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仙人になりたい


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記事:まる(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
話は10年前に遡る。
当時高校1年生だったはずの私は、ただひたすら家で暮らしていた。
毎日毎日パソコンやテレビとにらめっこをしていた。
いわゆる不登校である。
 
そんな私は、全てを諦め、「どうせ」が口癖だった。
夢もなく、なりたいものは「公務員」。
無趣味で取り柄もなかった。
コミュニケーションも非常に苦手だったので、気楽に話せる友達は全くいない。
こりもせず毎日毎日泣き続けた。
それは何年か続いた。
“自分は、ちゃんとした人間ではない。きっと人として大事なものが欠けているんだ“
当時、将来は犯罪者になって牢に入るか、精神を病んで自殺するかどちらかの人生をたどるものと思い込んでいた。
 
そんな私が、ひとつだけ強く願っていたことがある。
“仙人になりたい”
仙人になれば。色んな自分の感情にも思考にも振り回されず、俗世の困難にも煩わされず、生きていけるのではないか。
そんなことを、考えていた。
でも、その方法を私は知らなかった。
だからこそ、何をすれば救われるのか、とずっと考えていた。
まるで答えのない、思考の迷宮に迷い込んでしまったようであった。
……しかし。
今思えば、この迷宮は道標そのものであった。
 
そこから数年が経った。
“犯罪者にはなりたくないし自殺したくもないな……”
と思った私はなんとかかんとか、大学生になっていた。
大学生という立派な身分を手に入れた私は、次の壁にぶち当たっていた。
就職である。
「どんな仕事につきたいの?」
と、色々な人に聞かれた。その度答えに詰まり、いつも言葉を濁していた。
また新たな迷宮に入りこんでしまったかのようだった。
しかし、当時の私に働きたい仕事など、いや働けると思える仕事など、なかった。
ただ、人の生命の輝きを感じられる仕事につきたかった。
そうすれば、自分自身を照らせる気がした。
 
そんな時、ある方と出逢った。
その方は、仕事としてコーチングを行っていた。
コーチングは、“人の可能性を引き出す”ことを理念としている。
私はその理念に感銘を受けた。
「弟子にしてください!」と頼み込んだ。
その方のご厚意で、いくつかワークをさせてもらった。
自分の長所。苦手なこと。自分とはどういう人間なのか。
最後の方で、“自分の夢”を考えるワークがあった。
「君は、何をしたいの?」
と、聞かれた。私は、しばらく考えた結果、こう答えた。この時のことは、きっとずっと忘れないだろう。
「暗い目をしている子どもたちに、笑ってほしい。きっと、昔の自分を助けたいんだと思う」
 
……そうなのだ。私の原点は、ここにあった。揺らがず、ここに存在していた。
そして。かつて人とコミュニケーションがとれなかった私は、あろうことかコミュニケーションのプロになる道を選ぼうとした。
そう、カウンセラーになることを考え出したのである。
 
しかし、ただでさえ元々コミュニケーションが苦手な私である。
「向いていない」と、しばしば言われてきた。
ある人は、“気遣いができない”と。
別のある人は、“気を遣いすぎる”とも。
また、カウンセラーは常に他の専門家に指導をしてもらう。
その指導する側から “お金をいただけるような価値を出していない”と言われたこともある。
 
最初の頃は、”向いていない”と自分でも思っていた。
思っていたが、それでも自分の原点に立ち返りながら、必死にすがりついた。
そうしている内に、見える景色がだんだんと変わっていった。
それに伴い、たくさんのご縁があった。
その方たちは口々に、それまで聞いてきたことと真逆のことを言った。
「向いているね」
「あなたは色々経験してきたから」
「ひとりひとり色が違うから、あなたはあなたらしいやり方を見つければいい」
驚きだった。そんな考えがあるとは。
いまひとつカウンセリングに自信が持てなかった私を認めてくれた。
お陰でそっと、勇気をもらえた。
 
今、私はカウンセラーとして自分の人生を歩もうとしている。
自信を持って、これが今のベストの選択だと言える。
日々課題ばかりがよく見えるけれど、それでもなお“これでいい”、“間違っていない”と思える。
それは、相談にいらっしゃる方々をはじめとした、様々な人との出会いによって自分が磨かれる気がするからだ。
人として、成長できている気がするからだ。
 
10年前から、一見すると全てが変わったようだ。
夢どころか好きなことも何もなかった私が、人生をかけたいものを見つけた。
生きている喜びを、知った。
 
でも、もしかしたら根っこは何も変わっていないのかもしれない。
今、改めて思うのだ。
“仙人になりたい”
目の前のひとりの人を、ありのまま受け容れるために。
その人を、安易に理解したふりをしてひとりにしないように。決めつけないように。
そのためには、目に見えるものに振り回されてはならないから。
だから、仙人のように何ごとにも動じない人になりたい。
 
あの頃の願いが、今の願いになっている。
昔迷い込んでいた迷宮が、今の私の道標になっている。
 
きっと、今の目の前に迷宮が広がっているのは、チャンスなのだ。
迷宮を出たいという思いがあるから、なりたい自分に近づくことができる。
なりたい自分がなければ、そもそも迷宮を出たいとは思わないし、今いるところが迷宮だと気づきすらしないだろう。
だから、それが迷宮だと気づいていれば。そしてその出口を見つけようとしていれば。
その迷いは、いつか一本の道になるに違いない。
 
 
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2018-03-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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