お得感にご用心
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記事:山谷淳也(ライティング・ゼミ平日コース)
「あー、食べ過ぎた。お腹いっぱい。ぐるじい……」
妻とふたり、しかめっ面で顔を見合わせる。しばらく休んでヨロヨロとお店から出る。ビュッフェレストランに来ていた。私は洋食、妻は和食が食べたい、しかも特定のメニューではなくあれこれ食べたいというハードルを超えてくれる選択肢だった。だが、苦しくなるまで食べ過ぎてはその選択が正解だったのか甚だ疑問である。
小さい頃からビュッフェ、バイキング、食べ放題という言葉に弱い。地元に焼肉バイキングの店ができると足しげく通った。カルビ、ロース、ハラミ、タン……。サラダ、キムチ、カクテキ……。ケーキ、果物、ソフトクリーム……。まさに天国。皿にこれでもかと盛り付ける。早足で席まで運び、網にどかっと放り込む。普通の焼肉屋であれば1枚1枚慎重に焼いて行くが、バイキングなら話は別。一気に焼き、焼けるか焼けないかで取り皿へ。タレをジャブっとつけ、豪快に口に放り込む。それを何度か繰り返し、また追加を取りに行く。60分後、おきまりの冒頭のセリフである。
ビュッフェは人気がある。一緒に食べる人数が多ければ多いほど何料理の店にするかで悩む。また、人によって食べたい量が違うけれど、一人でたくさん頼むのははばかられるし会計で気を使う。そんな問題を解決する選択肢として魅力的だ。
一方で難点もある。つい食べ過ぎてしまうのだ。あなたの分はこれ、と出てくるとそれを味わって食べるのだが、さぁどれでもお好きにどうぞ、だとそうはいかない。1周目、一通り食べたいものをとる。2周目、中でも美味しかったものを多めにとる。3周目、さらに厳選して美味しかったものをとる、4周目、デザートに突入。もう何がどう美味しくてどのくらい食べたのかわからない。わかることといえば、食べ過ぎたということだけだ。食べ過ぎというのは満足なのだろうか、と思いつつも外食となると真っ先に候補にあげてしまう。
同じようなことが私の図書館利用にも言えると気がついた。
図書館をよく利用する。住んでいる市には11の図書館があり、全館の蔵書を最寄りの図書館に取り寄せることができる。『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎著)のような話題の新刊だと所蔵5冊に対して予約300件超と気が遠くなるほどの順番待ちだが、多くの本はすぐに借りられる。高額な本や絶版で入手困難な本も案外揃っている。書店やネットで気になった本があれば図書館のホームページで蔵書検索。順番待ちをせずに借りられそうであれば予約し週末に取りに行く。それを1〜2週間かけて読む、というのが私の利用スタイルだ。一度に10冊まで借りられるのでこれでかなりの冊数を読むことができるのだ。
一方で難点もある。「タダだから」とつい気軽に借りてしまう。せっかく図書館に行くのだから上限の10冊まで借りようという貧乏根性も手伝って、過去に読んで面白かった著者の作品や、人に薦められた作品、仕事関係で読んでおいた方が良さそうな仕組みや法律の解説書などが蔵書検索で見つかれば、「とりあえず」で一通り予約してしまう。結果、ざっとしか読まなかったり、ひどい場合は読まずに返してしまったりする。これではせっかく借りた本を活かせていないし、司書の方達の労力、ひいては税金も無駄にしている。毎週のように図書館に借りに行く時間もかかっている。うちから図書館までは往復40分。館内を見て回る時間も入れるとトータル1時間。1時間もあれば薄い本なら読めてしまう。
これが書店だと違ってくる。一度に買える冊数に限りがあるため真剣に選ぶことになる。今読みたい内容なのか、読む時間を捻出できるのか、をあれこれ考える。積ん読状態での気になり方も違う。本が「買ったけどいつ読むの?」と話しかけてくるのだ。
本に限らないが、買った時、借りた時が気持ちのピークということがよくある。買うとお金を払ったという事実が気持ちを底上げする。タダで借りたとなるとそうはいかない。読むのを止めるハードルがとても低いのだ。
世間ではあらゆるものに対してコスパという言葉を使う。支払った費用(コスト)と、それにより得られた能力(パフォーマンス)の比較のことで、コスパが高いとはお得だということだ。コストというと真っ先にお金が思い浮かぶけれど、時間、労力、精神的な負担もコストだ。それらすべてをひっくるめてパフォーマンスはどうなのか、好きなものを好きなだけ、安いもしくはただ、これが本当にお得なのか、一度立ち止まって考える必要がある。
食事であれば必要な栄養を摂って元気で居られるかどうかが大事だし、本であれば書かれた内容を理解し人生に活かせるかどうかが肝心のはずである。
自分への戒めとしたい。お得感にご用心。
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