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私の生き方のお手本は、釜石の仮設住宅に住んでいる


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:渡邊壽美子(ライティング特講)
 
「私は、地域とのつきあいは苦手なタイプでした。でも隣に住んでいる人が、ある日、孤独死してしまい、これではダメだと考え方を改めました」
釜石の仮設住宅に住むその地域コミュニティの代表は、ゆっくり話し始めた。
 
「ここに来る人は、身寄りがなかったり、家族や自宅をなくしてしまったりした人です。ですから、気持ちがふさぎ込んでいる人も多く、なるべく人に会わないようにする人もいます。私自身もそうでした」
最初から、重い雰囲気でインタビューは始まった。
 
今から2年ほど前、私は、同僚が企画した社会課題を考えるというリーダーシップ研修の一環で、釜石の仮設住宅に来ていた。地域が抱える課題を、私たちで解決できることはないかを、考える企画だ。
 
私は、震災から5年も経ってから、被災地に来ているような人間だ。しかも自分で来たのではなく、同僚の企画に乗っかっているだけだ。都会の恵まれた環境でぬくぬく生活し、家事をやらない夫にイライラするような毎日。社会課題を解決するなんて、偉そうなことをいえるような人間ではない。社会課題を考える前に、自分自身に課題があるのではないかと、自分で突っ込みたくなる。
 
インタビューの最初から、自分の無知や無力さに打ちのめされたような気持ちになった。いったいこんなちっぽけな私に何ができるというのだろう。
 
仮設住宅の代表は、話を続けた。
「もうこの地域から孤独死は出したくないと思い、活動を始めたのです。簡単なことです。挨拶をしたり、各住宅を回ったりして、みんなの健康状態や様子を毎日把握していくようにしようと思いました」
 
一緒に行ったメンバーが、
「どんなところが大変だったのでしょうか?」
と質問した。
 
「状況が状況なので、ほっておいてほしいと思う人も多いのです。毎日訪問しても、顔を出してくれません。でもあせらず、『また来ますね』と言って帰ってきます。それを毎日粘り強くやっていくと、あるとき話をしてくれるようになる人もいます。でもなかには、心を開いてくれない人もいます」
 
「そんなときはどうしたのですか?」
質問が続く。
 
「あまり、無理はせず、しかし、毎日足を運ぶことは欠かしませんでした。何か困ったことがあったらいつでも連絡くれるようにと、置き手紙などで伝えました」
 
そんな風に時間をかけて、色々な場所からやむを得ず集まってきた人同士で、徐々に人間関係ができ、コミュニティが形成された。海産物や野菜をもらったら、分け合ったりしているという。また、地域の祭りや新年会などのイベントにも参加するようになった。地域の子供達とも交流の機会をもてるようにしていくことで、対応が難しかった人も、心を開いてくれるようになったと教えてくれ、地域のお祭りの写真を見せてくれた。事情がわからなければ、よくある祭りの集合写真にみえる。この写真にたどりつくまで、毎日、毎日の粘り強い積み重ねがあったことは想像できた。
 
話を聞いたあと、私たちは仮設住宅の周りを見学させてもらった。私は、なんともいえない気持ちで仮設住宅をぼんやり外から眺めていた。
 
ふとみると、仮設住宅の窓から女性が笑顔をのぞかせている。暗い気持ちを一気に明るくするようなその笑顔に、私はただ驚いてしまった。こんなところに、長く住んで、笑顔でいられるなんて私には多分できない。60代~70代に見えるその女性は、きれいにお化粧をして、凛とした表情をしている。その女性は私達を見つけると、外に出てきてくれた。
 
そして、仮設住宅の周りの植え込みを案内してくれた。
「ここは自然が多くていいわ。ここに植えたカボチャが出来たら、煮るから食べに来てね」
と話してくれた。
 
お話したのは、3分程度だが、それまでの暗い気持ちが一気に明るくなり、確実に癒された。人というのは、こんなにも強く、そして優しくなれるものなのだ。どんな境遇にあっても、自分の境遇に感謝し、何ができるかを考えて、粛々と生きているこの女性の姿に心を打たれた。なんと豊かな生き方なのだろう。3分会っただけだが、相当な元気をもらった。この女性はこの仮設住宅での中でも、きっといろいろな人を日々勇気づけているのだろうと思った。
 
私達は社会課題を解決するために、何ができるかを考えるために釜石に来た。社会が抱える課題というのは、複雑で、じっくり取り組む必要がある。しかし、一方であまり深刻にならずに、この女性のように、どんな状況でも感謝の気持ちを忘れず、笑顔で、何か人に対してできることがないか考えることが、まず大切なことだと思った。
 
私は、ずいぶん恵まれた環境で生きている。それを当たり前と思い、それだけではなく、もっと、何かしてもらおうと思っているふしがある。なんと愚かなのかと思い知った。
 
足るを知る
 
こんな言葉を思い出した。言葉は知っていたが、この女性に会い、この言葉の意味を深く理解できた気がした。自分が恵まれていることを忘れず、何ができるかを考えて笑顔で生きる。今でもときどき、彼女のことを思い出す。お名前も知らないが、これからも、彼女が私にとって生き方のお手本だと思う。
 
***

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2018-03-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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