メディアグランプリ

人の不幸は蜂蜜の味


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:永田有起穂(ライティング・ゼミ 平日コース)

 
 
「全身に蜂蜜を塗るとヨリが戻ります」
耳を疑うとはまさにこのことか。
その占い師は、穏やかな声で、そして大真面目にこう続けた。
「今のあなたは勘が鈍っています、私にお任せください」と。
2017年10月、わたしは何度目かの失恋をした。
 
「ごめん。だけど友達に戻ろう」
青天の霹靂とはまさにこのことだった。
あなた1週間前まで旅行先のタイからラブコール送ってくれてたやん。1週間前まで「クリスマス休み取ってね、予定空けててね」って言ってくれてたやん。
また今回も小さい理由で別れ話をするのか……。
 
多分イヤな気持ちが顔に出てたんだろう。
「一緒にいて楽しいけど、価値観合わないし。友達のほうがいいと思う」とまくしたてて言ってくる。聞けば、何回注意しても家の鍵閉めないし、玄関には色紙飾ってるし、デートの時楽しそうにしてくれないし……が今回言いたいことらしい。
 
「ごめん、わたし村育ちやねん。鍵かける習慣ないねん」
とか心で思うけど、それはただのいい訳だ。彼が正しいことは分かっている。
「そうね、ここは地元でもないし、福岡だし。いや、地元でも鍵掛けろって話だけど。注意された度に気をつけてきたけど、掛け忘れること何度かあったよね。ごめんね。でも今回は後から入ってきたあなたが掛けてくれるものだと思ってたわ」
とか心で思うけど、怒っている人の前で口にできるはずもない。
 
玄関の色紙は、職場から戴いたもの。もちろん男の先輩からのコメントもあった。それを飾っているのに、自分との写真は玄関に1枚も飾っていないのが嫌だったらしい。気付いて欲しかった、って。気遣えなくてごめんね。
デートの時楽しそうに出来なかったのは、あなたがずっと不機嫌だったからなんだよ。だから取り繕うことしか出来なかったの。ごめんね。
 
結局、心で思っていても彼に伝わることはなく。
そういうことだから、とバタンと扉を閉めて出て行ってしまった。
悔しいのか、悲しいのか分からない涙が流れて止まらなかった。
 
何度も別れ話をされては、落ち着いた頃に連絡がくるのが、わたしたちのお決まりのパターンだった。すぐ連絡が来るでしょ、なんてタカをくくっていたが、1週間経っても連絡はなかった。いよいよやばいかもしれない。そんなことを思いながら、わたしは電話占いに手を出した。占いはもともと好きだったし、客観的に「彼はあなたのことが好きよ」なんて言われることが最高に安心できるからである。付き合っているときも、何度もお世話になった。
 
お気に入りのサイトを開くと、いかにも占い師ですといった写真が何枚も出てくる。そこで、NEWと書いている先生にピンときて、わたしは電話を掛けることにした。
泣きじゃくって話すわたしを落ち着かせ、占い師はこう言った。
 
「頭から蜂蜜を被り、そのまま顔、体、足の先まで蜂蜜を塗り、15分ほど入浴するのです。蜂蜜の解毒効果で、あなたはヨリが戻ります」
あれだけ取り乱していたのに、わたしはその言葉で急に正気になってしまった。
無言のわたしに向かって、畳み掛けるように、さらにこう続ける。
「あなた本当に素直じゃないのね。振られた理由はそこよ」
そう言われると、ぐうの音も出ない。素直じゃないなんて自分が一番分かっている。
 
「でも、勘が鈍っているって言われても……!」
よく考えろ、この占い師は何を分かっているんだ。
そもそも会ったことすらないじゃないか、とは思うが、口には出せない。
 
占い師の言い分はこうだ。
 
「あなたは素直じゃないから彼氏に見捨てられた」
そうかもしれない、ここまでは分かる。お互い自分の言い分を分かって欲しい、そんな思いがぶつかり、今回もまた大好きな彼氏と喧嘩をしているのだ。
 
「だから蜂蜜よ。解毒効果であなたを本来の素直な状態に戻し、勘が冴え渡るようになる。週1のペースで3ヶ月ぐらい続けたらいいわ」
占い師はどう思っていたんだろう。いいカモか。多分いいカモだと思っていたんだろうな。でもそのときのわたしは、完全に言いくるめられていた。「お風呂詰まらないかな」とか、「蜂蜜高いもんな」とか、「ヨリ戻したくて必死に蜂蜜塗ってるわたし、笑えるな」とか、実践する方法を考えていたのである。
もう涙は止まっていた。ほら、やっぱりわたし素直じゃないか。
 
結局、その占い師には「蜂蜜をあなたが続けられれば、彼とはヨリが戻る。ヨリが戻らなくても、勘が冴え渡り、新しい彼氏が出来る」と言い切られ、なぜかその言葉にわたしは満足して、電話を切ることになった。
 
あれから半年が経った。
蜂蜜は……というと、結局実行はしていない。
ネットで調べはしたものの、なんとなく購入には至らなかった。「蜂蜜でヨリが戻った」とか、「しなかったから戻らなかった」とか、結果を物のせいにしたくないことが大きかったのかもしれない。
 
とにかくこの一件を境に、占いと上手く付き合えるようになった。
そして3月。「久しぶりに話が聞きたい」と半年振りに彼から連絡が来た。
会った時に何を話すのか。復縁するのか、しないのか。今はまだ分からない。
でも、少なくとも今度彼に会うときには、占い依存症だったわたしより、強くなったわたしを見せることが出来るはずだ。
 
占いは当たるも八卦、当たらぬも八卦。
何かにすがりたい時はもちろん頼っていいと思う。
でも、もしその占い師が蜂蜜を勧めてきたときは、わたしの話を少し思い出して欲しい。
 
 
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2018-03-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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