セピア色の景色
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記事:増田圭織(ライティング・ゼミライトコース)
あれ、色がない、この景色。
ふと景色に違和感を感じた。私はその時、雪の中でスキーのリフトに乗っていた。辺り一面に雪が降っていて、山々は雪でお化粧した綺麗な姿を披露していて、息を飲むほど美しい景色だった、はず。なのに、私の目にはその雪はグレーがかって見え、辺りの景色はセピア色にくすんでいた。いくら目をこすってみたり、瞬きしてみても、その色は変わらなかった。
実はその日だけでなく、当時私が見る景色は全てセピア色にくすんでいた。何を見ても綺麗だと思わなかったし、誰と話しても楽しいと思わずいつもボーっとしていた。今から思えば軽い鬱状態だったかもしれない。その時私は今後自分の身に楽しいことが起こるなんて、景色に色が戻る日が来るなんて、思いもしなかった。
何がそんなに私を憂鬱な気分にさせていたのか。正直理由は様々で、当時学校のグループワークで理不尽な役割を負わされていたこととか、テスト期間が近くてテスト勉強に追われてろくに睡眠を取っていなかった、とか色々あると思う。だが、今にして思えば最大の原因はただ一つ、人生で初めて本気の恋をして大失敗をしたことだった。
実は私は今まで恋をしたことがなかった。小学校の時は男子はただのケンカ友達だったし、中学・高校は女子校で男子と接触する機会がなく、大学に入る頃はすっかり臆病になっていて男子に話しかけるのもやっと、という感じだった。だが幸いなことに、その時私は周りの男子には恵まれて男子とも気軽に話せるようになり、男友達はたくさんできた。そして、その男友達とコミュニケーションをとることが増え、その内の一人に私は恋をした……のではなく、現実には、私は一度に二人の人を好きになってしまった。
そんなことくらい恋愛経験豊富な人やモテる人からしたら普通なのかもしれない。でも私には、恋愛経験値ゼロの私には、その状況は耐えられなかった。なぜなら私は、自分が好きになる人は一人であるべきだ、と頑なに信じ込んでいたからだ。私は好きな人がもしできたら、その人のことを一途に想う、そんな恋愛をしたいと思っていたし、元から一つのことに集中するのが得意な自分にはできると思っていた。
しかし、現実には私は同時に二人を好きになってしまった。そして間の悪いことに、私が好きだと思って告白した相手には既に彼女がいた。電話越しで振られた私は、そのことでもかなり泣いたし憂鬱になったが、こうなったらもう一人の方に言ってやれとばかりに立て続けにもう一人に告白してしまった。今から考えると気持ちが焦りすぎて空回りしていてすごくかっこ悪いのだが、そんな焦って告白した相手からいい返事がもらえるわけもなく、結果私は立て続けに二回も失恋したのだ。
こうして人生初めての恋が終わり、学校生活でもうまくいっていなかった私の景色からは色が消えてしまった。肉眼で見ると確かに色はあるはずなのに、感覚的に色の存在がわからない。ずっと景色はくすんでいて、会話の声もどこか遠くから響くようにしか聞こえなくなって、私はひたすら自分の殻に閉じこもって日記ばかり書いていた。人とコミュニケーションをとるのが怖くなって、特に男子のそばには近寄らないようになった。本当にバカみたいだが、恋愛経験値ゼロの女子にとって初めての恋がダブル失恋に終わるというのは、結構心に深い傷を負わせるものだったのだ。大学一年の冬だった。
それから年月が過ぎ、私は大学二年になった。一年の終わりに失恋をしてしばらくはボケっと日々を過ごしていたが、二年生になると生活が一年の時よりずっと忙しくなって、いつまでも失恋の傷を引きずっている訳にもいかなくなった。私はこの傷を忙しさで埋め合わせようと意欲的に学業やゼミ・サークル活動に取り組んだ。結果、私は以前のように人とコミュニケーションを取れるようになり、楽しいことは楽しいと感じるようになったが、景色だけはいつまでもくすんで見えていた。どんな綺麗な景色を友人と見てもそれはセピア色でしかなかった。
そんなある時、私は何気ないラインがきっかけで男友達と二人で出かけることになった。正直彼のことは異性として意識したことはあまりなかったが、話が弾み一緒にいても緊張したり気後れしたりすることなく自然体でいられる人だった。二人でいつも通りおしゃべりを楽しんでいた時、彼が「ここ、夕日が綺麗に見えるらしいよ。行ってみようよ」と言ってきた。「うん、いいね。行こうか」そう答えながらも私は憂鬱だった。あの失恋以来、私の目に映る景色に色が戻ったことはない。どんなに綺麗な夕日だったとしても、きっとセピア色にしか見えないんだろうな。そんな風に悶々としていたら目的地に着いた。
そして、彼と見上げた空の色は、
水色、オレンジ、ピンク色の綺麗なグラデーションだった。セピア色なんかじゃなく、私の目にも綺麗な色として映った。息を飲むほど綺麗な夕日だった。
ああ、私の景色にようやく色が戻ってきた。この夕日は本当に綺麗に見える。でも、なんで突然? ああきっと、こんな風に綺麗な景色を一緒に見たい、と強く思う人に出会ったからだ。「綺麗な夕日だね」そう言って笑う彼の顔を見て、私は久々に胸がきゅんとするのを感じた。
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