のべ1,000名の見学者がやって来た授業の秘密
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記事:筒井洋一(ライティング・ゼミ日曜コース)
「もし授業にへんな人が来て、暴れたらどうするんだ」
「もし学外の人がハラスメントを起こしたら、どうする」
5年前のことだった。
大学の授業を学外に向けて公開しようとすると、学内からは予想以上に抵抗があった。そんなことをすると何が起こるのかわからないということで、さっそく検討会議がおこなわれた。
高校生獲得のために開催するオープンキャンパスでは模擬授業にはどんどん来て欲しいと思っていても、通常の授業に見学者が来る事が大問題となった。現在は、オープンキャンパスだけでなく、授業公開している大学も多いので、もはや懸念されることもないのだろうが、5年前はそうではなかった。
5年前に授業公開するのが早すぎたのだろうか?
確かに、私はやることが早すぎて、困られる事がしばしばある。でも、5年後、10年後にはそれが当たり前になったことだけをしてきたのも事実だ。少し早いかも知れないが、スパンを長く見てみると、決しておかしくはなかったはずだ。
5年前に話を戻すと、結局、会議では教員本人が見学者受け入れを望んでいるためしぶしぶ認められた。
同僚からは、不安感を漂わせながら尋ねられた。
「学外から見学者を募集するといっても、誰が来るの?」
「いえ、告知してからでないとわかりません。でも、やってみないと集まらないので頑張ります」
集まらなければ私の負けで、なんとしても集めたい。まずは、Facebookやブログに募集告知をした。思いっきり熱を込めて、
「大学の授業に見学に来られませんか?」
というタイトルで、長文の告知をおこなった。
当時、一般の人にとって、大学の授業が公開されるのは珍しかったのだろう。あっという間に、「いいね」が200以上になり、賛同のコメントや見学希望者も現れた。初回の授業は、告知から一週間経ってないにもかかわらず、見学者がやって来た。京都市内に大学があっても町の片隅にある上に、知名度がないので、見学者のほぼ全員が初めて大学に来られる方ばかりだった。受講生50名程度、ボランティア3名、見学者が10名程度で始まった。
教師と受講生だけがいるのが普通の授業だが、この授業では見ず知らずの見学者がいる不思議な授業の始まりだった。授業の最初に教師が説明し、見学者も自己紹介後には、すぐにワークが始まった。
「見学者」といえば教室の後に立って授業を見ているイメージだが、この授業では見学者も学生のグループに入って一緒にワークに取り組む。もちろん、ワークは学生中心なので、見学者はあくまでも学生のやりとりを傾聴することが基本である。ふだん学生と直接接する機会のない見学者にとっては非常に刺激的な光景が進行する。
「学生同士で話し合ってても、なかなか決まらない」
「やる気のない学生もいるので、一緒に話しても何も決まらない」
など学生どうしのやりとりを聞いている見学者は、いろいろ言いたくなる誘惑を押さえる事になる。でも、傾聴する事によって、むしろ、学生のやりとりをじっくり見ることができる。
自分も意見を言いたい見学者は、授業後の振り返り会ではその気持ちを一気に爆発させる。
「学生の話し合いが新鮮だった。社会人だったらもっとテキパキと話が進むのに、学生だったらあんなに悩むんだ」
「大人では思いつかないびっくりするようなアイデアが出てきますね。学生は、もっと当たり前の事しか言わないのかと思ってけど、意外に面白いです」
こうした感想を言った帰り際に、
「あのグループの学生が今度どうなるのか知りたいので、次回も見学に来てもいいでしょうか?」
「それは大歓迎です。是非学生の変化を見てやって下さい」
となる。
結局、2013年前期の授業見学者はのべ95名だった。15回授業なので平均6名の見学者だった。また来たいと言って下さる方や、今度行きたいという方もおられたので2013年後期にも見学者募集を継続したが、のべ65名だった。知り合いの見学者だけでは限界が来ていた。
2014年前期はたくさんのボランティアが集まったのだが、彼らがこういった。
「僕の知り合いが見学に来たいと行っているのですが、連れてきてもいいですか?」
これまでは私一人で見学者を集めていたが、彼らが自分の知り合いを呼んできて、状況が変わってきた。後期になると、常時授業公開が評判を呼び、これまで知らなかった見学希望者が増えてきた。以後は、ほぼ毎期100名以上ののべ見学者が来て、5年間でのべ1,000名を越えた。
もちろん、1,000名といっても、毎回の見学者は数名から10名程度なので、そんなに多くない。しかし、募集すると、次々に新しい見学者が来てくれる。
特に有名でもない大学の、有名でもない教師の授業に、1,000名以上の見学者が来るって、すごくないですか?
有名だからとか、交通至便だからでなくても、見学者が来てくれるという実績を生み出したのだ。オープンキャンパスは、入学して欲しい高校生に向けて、大学側が見せたい授業や説明をする。しかし、私の授業公開は、学外の人が見たい物を見せている。これが秘密だ。大学が見せたい物ではなく、見たい物を見せるという視点で考えた場合、大学はまだ見せるべき宝物はたくさんある。
また、当初懸念されたように、不審者がやって来る事も、ハラスメントも一件たりとも起こらなかった。もし仮に授業公開しなければ大きな機会損失したはずだ。行動する前に不安感を煽るよりも、まずやりながら考える事。そこが最も大切なことだと思う。
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