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人生は長編のロールプレイングゲームだ


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記事:中林ゆうこ(ライティング・ゼミ ライトコース)

 
 
「今日はあっちの布団で寝る」
と、ある日急に、5歳の娘が言ったのだった。
「え、お母さん、いなくていいの?? 手繋がなくて大丈夫なの??」
と、言葉にすることはこらえたが、私は少なからず焦ってしまった。
 
娘が生まれてこの5年、妹が生まれる時に私が入院したとき以外、ほぼ365日、私の横でないと眠れなかった娘が「一人で寝る宣言」をするなんて。
そんな時期が来るなんて……。
それはもちろん、当たり前にいつかは来るのだけど、本当に来ることをリアルに想像したことがなかった私。
 
人が成長して、自分から離れていってしまうことって、なんかうれしいけど、ちょっと寂しいものなのだな。
成長していく過程では、誰しもがそうだろう。新しいステージに行くために、今まで頼りにしてきた人から離れていく。一人で寝るようになった時。一人部屋を持つようになった時。一人暮らしをするようになった時。私もそうだった。
成長するばかりだった自分はまだ、誰かに離れていかれる身になったことってなかったのだ。
親になって初めて親の気持ちがわかる、とはよくいったものだ。
いつかの私の両親が経験したであろう、嬉しさと、少しの寂しさを、今度は親となった私も、これから幾度となく感じていくに違いないな……。
 
社会人になってしばらく、歯を食いしばって仕事をしていた時期がある。私と同僚が出向したのは、旧態然とした昔ながらの職場。私たちは、仕事にやりがいを求め、勤務時間を超えても納得のいく仕事をしたいと思っていたが、定時には、さっと人がいなくなるその職場の人とは、仕事のやり方を巡って、ことあるごとにぶつかった。
 
その旧態然組織の先輩職員に言われたことがある。
「そんなに熱心に仕事しなくても、そこそこでいいんだよ」
そんな言葉に反発してきた、出向一年目の私たち……。
 
その次の年、私の職場から新しく出向してきたやる気満々の後輩・相原くん。心をこめて精一杯の仕事ぶりを発揮する彼に私がかけた言葉は……。
「まーその仕事は、そこそこでいいんだよ(気持ちはわかるけど)」
 
えー、私、1年前の先輩と同じセリフを言ってしまった!
ものすごくショックだった。たった1年でその環境にそれなりに順応していた私に。もちろん、仕事への熱意はまだ持っていたから、そこは力を抜いていいよ、という意味で言ったのだけど、頑張る後輩に、「そこそこでいいよ」なんて。
その年に私がもらった人生の役柄は、旧態然の組織に(少し)染まってしまった職場の先輩、だったのだ。もしかしたら私に「そこそこで」と言った先輩も、私の気持ちはわかるけど、と思いながらもそう発言したのかもしれないな……。もちろん人の気持ちなど、どこまでいってもわからないけれど、考えられる気持ちの幅は役柄を重ねる度に広がっていく。
 
結婚をする前は子を持つ親の気持ちが分からなかった。
お店でグズル子どもをちゃんと叱れない親は一体何をしているのだろう。
などと、思ったりしたこともあった。子どもを持った今はその対応は分かる。下手に怒ったりしたら、火に油を注ぐようなものだということを。
 
人生はロールプレイングゲームなのだ。
いろいろな人生の役柄を演じることで、世界が広がる。
役柄ごとに感じる幸せ、辛さ、楽しさ、達成感。どん底。
 
私たちができることはなんだろう。
その役柄を演じきる、気持ちを味わい尽くす、ということをしっかりとしていく。幸せを感じるは充分その幸せ感に浸る。辛い気持ちの時は、充分悲劇のヒロインになりきる。ある意味、今はこういう時期なのだと客観性をもって、人生を考えることができるかもしれない。その人なりの決断の、点と点が繋がって人生の道筋ができていく。
それを積み重ねた先には、いろいろな時期があったけど、味わいのある人生だったと思える自分がいるのではないだろうか。というか、いるといいなと思う。
 
今の私は子育てにドタバタの毎日をすごす主婦だけど、この先娘たちも、1人で寝るどころか、家を出て、1人暮らしをして、自分の家庭をもつのだろうな。娘が海外勤務の仕事について、なかなか会えない生活になるのかもしれないな。毎週末のように孫攻めにあって、ヒィヒィ言いながらも楽しんでいる、母のような生活になるのかもしれないな。
 
なんて哀愁に浸っていたら、次の日には娘は、「今日は手を繋いで寝よう」といってとなりにもぐり込んできた。
「なんだ、昨日のはフェイントかよ!」と心の中で思わずツッコミを入れた私だったが、しばらくはこの幸せの時間に浸ろうと思う。
 
 
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2018-04-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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