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決め手は金額だけじゃない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山谷淳也(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
来月引越をする。費用は少しでも安く済ませたい。複数社の見積もりを一括で取れるサイトを利用した。希望日、現住所、引越先住所、建物階数、間取り、家具・家電、必要な梱包資材数などを入力。すぐに電話がかかってきた。
 
「A社です、引越しのお見積もり希望ありがとうございます! 早速ですがお伺いして見積もりを作成させていただきたいのですがご都合いかがでしょうか? こちらは最速30分後にお伺いできますが……」
 
「3、30分後?!」
 
1週間くらいかけて決めれば良いかと思っていたところにいきなりの30分後。勢いに圧倒されそうになりながらも、
 
「いや、今日は都合が悪いので明日の午前中でお願いします」
 
と切り返す。
 
「わかりました、では朝イチの9時にお伺いしますね」
 
A社よ、どれだけ前のめりなのだ。A社は翌朝9時に来ることになった。
 
その30分後。今度はB社から、
 
「B社です、引越しのお見積もり希望ありがとうございます! 早速ですがお伺いして見積もりを作成させていただきたいのですがご都合いかがでしょうか?」
 
とA社と同じ内容の入電。
 
「明日の午後でお願いします」
 
と返すと、
 
「他の会社さんからも見積もり取られますよね? 午前はどちらの会社さんでしょうか?」
 
え、なんでわかるの? 見透かされたことに動揺してしまい、
 
「9時からA、A社です……」
 
と素直に答えてしまう。
 
「わかりました、ではまた明日お伺いする前にお電話しますね」
 
との返答。ネットの入力が済んだ30分後には2件の見積もり予約が完了していた。
 
我が家には犬がいる。知らない人が苦手だ。見積もり訪問の時間は、妻が犬を連れて散歩に出て、終わったら帰ってくることにしていた。
 
翌朝、早速A社の営業A氏が訪問。童顔で若そうだが名刺には「営業リーダー」とある。できる人なのだろうか。家財を一通り見て回り、テーブルに座る。パソコンを立ち上げ操作しだすA氏。
 
「埼玉への引越しですか、埼玉って都会でしょう?」
 
「いや、南の方は都会ですが今度引っ越す北の方は結構田舎ですよ」
 
「あ、そうなんですか。都会かと思ってました」
 
と他愛もない会話が続く。このペースで長引いてはいけないと、
 
「うちには犬がいて、知らない人が苦手なので、妻と散歩に出ているんですよ」
 
と事情を伝える。そろそろ見積もりを出してくれるかと思ったが、資料を取り出し、
 
「この時期の引越しは高いんですよ、平常月の2倍、3倍、平気でしますからね」
 
「この時期だけ引越しを請け負う業者も出てくるんですよ、そういう会社は安くても家具を破損したり、壁に傷をつけたりというトラブルも多いので避けたほうが良いですね」
 
と引越業界事情を語り出すA氏。気がつけばA氏が来てから30分以上が経過していた。しびれを切らし、
 
「そろそろ見積もり出してもらえますか?」
 
と尋ねるともったいぶりながらもA氏が出してきた金額が約50万円。高い、高すぎる……。
 
「これだとご予算に合わないと思うので、ちょっと上司に掛け合ってみます」
 
とそこから電話すること10分。いや、それを事前にやっておいて欲しいのだが……。上司との電話が終わり出してきた金額が35万円。ネットの見積もりだと相場は25万円。まだ下がるはず。ここから駆け引きしなきゃいけないのだろうか。と、そのタイミングで妻から、
 
「あと何分かかるの?」
「ひーちゃん(犬の名前)寒がってる」
 
とお怒りの電話。妻の機嫌を損ねてはいけない。A氏にもその旨を伝え、最終の見積もりを出すよう急かす。再度上司に相談の電話を入れるA氏。A氏よ、もう待てないぞ、空気を読んでくれ。A氏の電話が終わった直後、
 
「もうそろそろ妻が帰ってくるので」
 
と暗に帰れとほのめかす。しかし動じないA氏。
 
「他のお客様との混載ができれば20万円台も可能なのでその確認にちょっとお時間をいただきたいのですが」
 
もう待てない。
 
「いや、じゃあそれがわかったらまた連絡ください」
 
と半ば追い出す。しぶしぶ帰って行くA氏。
 
寒い中、外で待たされ不機嫌な妻。震える犬。こんなやりとりが続くならもう見積もりは取りたくない……。そう思っていたところに、B社の営業B氏から訪問前の電話。30分後に来るという。妻はさらに機嫌が悪くなりながらも再度犬を連れて出かけることに。
 
うちについたB氏。電話での私と妻とのやりとりを察知してか、開口一番、
 
「すみません、ご無理を言って。大丈夫でしたでしょうか?」
 
と気遣いの一言。A氏とのギャップに安心し、
 
「大丈夫です、ちょっと前の見積もりが長くて妻の機嫌が……」
 
とつい漏らしてしまう。するとB氏から、
 
「A社の営業は誰です? ひょっとしてAくんですか? 私はこのエリアが長いんですが、彼、話が長くて有名なんですよ。この前別のお客さんのところで見積もりの予約が入っていてお伺いしたら前の時間がAくんで、結局予定の時間から2時間待たされたんですよ。ハハハ……。ホント、申し訳ないです」
 
いや、B氏よ、あなたは悪くない、謝らないでください。家財を見てすぐに見積もりを出すB氏。30万円。まだちょっと高いと伝えると上司に電話。別途相談していた不要品の引き取りも込み込みで27万円。これで即決してもらえないか、とのこと。ネットで見ていた相場よりもやや高いが許容範囲だ。決めれば見積もり訪問を終わらせられる、そして何より彼は信頼できる! その場でB社に決めた。翌日予約していたC社の見積もりはキャンセル。
 
その晩、引越日と引越業者が決まったお祝いにお酒呑んだ。妻の機嫌もすっかりよくなっていた。A氏はこれからも自分のペースで長時間の営業をするのだろう。そう、彼は営業マンとしての知識の披露や駆け引きをする自分に酔っていたのだ、今の私のように。と、ここまで書いてきてふと思う、A氏の自分に酔った営業を把握し、それに付き合わされた客に同情し、懐に飛び込むB氏。これが彼の戦略だったとしたら……。いや、それならそれで仕方がない、私の完敗である。
 
 
***

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2018-03-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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