メディアグランプリ

好きなものを好きなだけ食べて痩せるような世界


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:青空(ライティング・ゼミ 平日コース)
 
 
「君の膝は、30歳になる前に歩けなくなるよ」
その日、私の足のレントゲンを撮ってくれた技士さんは言った。
そして、慰めるような顔で続けた。
「でも大丈夫、僕もそうだったから」
彼はほぼ歩けないけれども、インソールや装具でカバーしながら生活できているのだという。
 
確かに、今のままでは私もそうなるかもしれない。
だんだん歩けなくなる一方だし、今のところ有効な対処法は何もない。
そんな私に、「それでも生きていけるんだよ」と親切に教えてくれたのかもしれない。それは私にとって役に立つ情報なのだろう。
 
――ただ、まだ諦めたくはなかった。
彼の言葉に慰められたくはなかった。
 
 
何不自由なく育てられた私の遅れてきた反抗期は、自分の体を壊すことだった。
小さい頃にアトピーだったこともあり、経済的に苦しい中でも、両親は食べ物に気を使った生活をしてくれた。
 
溢れる気遣いの中ではその有り難みが分からないということなのか、自我を確立するために必要だったのか、今となっては自分でも分からないけれど……。
高校時代、いわゆる「体育会系」の部活を選び、授業が終わるや夜まで走って跳んでの時間を過ごし、足首も膝も腰の痛みが止まらなくなっていった。
明らかに自分には向いていない種目で、全然うまくならなかったのに、努力を惜しまず、普通に歩くのが難しい体になっていった。
 
そこで止めておけばよかったのに、大学のサークル活動では、重いザックを背負ってアウトドア三昧。
人生で一番体力がある時期の男子達に混ざって、15キロくらいのザックを背負い、3週間の徒歩旅行。
時に1日30km以上歩いたり、3000m級の山に登ったりする活動を続けていた。
当然、一歩踏み出すごとに足に激痛が走るようになっていった。
それでも意地だったのか何だったのか、痛み止めを飲んでも歩き続けていた。
 
そのうち、普段の生活の中で、本当に歩くのが難しくなっていった。
ゆっくりと一歩踏み出すにも、必死で足の置き方や体重のかけ方を調整して、じわじわと進む。
そんな私の横を、杖をついたおじいさんが追い抜いていく。
歩ける時はまだいい方で、一日中布団から起きられない日も増えていった。
そんな状態でも、アウトドアの大きな活動をする時には休まずに出かけていった。
 
振り返ると、当時は体を壊すことが趣味だったとしか言いようがない。
「どんな状況でも頑張ることが正しい」、あるいは「状況を変えるには努力するべき」、そんな価値観を自ずと信じていたこともあるだろう。
 
 
布団から起きられない日が続き、色々な病院に行ってみても「原因不明」か「ストレス」で終わってしまう。
足の痛みについてはレントゲンを何十枚も撮って、なんとか症候群という診断はついたけれど、状況は変わらない。
むしろ、「このままでは歩けなくなる」と太鼓判を押されるだけ。
 
唯一の対処法として示されたのは、筋力トレーニングだった。
ゴムの輪っかの端を柱などで支え、もうひとつの端を足にひっかけて、膝を曲げ伸ばしして筋力を鍛えるトレーニング。
何もしなくても膝が痛いのだから、トレーニングで負荷がかかるとますます痛かったけれど、少しでも良くなる可能性があるのならばと頑張ってやっていた。
でも、痛みは増す一方だった。
 
 
そんな時、心配してくれた両親が買ってきてくれた健康系の雑誌を介して、ある体操を教えている人と出逢った。
この体操は、頑張らない体操なのだという。
心地よい方法に、心地よく動かすだけで、歪みが整ったり、痛みが減ったりするのだという。
 
「心地よさを味わうと、体は整うんですよ」
――そんなことを言われても、にわかには信じがたい。
頑張ってきつい方に動かしてこそ成果があるのではないのか。
ダイエットしたければ、がんばって食べたいものをセーブしてこそ痩せられるのではないのか。
好きなものを好きなだけ食べて痩せようなんて虫のいい世界がある訳はない。
 
でも、すでに頑張る方向では万策尽きている私には、「とりあえずやってみる」以外の選択肢はなかった。
仰向けになって、足を肩幅くらいに開く。
片足ずつ、ゆっくりと腰から踏み込む動きをして、かかとを突き出す。
右と左、どちらがやりやすいかを確認したら、「やりやすい側」だけを、「心地よい範囲で」動かし、心地よさを味わって、しばらくしたら力を抜く。脱力したまま十秒くらいキープ。
ただそれだけ。
 
仰向けになって、膝を立てて、膝を左右に倒す動きなど、いくつかのバリエーションもあるけれど、どの動きも「やりやすい方に、心地よいだけ」動かす。
やってみて分かったのは、頑張りすぎたり、痛いのを我慢して行うと、この体操の効果はないということ。
心地よい感覚だけを味わえた時には、一回でも大きく変化する。
何をしても良くならなかった私も、3パターンくらいの体操を一回ずつやっただけで、明らかに足腰の痛みが薄れているのが分かった。
 
頑張らなくても、いや、むしろ頑張らない方がうまくいく世界があることに驚いた。
今まで生きてきた世界と違うところに足を踏み入れてしまったような気がした。
 
でも、考えてみたら、「生きる」っていうのは別に「頑張る」ことではないのかもしれない。
頑張らなくても、意識すらしなくても、自分には生きる価値がないと思っている時でさえも、私は古い息を吐いて、新しいエネルギーを呼吸と共に取り込んでいる。心臓は一度も止まらず動き続けて、体中に酸素を巡らせている。
頑張って息をするというのは不自然だ。自然に息をしている時は、ただ心地よく吸って吐いているか、体がただ呼吸するにまかせている。
 
そこから東洋医学やら鍼灸やら整体やらいろいろ学んでみた。
新しく知った体の世界はとても不思議で、頭で考えているのとまた別の次元を体は生きているのだなと思う。
ちょっと体の世界に意識を向けて「心地よさ」を感じるだけでも、滞りが解けて、気楽に自然に流れていける。
努力なしでダイエットするような、ある意味虫のいい世界なのかもしれない。
 
それを知ることで、本当に楽になった。
とはいえ、頭で考えて頑張る世界は今も好きなので、それぞれを自由に楽しんでいきたいと思っている。
 
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2018-03-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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