とびきり不幸な春を迎えて感じたこと
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記事:せんごくみよ(ライティング・ゼミライトコース)
「桜は今週末に見頃を迎えるようです」
テレビの中でニュースキャスターが桜の開花を告げている。
春がやってきた。温かい春。巷では飲み会がたくさん開かれて、会社の人だったり仲の良い人達や恋人や家族と、思う存分に浮かれる季節だ。
そんな季節なのに、私はちっともウキウキしていない。
むしろこのまま冬に戻ればいいのに、そしたら冬眠という名の引き籠りが出来るのに、と感じている。
最高に幸せな春になる、はずだった。
昨年の秋から、私は3月末の営業目標に向けてコツコツと努力していた。辛いこともたくさんあった。だけど私は諦めず、周りの支えもあってついに先週目標を達成することが出来た。本当に嬉しかった。家で1人飛び上がる位に。今までなかなか満足いく結果を出せなかった私だったので、余計に悲願が叶ったと、心の底から幸せだったのだ。
だけどその幸せは1日で終わった。
次の日私は失恋した。彼氏にふられたのだ。何も仕事の目標を達成した次の日にふらなくてもいいだろうと思う。失恋が先だったらまだ何とかなったかもしれない。だけどどんなにもうふられるだろうと分かっていても、誰かと別れる辛さというのはどんな嬉しさをも帳消しにするパワーがあるみたいだ。
ふられた次の日。私は抜け殻のようだった。何もする気が起きない。
とはいえせっかくこんなに天気が良いし、何しろ桜が見頃なんて今しか見られないと私は思い直した。好きなランニングをしに行こう。ついでに桜でも見て気分を紛らわせよう。
ランニングウエアに着替えて、地元の多摩川に走りに行った。
走りに行った瞬間に後悔した。
当たり前だけど人だらけだった。とてもじゃないけれど走れる雰囲気ではない。
そしてすれ違う人々は当たり前だろうけど、皆幸せそうだった。恋人らしき人達が手をつないで歩いていたり。家族らしき人達がシャボン玉を飛ばしたり。友達同士と思われる人達がお酒を飲んで談笑していたり。
ふと、別れた彼が言っていたことを思い出した。
ああ、これが「それなり」の幸せなのかなあ、と。
別れた彼はよく言っていた。「それなり」の幸せがほしい、と。彼は地元のトップの高校でそれなりの成績を収め、それなりの大学に行き、それなりの会社で今働いているらしい。もっと頑張れるかもしれないけれど、別に良いと。それなりの幸せを感じられるのであれば、いいじゃないかと。普通に生きていればそれなりの幸せを手に入れられるよ、と。
どうやら私は彼のそれなりの幸せには、必要ない人間だったらしい。
あの人達がそれなりに幸せな人間だったら、私はそれなりに不幸な人間なのだろうか。
皆楽しそうに談笑している中で、たった1人で桜を見ているなんて。こんなウキウキした季節に一緒に桜を観る人がいないなんて。
ここまで思考が及んだところで、私は心から叫びたくなった。
いや、違う。
この不幸を、それなりにされてたまるか。
私は紛れもなく不幸なんだ。心の底から辛いのだ。それを誰かと一緒に紛らわせる必要なんてないのだ。1人で不幸を心行くまで味わうべきなんだ。
なぜ去年から一生懸命仕事を頑張ってきて、その喜びを一瞬で奪われないといけなかったんだろう。それとは別になぜ私はふられてしまったんだろう。ずっと一緒にいたかった彼に。なんで一緒にいたいと思ってもらえなかったんだろう。それなりの幸せを一緒に味わえなかったんだろう。辛い。私の不幸は春の浮かれた気分で紛れることなんてない。
春は皆前向きなことを言う。辛くても新しい出逢いがあるよ、と。前を向いていれば新しいいいことがあるよ、と。だから色々な人と一緒に出掛けたほうが気が紛れるよ、と。
だけど今の私は簡単にそんな前を向けそうにない。わたしの不幸は紛れることのない不幸なのだ。なぜなら私はそれなりに幸せだったのではなく、とても幸せだったのだ。彼と一緒に過ごした日々はキラキラしていて、私にとっては宝物だった。夏に海へドライブに出かけたことも、誕生日を祝ってもらったことも、一緒にマラソン大会で走ったことも、家で鍋を食べたことも、なにもかも、全部。それが突然奪われて、それなりの不幸であるわけがないのだ。
だから私は前を向かない。それなりの幸せなんかいらない。浮かれた春に無理やり迎合して、自分の不幸を紛らわせるフリなんてしたくない。今は自分の不幸を心ゆくまで味わいたい。だから誰かとお花見は今年は行かない。浮かれた春だけれど私は冬眠という名の引き籠りをしようと思う。
次私が冬眠から目覚めるときは、「とびきり」幸せになろうと決意出来たときだ。いつか立ち直れたその暁にはとびきり幸せに一緒になれる人を見つけて、とびきり幸せになってやろうと思う。
見てなさいよ、あなたがそれなりの幸せをつかむ前に、私はとびきり幸せになってやるからな。
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