗の責任を皆に分担させようとしているのではないか。
 
あの日、アメリアに何でそんな周りくどいことをするの? と、質問されてから、私は、自分の気持ちとは、違う言葉を口にしようとしている自分に気が付いた時、一旦立ち止まるようになった。
 
和を乱さないように、まわりのみんなが良い気持ちで生活できるように、その言葉を選んでいるなら、それは良しとしよう。
いつだって、本当の事を言うのが正しいわけではないと思う。
 
でも、もしもそれが自分を守る為に選んだ言葉であったら、違う言葉を使えないか考えてみることにしている。
自信の無い自分を覆い隠す蓑として、言葉を使うのは目の前にいる相手にとって失礼な事だと、アメリアに気付かされたからだ。
 
身近な相手であったり、大事な人であったりすればなおさら、言葉を曖昧にして自分を守るのではなくて、間違いかもしれなくても、支持されなくても、私は何を考えているのか伝えようとする方が、ずっと誠実だ。
 
大切な事に気付かせてくれたアメリアに、10年以上が経った今も感謝している。
 
 
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2018-02-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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