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メディアグランプリ

大人はサンタクロース


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:増田明(ライディング・ゼミ平日コース)

 
 
子供の頃、クリスマスになるとサンタクロースがやってきて、枕元にプレゼントを置いていってくれた。毎年楽しみに待っていた。いつの頃からかサンタクロースは来なくなった。その代わり、クリスマスには父がプレゼントを買ってくれるようになった。サンタクロースはお父さんだったんだ。
 
子供の頃、大人は偉大な存在だった。親、親戚のおじさん、先生、習い事のコーチ。みんなすごく立派な人達に見えた。なんでも知っていて、なんでもできる。体もとても大きい。余裕もある。いつも正しいことを言う。そんなすごい存在だった。
自分も大きくなればいつか大人になるのかな。大人になって、なんでもできるようになるのかな。
 
小学校、中学校、高校を卒業し、大学に進学した。体や知能は完全に大人と同じになっていた。けれどまだ自分が大人になったとは思えなかった。
学生で、日々大人に教わってばかり。親の家に住み、親の稼いだお金で生きている。自分では何もできない。全然大人じゃない。大人はもっとちゃんとしている。自分で働き、自分で稼ぎ、自立して生きている。自分なんてまだまだ。
 
大学に進学せず就職した友達もいた。彼らがとても大人に見えた。
みんな社会で一人前に働いている。すごいよな。やっぱり就職して自分で稼ぐようにならないと、大人じゃないよな。
焦る。もう成人式もやったし、二十歳すぎても大人になれていないなんて。もういいかげん大人にならないと。
 
大学を卒業し、就職した。始めは右も左もわからない。全然仕事もできない。日々先輩、上司の方々に教わってばかり。まわりの先輩、上司達がとても大人に見えた。知識豊富でスキルも高い。問題が起きてもきちんと対応できる。仕事も早い。
 
自分もがんばらないと。一生懸命仕事を覚えて、一人前にならないと。今はまだ会社のお荷物でしかない。自分はまだまだ大人になりきれていない。がんぱって大人にならないと。
 
就職して数年たった。一通りの仕事を覚え、日々の業務をこなせるようになっていた。後輩もでき、指導もしていた。
先輩や上司と対等に話し、時には自分の意見を通すこともできるようになった。責任ある仕事も任されるようになった。
年齢も見た目も完全に大人になっていた。実家を出て自立して生活できている。結婚もした。もう自分一人だけの人生じゃない。
 
どう間違えたって「君は子供だね」なんて言われることはなくなった。
けれど本当に自分は大人になったのか? 仕事はなんとかこなしているけど、結構適当だし、あいかわらずバカだし。朝寝坊してしまって、急きょ有休を取得したこともある。友達と話す内容も、相変わらずバカなことばかりだ。
 
自分が、子供の頃に思っていたような大人になれたとはやはり思えなかった。
 
ある日、よく知っている先輩が体調を崩して一ヶ月くらい会社を休んだ、という話を人づてに聞いた。入社当初に一番お世話になった先輩だった。私が部署異動で別の部署に移ったため、最近はあまり会うことはなくなっていた。
会社から帰る時、エレベータでその先輩に偶然会った。一緒に駅までの道を歩いた。
 
「体調大丈夫ですか?」
「まあなんとか大丈夫だよ。まだ完全には治っていないんだけどね。ちょっといろいろあったから……」
「無理しないでくださいね」
 
多くは語らなかった。その後は体調の話題にはふれず、くだらない話をしながら帰った。
 
やっぱり先輩元気なかったな。
入社当初はとてもできる大人に見えていた。スキルが高く、リーダーシップもある。バリバリ仕事をこなしていた。けれど実は結構しんどかったのかもしれない。
できる大人、という先輩に対するイメージがはがれていって、弱さもある一人の人間としての先輩の姿が見えた気がした。
 
それからというもの、その先輩以外にも大人に見えていた上司や先輩達が、大人っぽく見えないことが多くなってきた。
彼らもミスはするし、間違ったことも言う。色々なことがうまくいかなくて悩んで、グチを言ったり、くだらない話をしたり。
 
会社の人達だけではなかった。親だって、親戚のおじさんだってそうだった。
私より頼りないこともあるし、わかっていないこともたくさんある。失敗もする。みんな実は結構適当で、間違えながら、悩みながら、バカなこともしながら、それぞれの人生を生きている。みんな子供の頃思っていたような、イメージ通りの大人じゃない。
 
実はちゃんとした大人なんて、いないんじゃないか。
 
そう思ったとき、なんだかとても楽になった気がした。大人にならなきゃ、という縛りから解放され、すーっと力が抜けた。
少しぐらいちゃんとしていなくてもいい。そういうことを自分に対しても他人に対しても、許すことができるような気がした。
 
大人って実は、自分は大人じゃないと思っている人の心の中にいる、想像上の存在。大人ってすごいな、大人になりたいな、って思う人の心の中にいる架空の存在。
 
子供の頃に思っていたような大人に自分はなったんだ! と言い切れる人なんて、世の中に実はいないんじゃないか。
 
子供の頃に憧れた大人、新人のころにすごいと思った先輩達の姿。それは自分の心の中の憧れや、悩みや、目標が作り出した存在。心の中の存在。
誰かに向けられた自分の心。誰かそのものじゃない。
本当はみんな人それぞれ、いろいろな人生を生きている。イメージ通りの「大人」としてくくることができる人なんていない。
 
大人なんていない。そう気が付いたとき、不思議なことに自分が少し大人になったような気がした。色々なことを認めて許すことができる、心の広い大人に。
 
子供時代に、サンタクロースはいない、お父さんだったんだ、って気が付いたとき、少しだけ大人になった気がしたのと同じように。
 
大人はサンタクロース。みんなの心の中にいる。本当はいないとわかったときに、少しだけ大人になれる。
 
 
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2018-03-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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