祖父からの最後のメッセージ
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記事:藤川大暉(ライティング・ゼミライトコース)
「お前はとにかく東大に行け!」
「無駄なことをしている場合じゃない! お前と同じ年の子はこんなにも優秀だぞ!」
「金を与えているのだから結果を出せ!」
全て子供のころに祖父から毎度のように言われ続けてきた。
私は祖父が嫌いだ。今になっても好きにはなれそうにはない。多くの人は、おじいちゃん・おばあちゃんとの楽しい思い出の一つや二つあるのだろうと思う。
私の場合は楽しい思い出などは無かった。あるのは毎回の説教と自慢だけだった。
祖父は自分で会社を立ち上げた経験のある人であったために社長業にこだわりが強い人でもあった。そして祖父自身も叔父も東大を目指したが、受からなかったそのコンプレックスを埋めるために必死に東大受験を私に勧めた。
祖母は40年以上保育士として働き、退職した後も家で小さい子供を一時的に預かり保育の仕事を続けている。一つの事をこれだけ長く続けられるのは凄いことだと思うが、私が遊びに行くたびに預かっている子供と比べられ馬鹿にされ続けた。
このような少し癖のある祖父母を持ち、私は学生生活を過ごしてきた。もちろん毎日顔を合わせていたわけでは無いが、父と祖父は相性が最悪のため年に1度会うかどうかという状態のため私が祖父母の様子を見に行くことが自然と多くなった。
私の学校選びにも祖父母は大きく関わってきた。幼稚園は祖父母が指定した場所に通った。元々予定していた学校があったが、反対されて行くことが出来なかった。中学高校も指定されたが、この頃になると自分で学校を決めて祖父母の反対を押し切って学校に通っていた。
祖父母の家に様子を見に行くたびに嫌味を言われ、比較され昔の自慢話や説教を聞かされていたが、私は中学ぐらいから自分はダメな奴なのではないかと思いはじめていた。
祖父母の話は聞き流していたが、周りには迷惑の掛けないいい人でいないといけないという風潮に流されていた。
今思えばあのころから自分を偽って、我慢して考えず周りに流されて生きてきた。
自分を深く知ろうとも自分を愛そうともしてこなかった。
毎日、感情を殺して他人に合わせる日々を大学では送っていた。いかにして自分意見を言わないで、流されるか表面だけ良くするか、そんなことばかり考えていた。
不思議なもので、表面だけ取り繕うようにしていたら周りからの評価は知らぬ間に上がっていた。教授も先輩も企業もこんな薄っぺらな自分を評価してくれた。何かを深く考えているわけでもなく、色々なところからキリバリして集めたような意見しかないのにもかかわらず。
気が付くと私は、自分の感情を殺し、考えるのをやめ、流されるように生きていた。
そんな私からしたら就活は得意分野だった。表面だけはうまく取り繕ってきたので、それをアピールすればあとは何とでもなる。結果として就活を始めて2か月もしないで内定を複数獲得し、就活を終えた。
祖父母に就職の報告にいくと、やはり褒められることは無かった。いつも通りの説教と自慢話だった。もはやこの時の私にとっては、祖父母が変わらないでいてくれて安心するようになっていた。
深い理由もなく、入った会社でダラダラと毎日を流されながら過ごしていると、突然祖父が亡くなったという連絡が入った。
確かに祖父は年ではあったが、毎回説教をする程度には元気であったため今回の事には驚いた。祖父から聞いた最後の説教は「金を出すから法学部に入り直せ!」だった。
相変わらず、人の進路を何でも自分で決めたがる人であった。本当に勝手な人だ。散々文句ばっかり言っておめでとうの一言もなく死んでしまった。
祖父の死から数か月して、私は会社を辞めた。職場で思うところがあったのもあるが、今まで必死になって自分自身を押し殺し、表面だけのいい人を演じ続けたが、ふと疑問に思うようになった。
「そもそも誰のためにこんなことやっているのだろう?」
「祖父に認めてもらいたかったのだろうか?」
「今後何をしていけばいいのだろうか?」
今まで何となく生きてきたために自分が生きていて楽しいとかを心の底から感じたことが無かった。何かに没頭することも、夢も希望も何にも自分は持ってない空っぽであることに気づかされた。
祖父の死から初めて自分が空っぽであると気づかされた。今まで自由にしてきたつもりだったが、むしろ勝手に自由を捨てていたのかも知れない。周りに流され感情を殺すことは私にとって辛うじて生きているのと同じであった。
今となっては、祖父の説教も自慢話も他人との比較も意味があったのかもしれない
祖父から毎回命令されるのが嫌なくせに完全に反発して結果を残す勇気も当時の私には無かった。
祖父は「東大に行け!」が口癖であったが、今は別のメッセージがあったのだと感じている。それは、「命令されるのが嫌だと感じたなら、その感情を大切にして、自分で考え反発出来るぐらい自由に生きてみろ!」ということだったのかもしれない。今となっては、本人に聞くことも出来ないが。
私は祖父が嫌いだ。
直接伝えてくれないとわからないのに
結局本当のメッセージを伝えることなく死んでしまったから。
ただ、今度からはもっと自分を大切にして自由に生きてみようと思うよ。
初めて言うけど「ありがとう」
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