絶対に書けないネタがあるんですが……。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:林新太(ライティング・ゼミ日曜コース)
書けない! 書けない! 本当にどうしたらいいんだ!!
いや、違うんです。ただ記事が書けないなら、ネタがないだけならまだいいんです。そうじゃなくて! せっかくいい題材が思い浮かんだのにどうしても話にできないんですよ!!
「論文が書けない今の自分」を書こう。
そうです。あと三日で15000字の論文を書き上げなくてはならないという危機的状況。そこに大学生の私はいるんです。まだせいぜい3分の1しか書けていないんです。もう書くことないんです!! そんな絶望的な私を実況中継する文章がかけないかな、と思ってはや2時間。書けない! どうやっても今のこの状況を物語として書けないんです。もちろん論文も一文字も進んでないし(これ書いてる場合なんですかね?)。なんで! せめてどっちか書けてよ! 客観的に見たらこの状況は絶対面白いはずなのに……なんで書けないんだ……。
この矛盾した感じ、どっかで感じたことあるなぁとずっと思っているんです。まさに「今」の自分のことを書くのが一番活き活きと「ありのまま」を伝えられるはず。それなのに、いざ実況をしようとすると物語を書くことができない。なんでしょう……?
あ! 大河ドラマだ。全然関係ない気もするけど、実はめちゃくちゃ似てるわ。いや、考えても見てください。いつも楽しく見ている「西郷どん」ですけど、あれってちょっと変なドラマです。私たちって壮大なネタバレ食らってると思いませんか? だって、西郷さんたぶん幕府と戦いますよね? 西南戦争で負けますよね? たぶんそれは間違い無くこれから起こることでしょう。
もし他のドラマだったら、結構怒りませんか? 主人公実は死ぬんだよとか。親友のあいつが後々敵になっちゃってさぁとか。絶対にネタバレされたくないですよね。
それなのに、私たちはすでに歴史の授業でもうオチまで教えてもらっているという……。一体私は「西郷どん」の何を楽しみにしているんでしょう……。
でも面白いですよね。不思議なことに。ネタバレされてもなお面白い。いや、たぶんネタバレしているからこそ面白いんじゃないでしょうか? 例えば変な青年が出てきて、西郷に突然夢を語り出したりして。だれやねん? とはならないですよね。彼が坂本龍馬であると知っているから、この二人の出会いが日本を変えると知っているから、画面に釘付けになってしまう。
オチがわかっているからこそ、ワンシーンワンシーンに感動する。
なるほど。大河ドラマがこんな時代でも恐ろしい視聴率を叩き出し続けるのには、こんな秘密があったのか……。
うん。やっぱり似てる。私の状況とそっくりだ。「今」の自分の実況中継ができない、この状況と。
意味がわからないんです。「論文を書く」という物語の中で、「今」というワンシーンがどんな意味を持っているのか、全然わからないんです。論文も書かずにこんな文章を当てもなく書いている、この「今」。それが三日後の締め切り時刻というラストシーンにどんな意味を持っているのか。わからない。オチがわからない。だから書けないんだ……。
あ、これって今日に限ったことじゃないや。今まで書いてきた文章だって全部「終わったこと」を書いてただけだ。いつだって、「今」を書けたことなんかない。あ、私だけじゃないや。例えば歴史だって「今」のことはかけないじゃないか。史料ならどの時代よりいっぱい残っているっていうのに。
オチがあって初めて「ワンシーン」が書ける。「ワンシーン」の意味がわかる。
なんだ、せっかくいいアイデアだと思ったのに。「今」の実況中継。なーんだ、書けないんだ……。
いや。いや待てよ? 本当に絶対無理なんだろうか? ないか……? そういうもの。オチがまだわかっていないのに「今」を書くことに成功しているものって……。
そうだ……! SFだ! あれって、もちろんオチがわかっていて書いているんだろうけど、現実世界でのオチはわかっていないじゃないか。タイムマシーンができるかなんかだれにもわからない。それなのに、あんなに活き活きとした「今」が「バックトゥザフューチャー」にはあるじゃないか。
「今」めちゃくちゃ不安だ。論文が本当に完成するのか、検討もつかない。それに、この文章だって完成するのかどうか不安だ。
不安だけど……。
もうわかってしまった。この不安から逃れる方法。
書くことだ。オチを。まだありもしないオチをここに書いてしまうのだ。オチさえできてしまえば「今」は勝手に動き出す。現実が三日後に真実を見せるその瞬間まで、「今」を意味あるシーンにし続けてくれるんだ。それに、こんなたくさんの人の前で言ってしまったオチだ。書き換えることも許されない。支えてくれるんじゃないだろうか。私を。
このライティング・ゼミは「人生を変えてくれる」らしい。なんとなく見えてきた。今までの文章だってそうだ。失敗の瞬間とか、自分の知られたくない部分とか、そんなやなものたちを物語という全体の「ワンシーン」にすることで、どれだけ救われてきただろう。嫌いだったものたちをどれほど抱きしめられるようになったのだろう。
書くことだ。それが私の「今」を支えてくれるんだ。
あ、どうしよう? 三日後のオチをまだ考えていない。せっかくなんだからとびきり大きく書いておこう。すまんな、明日の私。オチにこたえておくれ。期待してるよ。
「この文章のおかげで、ばりばりアイデアが浮かんで論文を教授にめちゃくちゃ褒められました。ついでに、この文章がめちゃくちゃバズりましたとさ」
めでたしめでたし。
論文の続きでも書こう。死ぬ気で。
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