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締め切り前夜。やってくるあいつら。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:林新太(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「またやってしまった……」
 
 
あまりの後悔に布団に倒れこむ。時計は深夜の2時。
 
「何度同じことを繰り返したら気がすむんだ! 本当に……!」
 
 
 
明日は期末レポートの提出日なのに!
 
「今晩粘れば終わるっしょ」って言ったじゃないか! 俺!
 
何をやってるんだ! なんでこんなに部屋を綺麗にしちゃってるんだ! なんで洋服を色別に並べ替えてみたりしてるんだ! ペーパーモップで床キレイにするんじゃない! プリント類の整理とか、机からものを全部片付けるとか絶対今いらんだろ! なんで一文字も進んでないんだよ……。
 
 
 
……。気づけば朝だし。後悔しながら寝てるし。あーあ。間に合わなーい。もう知らなーい……。
 
 
 
 
もう何度目だろうか。大事な試験。大事なレポートの締め切り。プレゼン。今日準備しないと間に合わない、って時に限って「掃除欲」が突然襲ってくるのは。そして忠実にその欲望に従ってしまう俺は本当にダメだなと毎回思う。
 
キレイ好きってわけでもない。部屋が散らかってようが、いつもならほとんど気にならないのに。「締め切り前夜」だけ掃除したくてしたくてたまらなくなってしまうのだ。
 
「二度と掃除に逃げるもんか!」
 
なんなら101回くらいこう決心してきた。それなのに……。
ちっとも自分を信用できない。「逃げ掃除」の罠に何回はまってもこりない自分を。
そういえば。この「逃げ掃除」だけじゃないな。もしかして……物心ついたときからずっと俺は「逃げ掃除」みたいな人生を送ってきたんじゃないか? 無駄に綺麗になってしまった部屋にため息をつきながら、そんなことを思う。
  
 
高2の夏。生徒会の一番忙しい時期に、わざわざ語学研修になんて逃げてしまった。大学に入ってからだって、サークルの一番練習すべき時期にバイトを理由に休んでみたり。
昔だけじゃない。今だってそうだ。大学4年。周りは就活、就活、就活。その中で就活もしないで、大学院の入試の勉強もしないで、突然やったこともないプログラミングをはじめている自分がいる。今ここで、こんな文章を書いている自分がいる。
 
ずっとそうだった。一番しなくてはいけないことから逃げに逃げてきた。「脇道」にそれたフリをして苦しさから逃げ出し続けてきた。
 
「逃げ掃除」みたいな人生。
なんてピッタリくる我が人生のタイトルでしょう……。
 
 
はぁ……。まぁ、いつまでも布団の上でくよくよしても仕方ないか……。
とりあえず、大学に行くしかないか。これ以上単位を落とすとまずいし。
 
遅刻ギリギリだ。急がなくては。適当に顔を洗って、服をひっつかむ。授業関係のプリントを押し込んで、小走りで家を出る。
 
 
 
 
 
ん……?
 
 
おかしい。おかしいのだ。
 
 
こんなに早く出発できるはずがない。いつもなら、もっとタンスをひっくり返してマシな服を見つけなくてはなのに。持って行くべきプリントがなくてイライラするはずなのに。
 
 
 
なるほど、「逃げ掃除」ちょっとは役に立つってわけね。
 
「いやいやいやいや! コスパ悪いから!! 失ったものでかすぎだから!」
昨晩の自分の影に叫んで扉をしめた。
 
 
「ただいまぁ!」
 
急いで部屋に駆け込む。二日連続単位の危機だ。やけにキレイな机にパソコンだけをポツンと置いて、レポート作成。やけに今晩は集中できる。
「お、おわった……!」
 
深夜2時。今日は単位をもぎ取った。なんだか本棚周りがキレイになってしまってる気はするけれど。
 
 
 
充実感で布団に倒れこむ。
 
うーーーん、認めたくない。認めたくないけど……、今日は役に立ったな。昨日の「逃げ掃除」が。
 
「あいつさえいなくなれば」って思ってた敵が人助をするのを目撃してしまったような、そんな気分だ。
 
「二度と掃除なんかに逃げるもんか!」
 
ってこれまで何度も思ってきた。「一番大事なこと以外に逃げるものか!」 と決意してはすぐにそれを裏切ってきた。そんな自分が心から腹立たしかった。悲しかった。
 
 
でも。
 
そろそろ認めてあげてもいいんじゃないだろうか。
 
 
確かに、「本当にやるべきだったこと」をやりきることはできなかったかも知れない。決定的な失敗もしてしまったかもしれない。周りの人を傷つけてしまったかもしれない。
それでも、「明日の過ごしやすい環境」だったり、「英語力」だったり、「お金」だったり、「経験」だったり……。
 
ずっと「敵」だと思ってきた「逃げ掃除」は、「脇道たち」は、ちっともムダじゃなかったって。認めたっていいんじゃないか?
 
 
いや。もしかしたら最初からあいつらは俺を阻んでなんかいなかったのかもしれない。
本当の「敵」は、あいつらを「またやってしまった……」という「後悔」そのものだったんじゃないか? 
あいつらに出会った時には、怒るんじゃなくて、後悔するんじゃなくて、ただ褒めてやればよかったんじゃないか? 「お前のおかげでこれから効率マックスでレポートできるぜ!」って。
そんな自己肯定感が、「本当にすべきこと」を乗り越えるエンジンになってくれることもある、かもしれない。
 
 
 
いや。何よりもだ。そうやって「脇道」にそれにそれて、全く計画になかったようなことに時間をかけて、予想もしなかった力がついて。ボコボコ、デコボコした道が出来上がって。
 
そうやって人生は「太く」なって行くんじゃないだろうか?
 
実に不安定。無計画。それでも、「あいつら」と一緒の人生もそんなに悪くない。

 
 
***

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2018-04-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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