たまにはゆっくり歩いてみるか
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:南部千里(ライティング・ゼミ日曜コース)
会社帰り。最寄りの停留所でバスを降りると、大学の校門が近くにある。私の帰宅時間は、ちょうど授業が終わる時間と重なるらしく、いつも門からはたくさんの大学生が出てくる。自分が大学を卒業してから、もうすぐ丸8年が経とうとしている。
8年の間に、就職、結婚、転職、引越し……と、本当にいろいろなことがあり、バタバタと過ごしてきた。それにしてもあっという間だ。この間まで大学生活を楽しんでいたはずなのに、気づけば今の大学生とは干支が一回り違うのだ、恐ろしい。歳を取ると時間が経つのが早く感じるようになるとは言うけれど、もうちょっと若いつもりでいた。そういえば、学生の頃は2〜3日で消えていたニキビ痕が、最近では1週間経っても消えなくなった。「お肌の曲がり角」を順調に曲がってしまったという無情な事実は、現実をしっかりと認識させる。授業帰りの大学生を見ていると、自分が学生だった頃のことを思い出して感傷に浸ったり、微笑ましく思ったりするのだが、先日どうにも我慢できない出来事があった。
いつも通りバスを降りて校門に向かって歩いて行くと、授業が終わって出てきたのだろう2人の女の子の後ろにつく形になった。この2人、どうにも歩くのが遅い。ノロノロどころではない。足が動くのも遅ければ歩幅も小さいので、ノ〜ロノ〜〜ロという擬音をつけたくなるほどだ。わたしがバスを降りた時には50メートル以上先を歩いていたはずなのに、あっという間に追いついてしまった。横から追い越そうにも、そこそこ幅が広い歩道を絶妙に占領して歩いているのだ。ひと一人通れそうな空間はあるのだが、そこを狙って自転車がすり抜けたりするので、どうにも追い越すことができない。
どうしようかなぁ……すごい遅いなぁ……などと考えていると、わたしの後ろを歩いていた別の女性がしびれを切らしてズンズン歩き出し、わたしを追い越し、2人を追い越そうとする。これはチャンス! 優柔不断なわたしでも、このお姉さんの後ろをついて行けばタイミングよく追い越せるかも! そう思った瞬間、颯爽と2人を抜き去ったお姉さんがいたスペースを、反対側からきた自転車に奪われた。追い越し作戦、失敗である。
もぉぉ…!! ちょっとお嬢さんたち。本っ当、いい加減にしてくれないかな。オバサンは急いでるんですよ。家に帰ったら、洗濯カゴから溢れそうな洗濯物を今日こそ片付けないといけないし、夕飯の準備もあるの! 旦那が帰ってくる前に部屋の片付けもしたい。それにそれに、あと30分で見たいテレビが始まるんだよ……。「ごめんね、おばさんには時間がないの。お二人には今日これからまだまだ時間があるかもしれないんだけど、おばさんになったらそうもいかないの。申し訳ないんだけど先に行かせてください……」と本気でお願いしようかと思いながら2人の顔を見る。
そして、ふと気づいた。
2人とも、楽しそうだ。
ちらりと聞こえてくる話の内容は、別に大したことではない。本人たちは夢中で話しているのだけど、30過ぎのおばさんからしたら割とどうでもいい話だ。それでも、2人で笑いながらゆるゆると歩いて行く様子を見て、自分が学生だった頃を改めて思い出す。
授業はとっくに終わっているのに、食堂に移動して続く他愛ないおしゃべり。サークルの練習が終わってからみんなで出かけるラーメン。節分と称して友人の家に豆やお菓子を投げ込んだり、誕生日に壮大なサプライズを仕掛けたり。夜中にドライブに出かけた時は、朝方まで車を走らせ、筑波山から雲海を見たこともあった。あの頃は、何をするのにも全力投球で、笑ったり泣いたり忙しかった。そして、友人と過ごす時間が何よりも大切だった。
彼女たちは今、そんな時間を謳歌しているのだろう。ゆっくりゆっくり歩きながら、他人からしたらどうでもいい話題で盛り上がり、「また明日ね」と言いながらそれぞれの家に帰っていく。明日になったらまた、くだらないことで笑ったり、この世の終わりかというほど真剣に思い悩んだりしながら、少しずつ大人になっていくのだろう。
楽しそうな2人に気づいたら、日常の忙しなさに追われてゆっくり歩くことすら忘れてしまった自分を見つけた。「やらなければいけないこと」を挙げればキリがない。けれど、あっという間に過ぎてしまう毎日だからこそ、たまにはゆっくりと歩いてみることも必要なのかもしれない。そんなことを考えながらふと空を見上げると、きれいな星空が広がっていた。
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