プロフェッショナル・ゼミ

これからの時代は「お馬鹿」が世界を動かすぞ《プロフェッショナル・ゼミ》


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【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:関谷 智紀(ライティング・ゼミ プロフェッショナルコース)

どうも、この4月で小学5年生になる私の甥っ子は「お馬鹿」らしい。

このご時世である。
その甥っ子の名前は、ネットなどで公開されるといろいろ問題があるし、彼の将来的になんか影響があると悪いので、とりあえず彼の名前に使われている漢字一文字をとって、「タイガー君」ということにしよう。

さて、そのタイガー君についてである。
私とは4歳年の離れた妹が産んだ2人目の子どもなのだが、どうも物心が着く頃から、ポワーッとしているというか、いつもヘラヘラ笑っているというか……。
まあよく言えば天真爛漫、悪く言えば何も考えていない、と言うような性格で、母親である私の妹によく
「あんた、まだ宿題やってないの。さっさとしなさい」
とか
「あんた、また靴下脱ぎっぱなしでこたつの中に置いておいたでしょう、臭くってたまんないわよ。脱いだものはちゃんと洗濯カゴに入れなさいって毎日言ってるよね。どうして何度言っても、分かってくれないの」
とヒステリックな叫び声で叱られているのを私はよく聞いている。

そんな母親の声にも、タイガー君は泰然自若。「はーい」と口だけで返事して、こたつに寝っ転がりながら、そのままスマホでYoutubeの映像をじっとのぞき込んで笑っている。
どうも、今、お気に入りのYoutuberがいるようで、彼らのゲーム実況画面を見ながらケラケラと笑っているのである。それも、30分や1時間ではない。こたつに入りながら、同じ体勢でスマホの電池が切れるまで約5時間、その映像を見ていたこともある、ある意味ツワモノなのだ。

タイガー君には、4つ年上で今度中3を迎える姉がいるのだが、この子はなかなかしっかりした子で、スマホでゲームなどもしたりはするが、夜6時になると一旦それをやめ、こたつの上にノートとテキストを広げ、学校から指示された宿題を黙々とこなしたりしている。
その反対側で、タイガー君はこたつに足だけ突っ込み、半身で横になりながら、Youtuberの映像に没頭している。
時々、ケラケラとタイガー君が笑うものだから、気になったお姉ちゃんが「タイガー、うるさい!」と怒るとその時だけは静かになるが、また10分ほど経つとその繰り返し。
それが毎日、我が家のこたつで繰り広げられるのだから、まあ、タイガー君は学習能力が無いと言って良いのかもしれない。

さて、そんなタイガーくんだが、春休みの終わりが近づいてくると、母親である私の妹にこたつからまさしく首根っこを捕まれて悪さをした猫のように引っ張り出され、さらに私のお古である勉強机の前に無理矢理座らされると
ドン、ドン、ドンと教科書とノートを目の前に積まれて、
「あんた、宿題まだ1つもやってないでしょ。もう始めないと間に合わないわよ」と頭に2本角が生えて顔が真っ赤な鬼と化した母親に叱られ、ようやく「はいはい、やればいいんでしょ。やれば」となかば観念したように言いながら、算数のドリルや漢字のドリルに取り組むのである。

そんなシチュエーションを仕立て上げられて、流石に観念したのが、
「ボクはね、やるときはちゃんとやるだもんね〜」とか、
「ちゃんとやれば、こんなのあっという間に終わるんだもんね〜」
と母親と自分に言い聞かせるようにやや大きめの声でつぶやくタイガー君。

ようやく、やる気が出てきたか、という様子を見せたことに安心した母親がちょっと目を離した、その3分後。
タイガー君は、「ああ、もうダメだー。集中力が出ない」と、ノートの上に顔を突っ伏し、そのまま微動だにせず。その後2分ほどで、「スゥー、スゥー」っと寝息が部屋にこだまを始めるのである。

「お兄ちゃん。あの、話題のドリル、どこかで買ってきてくれない? あれなら、もしかしたら、タイガーもやる気を出すと思うの」
と、母親である私の妹はそういって懇願してきた。
本屋を巡って集めたドリルは、3年生から5年生の分の3冊。
「面白いもの買ってきたぞ〜」
と私がドリルを渡すと、タイガー君はまさに最愛の人に出会ったかのように目をキラキラ輝かせて、表紙のうんこ先生の絵に大興奮。
そして、俄然興味を持ったのか、早速開いて漢字の書き取りを始めるのかと思いきや、例文を1つ1つ朗読し始めた。
そして、「う○こ〜」と何度も口に出して大爆笑。
そして、おもむろに鉛筆を取り出したので、いよいよ漢字の書き取りを始めるのかと思ったら、ドリルの四角いマスの中に、見事に陰影の付いた、くるくるとぐろをまく「あの絵」を描き始めたのである。

世間を席巻した「うんこ漢字ドリル」もタイガー君の前では、敵にはなり得なかった。タイガー君恐るべし、である。

嬉々としてマス目に「あの絵」を描く様子を見ていた母親を横目で見やったら、オリンピックで小国の無名選手に1回戦で敗れた金メダル候補のような、まさに絶望の極みにたたき落とされたような表情になっていた。

そして、深いため息を1つついたあと、息子に聞こえないようにごくごく小声で
「私、この子を産んだの間違いだったのかもしれない」
とつぶやいたのである。
母親の落胆たるや、創造を絶するにあまりある。我が妹ながら同情するのである。

しかしながら、私はそのシーンに接して腹を抱えて笑ってしまった。
あまりにも馬鹿のメーターが振り切れて、こちらの想像を超えてしまったのである。

そんな大馬鹿なところがあまりにも可愛らしくて、
私も、またタイガー君の祖父、祖母にあたる私の両親もタイガー君を溺愛しているのである。

彼は、大馬鹿であるがゆえに、実に素直だ。

ばあちゃんに、「おい、タイガー。リンゴ剥いたぞー。食うか?」と聞かれれば、即答で「うん」といい、ぴったりばあちゃんに寄り添って、「あーん」と大きな口でりんごをパクつく。
じいちゃんに、「おーい、タイガー。腰痛いんだわ。ちょっと揉んでくれ〜」と言われれば、「はいはい〜」と言って、うつ伏せになっているじいちゃんの上に馬乗りになり、腰を揉み始める。
そして、「じいちゃん、今日はここが硬いですねぇ。どうですか、お仕事しすぎじゃないんですか」といいながら、満面の笑顔で祖父の腰を揉み続けている。

私にも、
「おじちゃーん、あのね〜。ちょっとソフトクリームが食べたくなっちゃったんだけど。チョコレート味の。おじちゃんがコンビニ行くときについでで良いから連れてって欲しいんだけどなぁ」とやや上目遣いで懇願してくるのだが、そのタイミングと口調が絶妙で、「こいつは可愛い奴じゃ」と思わせる事に関しては天性のものを持っているのである。

コンビニに連れて行くと、タイガー君は「はい、お姉さん。これお会計御願いします」とか、商品を渡されて「ありがとうございま〜す」と大声で言うので、店のおばさまたちには大人気である。
この間なんかは、こっそり「内緒だけど、これあげるわね」と小さなチョコの詰め合わせをもらっていた。
先日2月14日には、小学4年生の分際で、けっこうな数のチョコレートをもらっていたらしい。

彼は人から好かれるということには、天性の才能があるようだ。
彼の様子を見ていると、いつも屈託が無いし、誰に対しても笑顔で話をしている。人と会って話をすることが楽しくて楽しくてしょうがない、と言うように。

母親はどうも彼の将来を心配しているようだが、まあそれはそれ。

ある意味、私も祖父も祖母も、タイガー君が勉強が出来ようが出来なかろうが、正直大きな問題では無いのである。
それよりも、いつも笑顔で、彼は彼らしくケラケラと笑いながら日々を過ごしてくれた方が、よほど私たちも楽しいのである。

確かに、お勉強が出来ないとまあこのあと困ることが起こるのかもしれない。
でもそれよりも、グローバル化してきたこの世の中で、別の国の人だったり、初対面の相手にも臆せずに自分の素の姿を見せられて、信頼してもらえるんだったらそれは大きなアドバンテージになるはずだと私は考える。

世の中は、コンピューターやAIが発展して、自動で相手の話を翻訳してくれたりなど、段々と人間の知識や情報処理能力を補佐してくれるようになるだろう。
でも、人と人とのコミュニケーションの力は、まだまだ機械で補われるようになるには時間がかかるだろう。

そういう意味では、ある意味で、やりたいこと、思っていることを素直に出せる「お馬鹿」な性格のほうが、人と協力して何かを生み出せる可能性が高いのかもしれない。

変に知識をひけらかして色々言い訳から始まる相手より、お馬鹿でも、「まあ、とりあえず一緒に頑張ってみましょう」という相手の方が、一緒に仕事する相手として信頼できるという経験って、皆さんもあるでしょう?

だから、落胆している母親、私の妹に「そんなわけだから、タイガー君は馬鹿でもきっとやっていけるよ」と声を掛けたのだが、それを聞いた彼女はひとこと。
「お兄ちゃんは、部外者だし大馬鹿だからそんなことを言うのよ。私の気持ちも知らないで。勝手なんだから」
と言うやいなや、左手が私の頬に飛んできました。

いやぁ、どうも、対人スキルは5年生のタイガー君の方が相当上手のようです。

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