「ヘイ! ヘイ! 殻を破っていこうぜ!」
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記事:瀧本将嗣(ライティング・ゼミ平日コース)
「いいなぁ、僕もチューしてほしいなぁ」
保育園時代、仲良しだったのはトシ君。
トシ君は5歳にして追っかけが何人もいるイケメンだ。
「トシ君! チューしてあげる」
いつも女の子達から、ほっぺにチューをされていた。
しかし、僕は一度もチューしてもらう事なく卒園した。
小学生になると足の速い男子が人気があった。
僕は走ることが大嫌いだった。そして鈍臭いくらい遅かった。
中学生になって多少は運動ができないとヤバイと思った。
そして一番ゆるい運動部といわれたバレーボール部に入った。
バレーボールは多少出来るようになったが、それでも運動はまるでダメだった。
高校生になって混声合唱部に入った。
本当に音楽は大嫌いだったけど、大勢の観客の前で舞台に立ち、県大会に出場し、定期演奏会などのイベントをみんなでやり遂げた。
女の子とも普通に会話できるようになった。
それでも、クラスに帰れば文科系のオタク属性に分類されていた。
勉強も大嫌いで成績は悪かったが必死で勉強した。
二浪の末、なんとか地元国立大学の歯学部に入った。
同級生は、名門高校出身で現役の連中も多かった。
しかも歯学部が第一志望の僕とは違って、医学部に行けなくて歯学部に来た連中が多かった。
根本的な学力のポテンシャルの差を痛感した。
今度こそモテるか?
今度こそ自分に自信がモテるか?
自分のコンプレックスを、確実に克服しているのに何故、満たされないのだろうか?
自分が感じる、この空虚さは何だろう?
現実は自分のステージが上がれば上がったで、その度に上には上がいることを思い知らされる事の繰り返しだ。
「自分のことをわかって欲しい、受け入れて欲しい」という黒い想いは、いつも心のどこかにあった。
僕は昔から「神経質そう」「冷たく見える」とよく言われる。
自分がそういう印象を受けるのには心当たりはある。
「自分はコンプレックスだらけだし……」
「どうせみんなは、自分のことをわかってくれないだろう」
「こんなことを言うと、どう思われるだろうか?」
そんな気持ちから自分を守るために、心を鉄のカーテンで隠した。
自分の不安な気持ちを悟られないようにポーカーフェイスを貫き通した。
ちなみに妻は僕とは真逆のタイプだ。
天真爛漫でいつも周りには人が集まる。
真っ先に自分のコンプレックスや今の感情を口にする。
ある時、彼女に聞いた。
「よく自分のコンプレックスを堂々と言えるよね」
「え〜だって、自分から先に言ったほうがいいじゃん。そしたら誰にも突っ込まれなくなるよ。それに自爆ギャグは受けるよ!」
ハッとしたが、自分には到底できないと思った。
殻を破ることはなかった。
7年くらい前から、ある歯科医師の勉強会に参加するようになった。
自分よりも若い人が結構多い。
しかも僕よりも遥かに優秀そうだし、すごく輝いて見える。
ついに自分より若い連中に対して引け目を感じるようになってしまった。
情けない。
勉強会の後には懇親会があり、その流れで気の合う人達で2次会のカラオケになだれ込むことも多かった。
緊張で場に馴染めず、僕は淡々とカラオケを歌った。
歌は下手じゃない方だ。でも気取って見えるというか、浮いていたと思う。
突然、隣に座っていた、たけし先生が言い放った。
「ヘイ! ヘイ! 殻を破っていこうぜ!」
たけし先生は気っ風のいい漢だ。
新入りの僕を勉強会に早く馴染ませたいと思ったのだろう。
歌い終わった僕に、すかさずもう1曲促した。
「気取ってないで、もっと自分を出していこうよ!」
ぐびっ
ジョッキのビールを飲み干した僕は、振り付きで「自分の好きな曲」を絶唱した。
「いいねぇ! よかったよ! やればできるじゃん」
そのあと宴は深夜まで盛りあがった。
最後は全員で肩を組み円陣になって「栄光の架け橋」を歌った。
自分がコミュニティに受け入れられていることを実感できた。
彼は、飾らない素の自分を出すことを僕に求めた。
見栄とか世間体とかを気にせずに、やりたいことをやるたけし先生。
彼は年下だが、親しくなるにつれ僕は徐々に影響を受けた。
そんな飲み会を7年も続けると自分の考え方も変わってきた。
人から「イイね!」と言われたくて、「他人の価値観」に自分を無理に合わせるのはやめた。
そもそも、「他人の価値観」なんてあるのかな?
「これが主流」とか「みんなはこう思っているに違いない」と自分が勝手に妄想しているだけじゃないか?
つまり殻を自分で作っているのだ。
結局、見た目だとか、足が速いとか、頭がいいとか、強さとか関係ない。
たとえそれらを手に入れたとしても何も変わらない。
だったら、もうありのままの自分でいいじゃない。
結構、みんな受け入れてくれるよ。
自分に自信を持てず、どうしていいかわからない人も多いと思う。
他人がキラキラ眩しく見えて自己嫌悪に陥る人も多いと思う。
だからこそ、そんな君に、こう言いたい。
「ヘイ! ヘイ! 殻を破っていこうぜ!」
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