メディアグランプリ

耳が聞こえなくなった時、体から愛のメッセージが聞こえてきた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:いさだゆりこ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
「あれ、耳がなんか変! 飛行機の離着陸のときみたいに耳が詰まった感じになってる」
 
私が耳に突然の異変を感じたのは金曜日の深夜だった。土曜日の朝起きてもその状態に変化はなく、耳のあたりがぼやっとして何となく不快である以外は、痛みなどは全く無い。
 
「花粉の季節が始まって、耳鼻科は混んでるだろうな……」
「別に痛いわけでもないし、しばらくしたらもとに戻るんじゃないかな。診察予約するの、大変だし……」
 
かかりつけの耳鼻科はいつも本当に混んでいて、朝8時の予約開始と同時に電話をしても30分は話し中でつながらない。予約といっても、大体の診療時間を教えてもらうだけなのだけれど…… ようやくつながっても、初診の方が多いときなどは、診察予定時間を確認するための電話を入れる時間を指示されるだけの時もある。予約するだけでも相当にストレスなのだ。
 
「ただ、今日は土曜日だしな。もし痛くなってきたら、厄介かも……」
 
全く痛みはなかったので、普段だったらもうちょっと様子を見てからと思うのだけれど、今日は土曜日で、午前中で診察はおしまい。万一のときに休日診療で耳鼻科の診療が可能なところを探すのは更に面倒だったので、とりあえず、診察してもらうことにした。
 
聴力検査や鼓膜の動きの検査の結果、中耳に炎症が生じていて、鼓膜の動きが悪くなって、聴力低下を起こしているということだった。聴力検査の時、いつもと違って音が捉えにくいなと思ったはずだ。中耳の炎症で、飛行機で離着陸するときのように外耳と中耳の空気圧バランスが崩れてしまっているということらしい。
実際、診察を待っている間に、段々と耳の中の奥のほうが痛んできて、頭も痛くなってきた。だいたい中耳炎は子供がなる病気らしく、大人で中耳炎になるということ自体、珍しい。数日前に風邪を引いたのだが、その状態のまま飛行機に乗ったのが悪かったようだ。
 
土曜日、日曜日は、どうしてもという用事以外をキャンセルして、おとなしくしていた。
 
「薬もちゃんと飲んでいるのに、あまり改善されてる感じがしないな。耳は詰まったままだし、耳鳴りもする」
月曜日の診察でも、もう一度、聴力検査や鼓膜の動きの検査が行われた。治療の効果が出ているかを確認するためだ。
今回と前回の検査結果を見比べていた先生の顔が急に険しくなり、一言。
 
「入院するか」
「えー、入院するってどういうことですか? 今からすぐですか?」
「低音が全然聞こえてない。後遺症が残るかもしれんよ。紹介状書くから、すぐに行って」
「ベッドに空きがあるかどうかにも関係するから、最終的に入院するかどうかは、向こうの担当医と相談やな」
 
紹介された病院は自宅近くの市民病院だった。そこでも同じような検査をして、病名は「突発性難聴」である。原因不明の急に片耳に起こる難聴は全部「突発性難聴」という診断になるらしい。「KinKi Kids」の堂本剛さんや浜崎あゆみさんなどタレントの発症も多いので、名前を聞いた事がある人も多いのではないかと思う。
 
突発性難聴の原因は不明だが、「ウイルス感染」や「内耳の血液循環の滞り」が原因として有力視されている。ストレスや疲労が引き金となって、突発性難聴を発症するそうだ。聴力が失われたり低下したりする以外に、耳が詰まったような感じになったり、耳鳴りがしたり、めまいを引き起こす場合もある。めまいがひどい場合は歩くことさえ困難となるため、入院が必要となる。
 
治療には体の炎症を抑えるためのステロイドの点滴治療が有効だと言われているが、免疫の低下やむくみなどの副作用の可能性がある。しかも、この劇薬を使用したとしても、完治の割合は三分の一に過ぎず、三分の一は聴力の回復は見込めない。もっと体に負担のない薬を使用することも可能だが、どの程度聴力の回復が見込めるかはわからず、治療期間が長期化することは目に見えている。
 
耳が聞こえなくなるかもしれない恐怖とステロイド治療の副作用による恐怖の板挟みだ。
 
結局、ステロイドの点滴治療を受けることを決断し、幸いにもめまいが軽度であったことから、通院による治療を行うことになった。治療を開始した2,3日は副作用もなかったが、次第にむくみがひどくなり、1日で体重が4キロほども増加したり、むくんでひきつれた皮膚が触るだけでヒリヒリ痛んだり、胃腸が水分を吸収しなくなり、動きも止まって食欲が低下したり、治療が終了した後も薬の効果が抜けるまでの数日間は副作用に苦しめられる日々が続いた。
 
幸いにも治療の結果、聴力には回復が見られ快方に向かっていった。しかし、しばらくは耳の外から聞こえる音の他に耳の中で同じ音が鳴っていて、何の音なのか、どの方向から音がしているのかを捉えにくかったし、未だに耳鳴りが完全になくなったとは言い難い。しかし、少しずつ、聞こえの状態は正常になってきているので、耳鳴りも徐々に改善していくだろう。
 
ありがたいことに、治療期間も比較的短くて、病気の長期化も免れることができた。
突発性難聴が完治するかどうかは、発症から治療開始までの期間をいかに短くできるかにかかっているのだ。発症から48時間以内に治療を開始できればベストだが、2週間以内に治療を開始しなければ、完治は困難とさえ言われる。
 
ストレスや過労が引き金となって発症するこの病気は、特別な人にのみ起こるのではなく、誰にでも起こりうるものだ。ちょっとおかしいなと思っても、そのうち治るだろうという安易な気持ちが発見を遅らせてしまい、治療を困難にさせる。
 
突発性難聴は、聞きたくないことを聞かされ続けているとか、ストレスに押しつぶされそうになっているとか、心の叫び声を無視し続けているときの、体からのメッセージなのかもしれない。病気は、心や体が疲れていたりストレスを感じたりしているときに、強制的に休ませるための体からのメッセージなのだろう。
 
ついつい心や体を置いてきぼりにして前に前に進もうとしてしまうけれど、体からのメッセージで強制ストップがかかる前に、心や体の声を素直に聞こうと思った。
 
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2018-03-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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