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去りゆく恋人に「経験値だけは置いていけ」とすがる理由


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記事:せんごくみよ(ライティング・ゼミライトコース)
 
 
「遠距離でやっていく自信も今すぐ結婚する気もない。友達に戻ってほしい」
彼の突然の言葉は、私を奈落の底に突き落とした。
 
ドラゴンクエストってゲームが昔から好きだった。ネタバレがないように、概要だけ話すと主人公が仲間と一緒に冒険をして、次々と現れる敵を倒すことで経験値をもらいレベルアップし、力がついたところで最終的に悪い魔王を倒すゲームだ。仲間と一緒に困難を乗り越えるという自分の人生を生きているみたいで楽しい。その中でこんな敵のキャラクターがいる。はぐれメタルという逃げ足がめちゃくちゃ速いやつで、ひたすら逃げる。でももし倒せばたくさんの経験値がもらえ、自分のレベルアップが図れる。
 
私の人生の冒険仲間だと思っていた彼氏は、どうやら違ったらしい。それどころかいつの間にかはぐれメタルになっていた。
 
出会いは月1の習い事。昨年の5月に一緒にレッスンを受けて、その帰り道に連絡先を聞かれて、やりとりがスタートした。6月に一緒にご飯を食べに行った後は隔週くらいのペースで会って、8月には告白されてお付き合いスタート。順調だった。
その後風邪を引いたときには駆け付けてくれたり、家でご飯を作ってくれたり。父が入院した際には心配して会いに来てくれた。とても大切な、彼氏という名の仲間だった。
 
4月から向こうが九州に転勤になり、当然私は「遠距離になるけれど頑張ろうね」と言われると思っていた。が残念ながら私の予想は大きく外れ、もらった言葉は冒頭の言葉だった。
「けれど、みよちゃんの気持ちも聞きたい。話す時間を作ってくれないか」
 
そうして現れたのは彼という名のはぐれメタルだった。
会いに行ったら核心にせまる話を一切せずお開きに。その次の週にもう1度会ったときには「ちゃんと話せていないからもう一度話そう」とうやむやに。
そしてさらに1週間経った先週、またうやむやでお開きにしようとしたので、「大切なことがあると思うよ」と話をしたら「ちょっと今体調悪くてその話は出来ない」と。
 
こんなことを言われた時点で普通の人だったら時間の無駄だと、さよならを言って連絡を絶つんだと思う。仲間だった彼はどこにもいなくて、今私の目の前にいるのは全力で逃げようとしているはぐれメタルなのだ。
 
私がかつて一緒に冒険していた彼はもういないし、二度と帰ってこない。
わかっている。でも私はあえてこう言った。
 
「わかった、話せるようになる準備出来たら連絡してね。待っているよ」
 
皆に話したらこう言われると思う。
ただのしつこい人だって。もうお前は何の見込みもない。彼だけが悪いわけではなく、遠距離恋愛を頑張りたいって思わせられなかったお前も悪いのだ。でも結局はどっちが悪いというわけではなく、縁がなかったんだ。だからもうそんな時間を無駄にすることしないで、逃げさせてあげなさい、と。
 
わかっている。
けれどこれだけは言わせてくれ。
別に昔のあなたに戻れなんて言わない。だけど、経験値だけは置いていけ。
私はボランティアで一緒にいた訳ではない。常に向き合いたいと思って一緒にいた。彼がしてくれたこともたくさんあるけれど、いつも2人でいい冒険が出来るように、あなたの話を聞いていたし、あなたのことを考えていた。あなたにベストな言葉は何だろう、どんな行動すれば喜ぶだろうと常に考えて動いていた。もしかしたら伝わっていなかったり、足りなかったかもしれないけれど、私はいつも全力で向き合ったつもりだ。
もしこのままあなたが逃げて去ってしまうのであれば、私はずっとひきずるだろう。逃げた幻影だけ追って、きっとあなたが帰ってきてくれるだろうとかまた昔の仲間に戻ってくれるのではないかと考えてしまうだろう。
 
だから、逃げる前に一撃くらわせてくれ。こっぴどくふってくれ。ボロボロにしてくれ。そうやって私のための経験値くらいは置いていけ。そしたら私は二度と追わない。
 
そうやって私は待つことにした。
周りから見たらプライドのない女なんだろうなと思う。
 
きっと私はまた誰かに恋をするんだと思う。今はどんなに傷ついても。
 
そしたら今くだらないプライドなんて必要ないのではないか。今やるべきことははぐれメタルを綺麗に逃がした後に想い出を美化することではなく、ボロボロに傷ついて、現実を直視して、次への学びを見つけること。だから、次の恋へ生かす学びという経験値が欲しいのは私の、相手への最後のワガママだ。
それすらも拒絶されて逃げられるかもしれない。でもそれだったらそれで、もうはぐれメタルになんか幻想は抱かないし、きっと現実は直視出来る。
 
今はどうなるか分からなくて、正直気持ちは暗い。
けれどどんな結果になろうと、いつか新しい人生という冒険の仲間を得て笑える日が来ることを信じている。
 
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2018-03-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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